図1

「高速炉ASTRID、凍結」から

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三点に注目したい 
 1.本音と建前
 2.READYという牽制力
 3.公言の可能性

関連代表記事 日本経済新聞 2018/11/28 19:01
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3828678028112018000000/
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A 高速炉ASTRIDの凍結は、日本にとっては非常に痛手。表面側はエネルギー政策としての原子炉戦略をパーにするリスクが飛躍的に高まったということであり、裏側としては核準備国としての土台が崩壊する、即ち安全保障的に譲れないリスクが急浮上したということである。2018年6月には、米政府から、「日本が保有するプルトニウムの削減要求」*1があり、非核三原則や核準備国としての安全保障のあり方に、危険信号がともっている。


B 2017年3月20日、安倍さんが、(仏)旧オランド大統領とパリで会談し、日仏両政府として原子力分野での共同研究の推進などを柱とする合意文書に署名した。この中で、次世代型原子炉としてフランスに建設予定であった高速実証炉:ASTRIDの実用化に向け、日本もコミットすることとなった*2。この「高速炉」というのは、日本にとっては核燃料サイクルを回転させるためのKFS(Key Factors for Success)であり、「もんじゅ」廃炉が決定した状況の当時の日本において、もんじゅ後継炉としてASTRIDに目を付けたものと推察される。


A 原子炉周辺や複雑な言葉が多いが、実験炉⇒原型炉⇒実証炉⇒実用炉へと続いていく。またシミュレーションに支えられた業界であり、高度なシミュレーションと実検討を合わせながら、炉としての性能や安全性を追求していく。
  
・実験炉:技術の基礎を確認。新型原子炉の炉建設・開発のためのデータを得る。
・原型炉:発電技術を確立。最終目的が達成できるかどうかを確認する。
・実証炉:経済性を見通す。実用規模での技術実証や経済性の見通しなどを把握。


B 日本側としては、核燃料サイクル検討という名目を掲げることが、プルトニウム備蓄の正当性を強くサポートするために必要である。一方のフランスは、実験炉としてラプソディ、原型炉としてフェニックス、実証炉としてスーパーフェニックスを成功させ、それらの技術・ノウハウを保存した実績がある*3。即ち、世界で最も早く高速増殖炉を成功させた国がフランスであり、あえてアストリッドへと手を伸ばす必要性が不明確である。フランスが、東日本大震災の影響を冷静に分析し、高速炉開発や使用済核燃料の再処理に対する日本の自国依存度を高める戦略を、当初よりとっていたのであれば、アッパレ、としか言いようがない。


A 使用済みの核燃料は環境的にも、処理負担的にも、他国依存や責任転嫁という点でも、問題が大きい。そこで、使用済み核燃料からプルトニウムを抽出し、これを循環させる核燃料サイクルを、日本国として推進してきている。この循環が生まれれば日本はボトルネックの1つでもあるエネルギー問題から解放される。この大義を実現させるために、高速増殖炉やプルサーマルの開発に多額の国費と時間を費やしてきている。なお、プルサーマルは、使用済燃料を再処理して取り出したプルトニウムとウランを混ぜた燃料(MOX燃料)を、現在の原発(軽水炉)で使う方法のことであり、「プル」トニウムを「サーマル」リアクターで利用することから命名された和製英語である*4。


B 表向きの大義としてエネルギー問題を挙げられるのは重要。裏側にあるのが、高速増殖炉やプルサーマルで使うことになるプルトニウム。これを転用することで、数か月で核武装を可能にしていく。力によるけん制効果は、実物不在であっても発現する。いつでも「核武装できまっせ」というREADY状態をとるのは強烈なけん制効果を持つ。特に、日本の戦時的「狂気」は有名であり、日本的狂気と核武装の両方を同時に背負う状態は、どの国も許容不可能なリスクであろう。


A 原子炉由来のプルトニウムを、核兵器に転用できるのかどうか。日本のプルトニウム保有量は次の通り*5であり、時系列的にイギリス・フランスに大きく依存している。
  ・合計 47t
   ・内国内 10.5t
   ・内英国 21t
   ・内仏  15.5t


B 核爆弾の場合、未発では済まされない。所望の殺傷規模を確実に発現する必要があり、高い信頼性が必用である。この場合、プルトニウムとしてはPu239が主に利用される。しかし、軽水炉・原発で生成するプルトニウムについては、Pu240等の高次同位体が相対的に増加し、Pu239が~60%と減少する。このような同位体については、自発核分裂の半減期が奇数番のそれより極端に大きく、Fizzle収率を低下させ、原爆の核分裂が不完全になるとされる*6


A 科学的見地に立てば、使用済み燃料から抽出されたプルトニウムから核爆弾という実弾への展開は不可能であり、常識ともいわれる。この見解自体が妥当なのかどうかは考える余地がある。即ち、仮に「核爆弾への転用可能」という状況であった場合でも、それを公言することはまずない。原発推進派の立場に立てば、仮に転用可能であっても、「転用不可能」と主張するのが理に適っている。即ち、事実はどうであれ、表面上に浮上する情報としては、日本のプルトニウムはエネルギー政策の中で再処理権を活用し、核燃料サイクルを回転させるという明快で意義ある目的のために存在している、となる。


B 日本には大手はもとより秀でた技術を有する中小企業も存在する。プルトニウムのスペックが悪くとも、殺傷能力を落とした状態であれば、核武装可能ではないか。また、スパコンなどの大規模高速計算も可能であり、モノづくり(核武装)のデザインの大半を精緻なsimulationに委ねることもできる。デザインのしっかりした設計図があれば、作る部分は問題はない。いつでも核武装可能であるという準備状態にしておくことは、強力な軍事的牽制力になる。一方、建前として日本の現状では、それを公言できないのも事実である。


A 作らない。持たない。持ち込まない。とはよく言ったものである。原子力潜水艦を筆頭に、契約規定上は持ち込まれていないと主張するが、そこにメスをいれることは絶対にできない。持ち込まれているだろう。持たず作らずとも、いつでも作ることができれば、これは解消する。そのためには、原料を保持する必要がある。武装以外の名目でプルトニウムを保有する必要があり、見事な理由として核燃料サイクルという国家的エネルギー政策を貼り付けている。このようなストーリを仮定すれば、核サイクルの要となっているASTRIDが凍結されるのは、国家的軍事戦略の危機を招くこととなる。


B 日産・ルノーの件に国が首を突っ込み、日産経営陣のおくびを差し出すなど愚の骨頂であるが、日本には東芝周辺での実績がある。軍事戦略の重要要素をフランスに人質にとられたと仮定すると、日本政府は慌てふためき、嘗ての愚行を日産に当てはめるかもしれない。

 

*1 日本経済新聞 2018/6/10 2:00 米、プルトニウム削減を日本に要求
  https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31583890Z00C18A6MM8000/
*2 核情報 高速炉希望の星、仏高速炉ASTRID http://kakujoho.net/npp/ASTRID.html
*3 RIST(高度情報科学技術研究機構) 高速増殖炉スーパーフェニックスの即時閉鎖
www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=14-05-02-12
*4 日本原子力発電会社 www.japc.co.jp/index.html
*5 核情報 日本のプルトニウム保有量 
  http://www.kakujoho.net/ndata/pu_jp.html
*6 The Radiance of France: Nuclear Power and National Identity after World War I

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