図1

「イタリア、ユーロ離脱」から

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三点に注目したい 
 1. 群集心理
 2.N次情報と真実
 3.地方創生

関連代表記事 REUTERS 2018年11月9日 / 19:41
https://jp.reuters.com/article/italy-budget-di-maio-idJPKCN1NE163
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A 2018年3月頃だったか、(イタリア)総選挙でポピュリスト勢力が躍進したことを契機に、イタリアのユーロ離脱問題が叫ばれ始めていた。イタリアの状況を鑑みれば、ユーロ離脱に走るのは奇行であることは明らかであり、離脱への本格的歩みなないものと考えられた。ただし、一番怖いのは、群集心理である。EU(という仕組)が諸悪の根源であるという思想が広がり、浸透する程に、脱ユーロという虚構目指した群集心理が強化され、周囲が見えなくなっていく。


B イタリアの財政収支状況は、2019年目標で対GDP比-2.4%。2001年から見ると、リーマン期を除き-3%前後で推移し、2012年からは徐々に改善している*1。一方、国際利回りを見ると、10年もので、2005年に急騰しその後は上昇トレンドを形成している*2。イタリアの債務はおおよそ2.4超ユーロ。これは、ギリシャの約10倍であり、フランス歳入と等しいといった規模感。EUからみると、潰すにつぶせない規模である。


A イタリアの規模になるとEUへの我儘も言いやすい。EUからみればルールを守れ!となるが、潰れてしまえばギリシャのような救済は不可能であり、ユーロ信頼失墜は免れない。しかし、イタリアが我を通して債務を膨張させ支払いを滞らせることになれば、イタリアの銀行におけるユーロ交換に制限がかかり、例えば国債が紙に代わる。


B ブレグジットやギリシャの件もあり、EUとしては、単に縛る集団から抜け出す必要があることは明確である。共同体であっても、より緩く自由度の高いネットワーク形成体に変貌する必要がある。イタリアからみれば短期でことを急いではいけない。どれだけ立派な輸出産業群を持っていても、ユーロから距離をおけば、生きてはいけない。イタリアとしては短期で国民感情等をコントロールしユーロを使いこなし、長期的な独立化へと計画するのは悪くない。


A ユーロという制約により今の不況が生じている。これが事実と乖離していたとしても、国民心情の中ではこれが現実化していく。この思想を引き延ばすと、世界に誇る産業基盤にいきつく。イタリアの産業基盤は輸出型であるため、通貨安政策をもって、グローバルに勝負していくべき。続く不況ということは、誇りの産業が滅びゆく結果をまねく。この真因がユーロにある(と思い込んでいる)のであれば、脱ユーロ化への歩みを進める方がよい。長期的にはこの群集心理とどのように向き合うかが重要になる。


B 視点が変わるが、イタリアの産業基盤は超優秀。日本の地方創成も学ぶべき点が非常に多い。日本においては、ソーシャルビジネスでの活性化や、ゆるキャラ・B級グルメ・観光…と似たり寄ったりの策が溢れて返っている。富創出基盤である産業を興し、その上に町を活性化させるソーシャルビジネスを乗せる方向性がより好適である。


A イタリアというと、サン・セバスチャン、コモの絹、サンタ・クローチェの鞣し、プロセッコワインのヴェネト…と、1,000憶規模で世界No.1をとる産業が各地域地域に根付いている。これは各地域がそれぞれテーマを持っており、産業基盤に対する共通政策を採れるということ。また、大きな枠での地理的表示も機能し、グローバルブランドとして成長させやすい。この規模感がでてくれば、極端な話、国がつぶれても地方が生き残るという現象が起こってくる。


B イタリアの地方活性化を支えているのが、地方分権の仕組と捉えられる。産業政策を洲(地方)に権限移譲し、アジアなどの低価品との差別性を出すためにグローバル展開前提での取り組みを支援している。重要なことは権限を委譲する先を明確にすることである。日本においては、ここが難しい。その上で各地方のテーマを一言で決め、そこに向けて多くの企業や人が集積する必要がある。


A イタリアの産業基盤は超優秀であり、これが低迷するのは、心情としても許せないと考えられる。特に、不況に直面する状況で「それがユーロのせい」という情報が流れれば、一次情報を無視して、N次情報として信じ込み、N次情報としての真実が群集心理として形成されることになる。ユーロとの付き合い方を考えるときに、群集心理に影響を強く当たる要素については、公正な情報を対等に公開していく必要がある。まずは政府レベルで短期コントロールをすべきだが、長期には、本当のユーロの状況を国民に開示し議論する必要がでてくる。

 

*1 Bloomberg Italy Offers to Cut Deficit From 2020 in Peace Offering to EU
https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-10-03/italy-lowers-deficit-targets-in-compromise-after-eu-criticism
財務省 日本の財政関係資料 http://tokai.mof.go.jp/content/000197580.pdf

*2 Bloomberg https://www.bloomberg.co.jp/quote/GBTPGR10:IND


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