図1

「7-11, 完全制御型・野菜工場開設」から

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三点に注目したい 
 1.フードセキュリティ
 2.食糧の未来とマクロ環境
 3.Agri-tech関連のベクトル合わせ

関連代表記事 財経新聞 2018年11月29日 12:22
https://www.zaikei.co.jp/article/20181129/480466.html
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A プリマハム子会社のプライムデリカとセブンイレブンジャパンが共同で、2019年1月より野菜工場を稼働させる。2020年にはサラダ7万食分のレタスを生産する計画であり、神奈川県相模原市のプライムデリカ敷地内に「Sagamihara Vegetable Plant」というセブンイレブン専用工場として稼働し、オペレーションはプライムデリカが担う。


B 機械制御であり、供給安定性が向上するとともに、計画生産管理効率が飛躍的に向上していく。また、SPA(speciality store retailer of private label apparel)の食版に近づく行動でもある。


A 植物工場の歴史は古いが、夢が潰えそうになる危機を乗り越え、事業収支をとれるまでに進化してきた。小国ながら農産物の輸出で世界2位のポジションを確立しているオランダは、古くからスマート農業への道を突き進み、植物栽培というフィールドでの生産性を飛躍的に高めてきた。


B FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations)*1の2013年調査によると、農産物輸出のトップはアメリカで約16.5兆円。これに次ぐのがオランダであり約10兆円もの輸出を行っている。日本は約3,500憶円(世界60位)である。オランダの国土は九州と同程度であり、人口は1,700万人程度。GDPは約7,800億USD(日本:約43,400憶USD)、農林水産業GDPは約130億USD(日本:約530憶USD)、一人当たりのGDPは約45,800USD(日本:約38,600 USD)*2。オランダが土地面積に対して限りなく多くの農産物を産み、それを輸出できている理由はICTであり、Agritechである。


A 植物工場の場合、完全オート式もあれば、セミマニュアルもある。例えば、完全LED化せずに、自然光をフル活用してLEDを補助的に機能させることもできる。太陽光・熱で発・蓄電し、それを空調や光、水、システム全体の管理に回すこともできる。人の労働を限りなく抑制し、農業という重労働を軽作業へと変貌させる。そして、何より、従来の農作物のKFSを打ち壊すのが、この植物工場という考え方である。即ち、2Dが3Dにシフトする。


B 歴史的に見れば、少量高付加価値の農産物を除けば、大規模生産できるかいなかが勝敗を決める因子になっている。大規模生産により固定費を分配し、単位野菜に係るコストを低下させてきた。ここで制約となっているのは、物理的フィールドであり、今後のアマゾン伐採といった行動を伏せれば、地球上における農地利用可能な土地はほぼ開拓済といってもいいのかと思う。このような制約条件のために、食料自給率の低下であったり、企業体としての調達リスクの増加という状況に直面してきた。このような中で、立体方向(z軸側)を有効活用できるのが植物工場であり、換言すれば無駄になっていた空間の有効活用を可能にする。アイドルエコノミーに属す。


A マクロ環境をみてみる。国連の世界の人口推計(2015改訂版)によると、世界の人口は76億人程度の現在から、2050年には100憶人を突破すると予想されている。2018年時点では55%が都市部に暮らすが、これが2050年には68%にまで高まり、都市局在化が進む*3。


B 人口が30%増加する未来に向けて、食糧生産量を+30%にすればいいのかというとそうではない。人々の生活が豊かになり、肉や乳製品などへの嗜好が強まる。当然だが、肉を作るためにはその餌となる穀物が必用であり、それを栽培する必要がある。


A ミネソタ大の研究によれば、農地作物(農業)が生産するカロリーの36%、作物が生産するたんぱく質の53%が、が家畜に与えられている。そして、作物を乳製品、卵、鶏肉、豚肉、牛肉へと転換する効率(カロリーベース)は、それぞれ40%、22%、12%、10%、3%に過ぎず、非常に非生産的であるとわかっている。これらのことから、現在の「豊かな生活水準の概念」を崩さないとした場合、+30%の人口増に対して+60%を優に超える穀物生産が必用になると言われてる*4、5。


B 既存の方法を延長してみると、土地という物理的制約があり、新しい土地がほぼ存在しない。この状態で収率を上げようとすれば、おのずと、農薬や遺伝子改良等の方向に動くこととなる。このような行動の全てが悪いわけではないが、土地を枯らしたり、蓄積して将来の人体へのダメージを産むという可能性もあるわけであり、安易にとるべき行動ではない。


A 更に、よく叫ばれる水不足も農産物生産に強い影響を及ぼす。2016年にScience Advancesに報告された情報では*8、世界人口の約66%(約40億人)が、1年間のうち1カ月以上も適切な真水の供給を得られずに生活しているとのこと。この現象は今後加速していく。2050年に向けて100億人にむかう人口増加に対して、UNESCOの報告による「人口増よりも早いペースで水消費が進んでいる」という現象が相乗することになる*9。グローバルな水不足は、水の獲得競争(戦争)を起こし、「水というもの」だけでなく、バーチャルウォータにもその矛先が向かい、貿易構造を変えると考えられる。


B このようなマクロ環境を総体的に捉えれば、フードセキュリティへと視点が向く。植物工場はAgri-Techの一つの形であり、ICTを利用した単位生産性の向上と、無駄であった空間利用という点で魅力的である。植物工場に限らず、ドローン・IR・AI…などを駆使したスマート農業や、FBN(Farmers Business Network)*6のような仕組みも含め、企業のゴーイングコンサーンや持続的社会という観点でのフードセキュリティに大きく貢献する。


A FAOによるとフードセキュリティは次の4要素のどれか1つでもかけた場合に、発現する*7。
  ・Availability (食料の入手可能性)
  ・Access (食料へのアクセス)
  ・Utilization (食料や資源の活用)
  ・Stability (安定性)


B フードセキュリティの危機感をもっている国としては、例えばシンガポールがある。食料の90%以上を輸入に頼る国であるが、干ばつや原油価格高騰の影響、卵とサルモネラ菌問題…などの現実を経験するなかで、自国でのフードセキュリティの積極的対応をとるように舵を切り、スマート農業(ハイテク農業)を推し進めている*10。


A フードセキュリティは日本国として重要な視点である。日本において、植物工場が事業に乗り始め、スマート農業や革新型農産物管理などが始まっている。しかし、それぞれのベクトルはバラバラであり、中小企業者が雨後の竹の子の如く存在する程度である。植物工場検討の中で、所定赤外線による農作物の鮮度維持検討なども進んだ。ドローン・AI・IRなどを組み合わせた、効率的農薬散布も進んだ。非効率なフローであった農業を工業化する取り組みがすすみ、多くの管理システムが生まれてきた。よき技術が散在している。フードセキュリティという観点でビジョンを示し、ロードマップ化させ、有能な企業・個人の力のベクトルを揃えたいところ。いつまでも、植物やバーチャルウォータを輸入できると思っていてはいけない。


*1  FAO http://www.fao.org/home/en/
*2 国連統計 www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/economic_development/globalstats/
*3 United Nations 2017 Revision of World Population Prospects https://population.un.org/wpp/
*4 Emily Cassidy et al,Redefining agricultural yields:from tonnes to peaple nourished per Hectare,Environmental Research Letters ,8(2013)
*5 National Geographic 2014年6月号 シリーズ 90億人の食 食を支える未来の養殖
*6 Farmers Business Network https://www.fbn.com/
*7 FAO Food security www.fao.org/state-of-food-security-nutrition/en/
*8 Science advances Four billion people facing severe water scarcity, 12 Feb 2016:
*9 UNESCO World Water Resources at the Beginning of the 21st Century (2003)
*10 植物工場農業ビジネスONLINE http://innoplex.org/archives/34972

/18.12.03 JK

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