図1

「自動運転車タクシー、米で始動」から

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三点に注目したい 
 1.不確実性の捕捉
 2.人の社会行動の変容
 3.既成事実

関連代表記事 自動運転ラボ 2018年11月15日 08:11
https://jidounten-lab.com/w-google-autonomous-taxi-201812
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A アルファベット傘下のウェイモが、2018年内に米国アリゾナ州において、完全無人配車(タクシー)のオンデマンドサービスを開始するとのこと。MaaS(Mobility as a service)と呼ばれて久しいが、このウェイモの進歩はMaaSの本格的幕開けに位置するのかと思う。


B ウェイモのアプローチには秀逸な点が複数ある。まずは、Google時代からだが、ワシントン州、カリフォルニア州、アリゾナ州、テキサス州、ジョージア州…と公道無人運転の実績を確実に積み上げ、累計1,000万マイルを走行していること。そして、アリゾナ州フェニックスという「許された土地」をフル活用し、通学、通勤、或いは買い物等の日常生活の足として、一般ユーザに自動運転車を利用してもらう商用テストを開始してきたこと。そして、2018年1月には、完全無人でのテストも開始していること。このような本当の利用状況を踏まえた実績を着実に構築しているのは、長期的ビジョンを持つフットワークの軽いチャレンジングな組織体としての特徴が、もろに出た結果であろう。


A フェニックスでのテスト走行には、400名ものユーザが参加している。導入車両は600台に及び、直近では100万マイルをわずか1カ月で達成している。驚異的なペースであり、サービス開始と共にこのペースはさらに上がると推察される。面白いのは、ウェイモが約8万台の自動車を発注したということだろう。2018年3月に、フィアット・クライスラーのパシフィカを6.2万台、ジャガー・ランドローバーのIペースを2万台購入する契約を、 今後約2年間で結んでいる。現状の投入台数である600台が133倍に増加する未来であり、ユーザ利用ペースが一定であれば、数か月で1.33憶マイルを走行する規模感となる。


B  重要なことは、ウェイモの躍進がリアル実証に局在していない点である。リアルとサイバーを見事に相乗させている。即ち、公道実証の700倍ものsimulation(バーチャル空間で自動運転simulation)を入念に行っており、現実世界での危険やアクシデントへの対応力を飛躍的に高めてる。これとリアル情報とが相乗し、完成度が飛躍的に上がっている。そして、今後の8万台投入という可能性と数か月で1憶マイルを超える走行距離を考えれば、不確実性への対応能力も身に付くこととなる。即ち、現時点ではリスク算定困難な不確実事象にリアル世界で遭遇する「機会(チャンス)」が巡ってくることとなり、それを核に、サイバー空間でのsimulationを更に進め、リアル世界での安全性・利便性へと反映可能になる。


A 自動運転という未来を考えた時に、最もケアすべき事項は、人間運転/自動運転の混同期間への対処である。自動化へと振り切った未来を構想し、それを実現するための戦略を構築し、パーツを1つ1つ揃えていくわけだが、これらが統合し1つの形として結実するかどうかに強いゆさぶりをかけるのが、自動運転と人間運転の混同期間のトラブルである。


B 自動運転車に、道交法のような社会ルールを逸脱するような指令を出すわけにはいかない。人間運転車が50~60km/hで通行する道路を、法定速度30km/hを上限に走行する自動運転車を想像してみてほしい。自分が車を運転していたら邪魔で仕方がないし、通行人であれば「(遅いから)まだ道路を横断出来る」と判断するかもしれない。或いは、自動タクシーであれば、停止線ごとに律儀に数秒間も停止しノロノロと走るタクシーに乗客として苛立つのではないだろうか。


A 自動運転用の専用レーンに自動運転用法定速度を新たに設定したり…といった策はいくらでもあるが、注意しておきたいのは、人間の順応である。自動運転の本質は、自動車という箱がサービスに変貌するという側面とは別に、「人間の社会行動を変容」させることにある。これが本質であり、未来の利益の源泉である。


B ウェイモの発注した8万台という車両を自動配車として公道に解き放つことで、自動配車を利用するユーザの心情は勿論、一般自動車のドライバー(の心情)との関係や、通行人(の心情)との関係を捕捉すべきである。人間の行動変容、言ってしまえば自動運転・自動配車という新しい事象に対する人間の適合性・慣れを、社会データとして採ることができる。これは、自動運転世界における重要な基礎データとなる。


A アリゾナのように「新しいこと(従来規制・ルールにはないこと)については、やってみて、問題点を炙り出し、それにルールをつける」という姿勢のある地域は、アメリカには比較的多いし、既成事実が出来ることで、このような地域がよりいっそう増えることは想像に容易い。一般住民からの圧力(要望)もかかるだろう。このような観点に立つと、アメリカのような文化的側面・地方裁量権、あるいは中国のような独裁体制が、新しいテクノロジーに対してどれだけ有利なのかを実感できる。


B ウェイモとしてはどのような戦略をとるのだろうか。ウェイモとしては、Fireflyを扱っていたが、これの開発及び生産を打ち切り、フィアットクライスラーのミニバン車をベースにした仕組に移行した経緯がある。機体としての個性、即ち、質、肌ざわり、香り、遮光性、ディスプレイ、机、BGM、ネット環境…といった乗り心地や内装などを車製造専門家に任せ、自身はMaaSとしての基本情報を吸い上げ、機体設計へとフィードバックしていく。このやり方はウェイモとしては重要であり、このプラットフォームにJAGUARやFCA以外のプレイヤーも乗せることが重要になってくる。自動車、部品、サービス…とアライアンスを広げ深めエコシステムとして醸成することが、重要となる。MaaSとして社会変容情報やサービス自体に紐づく情報は正の循環を形成しやすく、先行者としての優位性が成立しやすい。


A ウェイモの自動配車・タクシーサービスに対する不満やそれを通じて実現して欲しいことをオープンにして、常に先端を維持し、消費者をつかみ、MaaSとしてのエコシステムを成熟させていく方法もある。一つの転換点は、国を跨ぐタイミングであろう。この際に、その国に強いどの企業とタッグを組むのかが、UBERが中国から排他されたような未来を作るのか、侵略を成功させるのかをわけることとなる。

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