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テークエム 2nd AL 『Communication』 RELEASE ONE MAN LIVE 大阪 感想

かねてより敬愛しているラッパー、テークエムのセカンドアルバムリリースワンマンライブが開催され、11月19日の大阪会場に参戦してきたので記憶が薄れないうちに色々と書き留めておく。

以前書いたnoteの頃からテークエムの活動をそれなりに追い続けており、先日公開された告知サイトから先行予約の通知メールが届いた瞬間、待ってましたとばかりに飛びついた。それが功を奏しなんと最前列近くの整理券を確保することができた。
ファーストアルバムはリリースされてしばらく経っておりワンマンも直近では開催されていないようで、まさに待望のライブのお知らせだった。
ただ、そもそも私自身音楽のライブにはかれこれ4年ほど足を運んでおらず、またHIPHOPは未経験だ。
さらに、今振り返ってみるととにかくひたすらにアホなことだが、当日の朝から昼過ぎまで職場の付き合いでマラソン大会に参加した上で夜にライブという強行日程であったため、本当にライブを楽しんでノリきれるだろうかと一抹の不安を抱えていた。
まぁ、結論から言ってしまえばそれは杞憂だった。

フロントアクトとして登場したPM KenobiとIKEはテークエム曰くもっと認知されるべきやばいラッパーとのことで、その触れ込みに違わぬスキルとグルーブに熱を帯びていく会場。
畏れ多くも初見で耳も慣れておらずリリックを全ては聴き取れずとも、個人的には『Superstar』が好きなノリで耳に残っていた。これは要チェック。

そしていよいよテークエムの出番、『Communication Freestyle』のイントロが鳴り出す。
ここに来たファンは皆この日までアルバムを何度もループして聴き込んでいたはずで、それだけに現場特有の身体の芯に響くような重低音、そのいつもと違うサウンドに息を飲み、ここだけでしか味わえない特別な高揚感を覚えたことだろう。
イントロに乗せてテークエムが所属する梅田サイファーの面々からの前口上コメントが寄せられる。
その内容はいつもの梅田サイファーといった感じで個性豊かにアルバムのリリースを祝福しており、書籍の帯に書かれているようなアレが音楽ならこんな感じなんかな~と想像してみるとちょっと面白かった。
そんなことを思っていると、彼がゆっくりとステージへ歩いてきて間髪入れず歌い出す。
“マスクに阻まれた 君との距離は遥か”のラインで始まるこのアルバムは、コロナ禍以降すっかり変わってしまったコミュニケーションの在り方を顧みて、ファーストアルバムとは異なる境地に達していることが示唆されている。
「約2年ぶりのテークエムワンマンライブ、Communication調子どう!!」

曲目は『GPS』と続いていく。アルバム以前にシングルとしてもリリースされたこの曲を聴いたとき、私はテークエムの、作品を通した表現のスタンスが変わりつつあることを察していた。
これまでは自分が気に食わないものへ中指を立てたり自身の内面に向き合うような自己完結的な曲が多かった一方、GPSをはじめとした今回のアルバムの曲は他人の存在へとフォーカスが向いてきており、それも救いのように温かいイメージがある。
何よりもこの日、優しくも力強く手を差し伸べるように歌うテークエムの姿が確かにそこにあった。

途中のMCで本人が「このライブでは写真も動画もOKやから、むしろどんどんSNSに発信して宣伝して!TikTokとかでも!笑」と言及していた。
最近ではライブ映像が世に出回ることが増えてスタンダード化してきたように思われるが、撮影することが憚られる風潮も一定数あり、こうして明言してくれたのは何気にありがたいことだ。
おかげで私はところどころ動画を録りながらも、やはりあくまで生で目と耳に焼き付けることを大切にしてライブにも夢中になれた。

また、ゲストのR-指定やELIONEといったスターとも言えるラッパーとも初めて生で会えて純粋に感激だった。
Communicationで客演として参加している曲だけでなく、ファーストアルバム『THE TAKES』の曲やそのリミックスも多くセットリストに組み込まれており、テークエムとの贅沢な掛け合いと想像以上の内容の濃さに圧倒されるばかりだ。

ゲストと言えば、この日のライブ会場にはなんとテークエムの家族や地元の友人も招待で観覧されていたようだ。
THE TAKES収録曲『Mes (s) (feat. Kvi Baba)』“怯える妹と手を繋ぎ眠り おれは出来るだけイイコの演技 わざと前髪グチャグチャに切って 泣いてる母親笑わせにいく”からCommunication収録曲『たまに思い馳せるよ尼崎』“実は言ってなかったんだ家族に音楽 そんな時 ママから送られてきた 妹の娘がFirstTakeのおれのバースを歌う動画”と順に歌い上げられるリリックと、その家族が今ここに居るという事実だけで、多くを語らずとも長編小説の結末を読んだようなカタルシスを感じる。
そしてトレードマークのサングラスを外してアイコンタクトを送るテークエム。
その視線の先には“小川 池田 早崎 浅野”たちも居たのだろうか。
余談だが、たまに思い馳せるよ尼崎のように地元を極めて具体的に歌う曲と言えばZORNの『STAY GOLD』も私のお気に入りでおすすめなのでぜひ聴いてほしい。そういう趣味なのかも。

ここまで書いてみたが、良かったところを挙げると正直キリがない。
Maji De Naeru Ze』『それじゃ無理』のフック合唱はバイブスマシマシだったし、導入からアカペラの『Leave my planet』は心洗われるような気分だったし…あとアンコールでの『Poltergeist (feat. ふぁんく, peko, KennyDoes, KZ, KOPERU, KBD & R-指定)』は一番期待していた曲なので本当に嬉しかった。ゲストに梅田サイファーの面々が並んでいた時点で確信してた。

総括してみると、安直ながらアルバムのタイトルそのまま、コミュニケーションで満ちたライブであったと思う。たくさんのメッセージを受け取ったし、ファンも思い思いの気持ちを送っていた。
終幕後にどこからか聞こえてきた「こういう言い方あんま好きじゃないけど、これ観れたからもう死んでも良いわ」という会話。150%同意した。ちなみに50%はマラソン上がりで身体的にも死にそうな分だ。
この日の深夜にもアフターパーティが開催されていたようで、さすがにそこまでは行けず残念だったが本編のみでもとてつもないボリュームで満足できて良かった。
今ならXで「テークエム」と検索すればライブの模様が収められた動画がたくさん見られるので、参加できなかった方はぜひとも見てほしい。

ライブの終盤、テークエムは「良い方向に向かってる」と語っていた。
前述したように、Communicationはこれまでとは違う、ひとつの殻を破った様が見られるアルバムだ。不謹慎な話だが、感極まって涙を流すファンも居て、それを横目に泣けるほどの境遇にない自分の浅さが悔しいとすら思うほどに救いの力がある。
元々『I'm CLEAN...』や『Wake up on garbage』といった、どちらかと言うと攻撃的なタイプの曲に惹かれていた私だが、今ではナイフを捨てて手に持つマイクをメスと称したテークエムというラッパー本人の行く先を見届けたいとも思う。
次こそはアフターパーティまでぶっ通しで追いかけてやろう。

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