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AI査定が本物の指標になれない理由


はじめに

chtGPTを始め、AIの進化はすさまじいものがあります。
夏休みの宿題の定番だった読書感想文も、chatGPTを使えばものの1分でその宿題は完結してしまうと聞きます。
これまたすごいのは、その文章は人間が書いたのか、AIが書いたのか見分けが付けられないくらい精巧なものであるようです。

しかし、本来の読書感想文というのは、本屋や図書館に行き、本を選び、本を読み、自分で思ったことを感想文として書くもの。

AIを用いることで「宿題を提出する」という目的を果たすことはできますが、本屋に行くことで偶然出会える一冊もなくなる。本を読むことがなくなる。自分で文章を書き綴ることがなくなる。
「読書感想文の提出」の過程にあるその全てがAIによって失われることは、自分で考える能力を無くしたり、文章を書けなくしたり人間形成に必要なものを構築できない要因になってしまうのではないでしょうか。

不動産業界にもAIの波は押し寄せています。
今回のテーマはAI査定が本物の指標に慣れない理由という内容で書いてみます。

不動産の査定はどのようにしているのか

私が当時不動産仲介の営業として働いていた時、AI査定というものはありませんでした。

周辺事例の比較

ではどのようにして査定をしていたかといいいますと、
・周辺の現在売り出し中の物件
・周辺の過去1年以内に成約した物件
これら2つの指標から3件程物件を選出し、坪単価を算出。

例えば、東京都港区北青山1丁目の土地80.00㎡(24.20坪)を査定をすることになったら。
・東京都港区北青山1丁目 土地 6,000万円 75.00㎡(22.68坪) 坪単価264万円 (売り出し中)
・東京都港区北青山2丁目 土地 9,500万円 120.00㎡(36.30坪) 坪単価261万円 (成約)
・東京都港区北青山2丁目 土地 9,500万円 110.00㎡(33.27坪) 坪単価285万円 (成約)

このように事例を選出します。

そもそも査定とは、「売れるであろう金額の算出」です。

そのため、査定依頼を受けた土地をもし売り出すとなると、これを前提に査定を行います。

現在坪単価264万円で売り出されている75.00㎡の土地が競合相手となります。
買主の心理としては、高いより安い方がいい。
そのため、依頼を受けた土地の方が売り出し中の土地より5㎡広いわけなので、
同じ金額で売出しをすれば競合には勝てそうだなと考えるわけです。

また、その売出し中の物件はいつから売りに出されているのかもポイントです。

売出し1ヵ月目なら、その金額が正しい指標になり得るかどうかははっきりとわかりません。
なぜなら、その金額で売れるのか、売れないのか、それが売り出し1か月目ではわからないからです。

しかし、これが売り出し6ヵ月目なら、その売出し金額は正しい指標にはなっていません。

なぜか。

売れていないからです。

通常、仲介では売り出しから約3ヵ月を目途に成約を目指します。
半年後ないしは1年後を目指して売出しましょう!と提案をする仲介の営業マンはあまりいません。

理由はシンプルです。

不動産の購入検討者層はSUUMOやアットホームを見る機会が非常に多いです。
そのため半年後や1年後もずっとSUUMOやアットホームに掲載をされていると
「なんで売れてないんだろう」と購入検討者層は思い、いわゆる「売れ残り」のレッテルを貼られることになります。

もちろんこれは地域性や流動性も加味されるので全てがこれに該当するわけではありませんが、
主に首都圏、都市部における仲介での売却についてはそんなイメージになります。

つまり、売れていない物件と同じくらいの金額で売りに出しても売れる可能性は低いので、
売出しの時期も確認をしたうえで金額を算出します。

流通性

また、そのエリアの流通性を加味する必要もあります。
北青山1丁目の土地は人気のエリアだから、売り出し中の土地と同じ坪単価で出さず、
もう少し高い金額、例えば坪単価270万円で売り出しても買い手がつくかもしれないなと考えます。

個別性

そして重要なポイントです。
個別性も加味しなければいけません。
個別性とは、土地の地型、前面道路の幅員、周辺の環境等、不動産の購入者が検討をする際の情報といってもいいかもしれません。
土地の裏にお墓があるより無い方がいい。
前面道路は狭いより広い方がいい。
土地の形は旗竿地より形のいい正方形の方がいい。

AIが決め手にならない理由

このようなステップを踏んで査定金額を算出するのですが、
AI査定だと、これらのステップを全て飛ばして、金額が算出される仕組みになっています。

不動産業界にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せており、
その代表格はAI査定になっています。

しかし、これだけAI査定が普及してきているにも関わらず、AI査定が売主にとっての決め手となっていないのはなぜでしょうか。

・金額の大きな売買になるため、AIだけの査定金額では心もとない。
・AIを信用していない。
・その金額が本当に正しいのかわからない。

様々な意見があると思います。

ここから読み取れる売主の心理は「その金額に根拠があるか」だと思われます。

話しを少し冒頭に戻します。

本来、踏まなければいけないはずのステップを全て飛ばし、金額を算出するのがAI査定ですが、
そのステップこそが全て根拠となっていることにお気づきでしょうか。

売れていないからこの坪単価じゃないな、
字型が良くないから、前面道路が狭いから、
これらすべては査定に必要な要素です。

つまり、坪単価の平均値から妥当な金額を算出するだけで、
不動産の個別性が加味されていないから金額の根拠を提示できないのがAI査定だと言えます。

冒頭にあった読書感想文の例を用いると、
「査定金額の算出」の過程にあるその全てがAIによって失われることは、自分で考える能力を無くしたり、根拠を持って説明できなくなったり、不動産仲介の営業マンに必要なものを構築できない要因になってしまうのではないでしょうか。

不動産仲介の査定金額は「売れる可能性のある金額」であり「売れる金額」ではありません。
だからこそ売主は売れる可能性の高い会社に依頼をしたくなるわけです。
可能性を高めるということは、その金額に根拠を持たせること。
なぜこの金額なのかを説明できない不動産会社はこれから先淘汰されていくのではないでしょうか。

「AIがこの金額を算出したので」ではなんの根拠にもなっていないので、そのような不動産会社はこれから淘汰されていくように思えます。

便利なものはうまく使えばいい付き合いができると思いますが、そればかりに頼りすぎていると、自身に必要なものが構築できず、なにもできない人間になってしまうことに警鐘を鳴らしたいと思います。


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