図1

「逆イールド、破滅の前兆」から

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三点に注目したい
 1.相場は心。群集心理のコントロール。
 2.ロジカルな判断と心情的判断の関係
 3.現実的想像は、現実として創造される。

関連代表記事 Bloomberg 2018年12月5日 11:52 JST https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-12-05/PJ8PAU6KLVR801
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A 2018年12月03日、米金融市場において、3年債と5年債の利回り格差、即ちスプレッドがマイナスに転じた。「逆イールド」生成である。


B 金融に疎い人でも、「逆イールド」がおかしいということは理解できると思う。単純に言えば、短期金利が長期金利よりも高くなった状態である。


A 時間差、という概念は重要である。或いは、バッファーでもいい。即ち、入出力間にタイムラグが発生する。例えば、重要な政策目標にインフレ率・雇用安定化があるが、これらは景気の変化に対して感度が鈍く、時間をおいてから変化を始める。ここで起きることは、金融政策としての打ち手が後手に回るということである。


B 好景気時に金融引き締め策をとったとしても、その効果は、遅延して現れる。よって、心情的に理解しやすいが、過度な引き締めを行ってしまうことがある。これが逆イールドカーブを産む。


A FRB(Federal Reserve Board, 連邦準備制度理事会)は、政策金利としてFF(フェデラルファンド)金利を採用している。FF金利は短期金利指標であり、短期金利は政策金利に収斂する。一方、長期金利を形成する基本因子は、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)にある。つまり、ファンダメンタルズを上回るような利上げにより、逆イールドが生成してくる。


B 将来的に景気が悪化するから、長期金利が上がらない。このような解釈も成立する。


A 一般論として、国債利回は、国債価格と反対に動く。価格が上がれば、利回りは低下する。そして一般的に、「未来は明るいぜ!」という未来景気に楽観的な投資家が増えると、長期国債を売却して株式を買う傾向が強まるため、長期国債の利回りが上昇してくると考えられる。短期金利が一定であれば、イールドカーブの勾配が大きくなっていく。


B 逆もまた然り。「いや、もう無理でしょ。」と景気先行に悲壮感を抱く投資家が増えると、株式を売却し長期国債を買う傾向が強まるため、長期国債の利回りが低下すると考えらる。短期金利一定であれば、イールドカーブがフラット化していく。


A 歴史的にみると、逆イールドを、バブル崩壊のサインとして読みたくなる気持ちもわかる。グローバルな上昇相場が急転換した1980年、1990年、2000年、2007年について、アメリカの逆イールドという状況が共通しており、FRBの利上げが存在している。


B 解釈として、銀行からみた貸出利鞘が長期・短期の間で縮小するために、貸出が抑制されるとも考えられるが、あくまでも1解釈でり、理論的根拠には乏しい。


A また、逆イールド現象については多くの議論が重ねられているが、FRBから2018年6月に(Don’t Fear) The Yield Curve*1というレポートが発行されている。これによれば、長短金利差に複数のノイズが盛り込まれ、縮小しやすくなっているという。ノイズは、市場参加者心理で決定される中立金利の低下、 長期インフレ期待の低下、タームプレミアム(FRBの金融政策に由 来)の低下である。即ち、景気の先行予想が困難になっており、イールドカーブと景気の関連性について、信憑性や精度が下がっているという。


B 過去の傾向がそのまま当てはまるほど単純ではないが、相場は心、であることを考えると危険信号が灯っていることは否めない。即ち、イールドカーブの逆転劇自体は原因ではなく、それは群集心理のベクトルを合わせるトリガーとして機能する。直接的に景気後退を引き起こすのは、群集心理(群としての主観的事実)であり、逆イールド生成により景気後退懸念が喚起されることが、現実の景気後退を呼び起こすと解釈する。


A 注意したいのは、「過去の傾向」が強く広く繰り返し主張されるほど、それが心理的に蓄積され、少しの変動に対しても敏感になってしまうということ。そして、群としての潮流は、人の数ではなく、そこで動くMONEYの量に多分に依存しているということ。


B 「いつまでも好景気は続かない」というのは、ほぼ常識として人々の頭に刷り込まれている。よって、上昇相場が長引くほどに、「そろそろ…」という警戒感が産まれてくる。最近の株価不安定な状況やIT企業を筆頭にした業績不振は、警戒感を高めてきた。


A 2018年12月04日には、逆イールドを起点にして、株式の強制アンダーウェイトという流れが生成され、売注文が急激に膨らむことで、米株急落を招いた。重要なことは、この現象がプログラミング的流れを汲んだものであっても、「逆イールド発生により株価が下落した」という事実に多くの人々が直面し、逆イールドと景気後退という関係性を強く意識し、本格的な景気後退へと自ら(群衆として)突き進んでいく可能性が高まったということである。


A 換言すると、「逆イールドは破滅の前兆」と騒げば騒ぐほど、破滅が現実化する確率が高まっていくことになる。現実的に想像したことが、現実として創造されることになる。


B アメリカと中国の関係に代表されるイザコザに明るい見通しが立つだけで、「逆イールドは破滅の前兆」と騒いだのが恥ずかしくなるような未来が有望になる可能性も高い。現在のアメリカの金融的指標(強い成長、インフレ率、失業率など)が全て良好であることをベースに、逆イールド現象は1つのリスク因にすぎず、マークすべき指標の1つに過ぎないと考え、市場を注視するのが無難である。


A 相場に限らないが、合理的かどうか、理論的かどうか、科学的かどうか・・・とは別に、「群集心理の動き」に作用する主要因子をマークしておくことが、非常に重要である。当然、利用することもできる。


*1 FEDs NOTE June 28, 2018  (Don't Fear) The Yield Curve    https://www.federalreserve.gov/econres/notes/feds-notes/dont-fear-the-yield-curve-20180628.htm

/2018.12.06 JK

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