図1

「真の欧州軍」から

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三点に注目したい 
 1.NATOというプラットフォーム
 2.プラットフォームと時代背景
 3.変革への道のり

関連代表記事 日本経済新聞 2018/11/14 1:20
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37730680U8A111C1EAF000/
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A 欧州の自立。これは長く議論されている議題であり、PESCO*1(常設軍事協力枠組)のような具体的活動も起こしている。今回、マクロン大統領の「真の欧州軍」の掛け声に対し、メルケル首相が欧州議会で「我々は真の欧州軍をいつか創設するためのビジョンを話し合うべきだ」と述べたのは、非常に重要である。


B 関連代表記事によれば、メルケル首相は反論しているトランプ大統領の意見(米国に対抗する欧州自衛の軍である、という指摘)に対して「欧州軍がNATOの補完になる」と述べたとのこと。しかし、これは言葉遊びにすぎるのではないだろうか。欧州としての自立を目指しPESCOのような取組で軍事力を強化する分には、一貫した総指揮系統は整備されないため、NATO>>EUという軍事力関係に落ち着きやすく、EUの軍隊はNATOを補完する要素になりやすい。一方、「EU軍」を創るということは、総指揮命令系統を有すということであり、NATO補完から逸脱できるようになる。


A 見かけ上は、NATOの枠組み内で「真の欧州軍」が強化されていくことになる。アメリカはもとより、NATOとの衝突もさけるのが妥当である。EU国民の90パーセント以上がNATO加盟国に暮らす現状からみても、建前と本音の使い分けは必須。宣伝文句は、NATO強化のための欧州軍強化、である。

 

B この視点で考えると、トランプ大統領が叫んできた「NATO予算の多くをアメリカが担い、不公平」という言い分は、嘗ての偉大なプラットフォーム戦略を破壊する行動であると考えることが出来る。NATOというのは軍事同盟であり、安全保障プラットフォームである。現代風に表現すれば、フリーミアムに「近い」プラットフォームでもある。


A NATO実体予算の70%程度をアメリカが担う代わりに、欧州各国はその費用負担が小さくなっている。即ち、プラットフォームに参画しやすくしている。これは例えば、「NATO内のX国への攻撃は、イコールでアメリカへの攻撃である」という解釈を成立させ、アメリカという保護力が西側諸国にいきわたるということ。見る角度を変えてみると、アメリカは、欧州各国の「国防予算を減らしている」と読むことができる。つまり、各国が欧州を脱して世界に攻め入るための軍事力が育つ、という未来を潰しているともいえる。


B 真の欧州軍というのは、欧州の自立を支えるものであり、即ちそのスコープは当然欧州の「外」にも向けられる。色々と不安定なアメリカ依存から脱却し、自前でロシアや中国に対峙できるだけの力を養うという方向性である。これはNATOというプラットフォームを創ったアメリカからみれば、根底思想が瓦解する事態であると言える。しかし、サイバー空間が前提になった今の世界においては、地政学的な最適連携のあり方も変化しているのは事実でり、旧来思想に根差したNATOが無価値化してきているという詠み方もできる。世界ポリスとしての機能は、生産性という面でみると、非効率だろう。


A EUからみれば、アメリカ依存状態のままNATOを瓦解させられてしまった場合、ロシアに真向から対峙することになるが、パワーバランスが悪すぎるという現状がある。これらのことを総合的にとらえれば、EU自立化を加速させるのは自然である。なお、交渉力でみればアメリカが圧倒的に上である。EUからみれば、アメリカは、頼りたいけど頼れないし、外したいけど外せない相手である。ゆさぶり攻撃を的確に繰り出せるのはアメリカである。


B 欧州が本当に独立への道をとるのであれば、変化の「過程」の設計が非常に重要になる。いきなり放り出されることになれば、プーチンの目が青く光るだけである。NATO体制を維持しながら体力をつけるという進み方は必須でり、この過程でアメリカのご機嫌を取ながら、各国との連携交渉や軍備増強を進めることになる。理想は、水面下で未来のEU軍の各パーツが作られ、ある時に一気に「EU軍」として頭角を現すこと。非連続な変化は、大きなことを成し遂げるときの、良質な戦略要素になる。


*1 EU Permanent Structured Cooperation (PESCO) - Factsheet
https://eeas.europa.eu/headquarters/headquarters-Homepage/34226/permanent-structured-cooperation-pesco-factsheet_en

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JK

ビジネスや経済などのニュースや日常の気づきを出発点に、「科学、心、モノ、デザイン」という4象限を操りながら、自由に発想していきます。発想や着眼の手助けや、思考の自由度拡大の糧になれば、何よりです。
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