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【連載小説】新説 桃太郎物語〜第二十三章  (毎週月曜日更新)

【第二十三章 “秘めたる力”の巻】

青鬼は桃太郎をじっと見つめていました。

「…桃太郎。お前また覚醒しよったな…。何せお前はあの“赤鬼の力を受け継ぎし者”なのだからな…。」

『…。』

「…だが残念なことに…。今のお前からは力が感じ取れん…。」

『…。』

「…先ほどまでの方が骨がありそうだが…。」

『…。』

「…果たしてそれで私が倒せる……。」

青鬼がそう言っている途中で桃太郎が静かに言葉を遮りました。

『…青鬼…。』

「…っ…。」

『…お前のやったことがいいのか悪いのか…そんなこと問題じゃない…。価値観なんてものは、同じ出来事でも見る角度によって変わるものだ…。ただその中にも…絶対に犯してはいけない暗黙の決まり事がある…。それは…、てめー自身の為だけに誰かを利用して切り捨てることだ…。今回お前がやった事は、被害者本人も気が付かないまま死んでいった…。誰もお前に文句を言えないだろう…。…だから…』

その刹那、一筋の風が吹き抜けると同時に、桃太郎は青鬼の目の前で拳を振り上げていました。

『…俺が裁くっ?!?!?!?!』

強烈な破壊音と共に、青鬼は岩を五つ突き抜けて後ろに吹き飛びました。青鬼は思いました。

「…なっ…なんだ…今の攻撃は…。」

気がついた時にはまたしても桃太郎が目の前で拳を振り上げていました。

『…今のは猿の分…。次は犬の分だぁーーーっ?!?!』

今度は青鬼の腹目掛けて拳を一気に叩き込みました。

「…っぐぉぇぇ……。」

息が止まるほどの衝撃を受けた青鬼が苦しんでいる所にまたしても桃太郎は拳を振り上げます。

『…雉の分っっっっーーーーーっ?!?!??』

桃太郎は思い切り顔面目掛けて拳を放ちました。

先程よりもさらに強烈な破壊音と共に、青鬼は床に大きな穴が開くほどめり込みました。

「ぐわぁぁーーーーっ?!?!」

青鬼は心の底から思いました。

「…つっ…強い…強すぎる…。」

桃太郎はゆっくりと青鬼が倒れている所に近づいてきました。

「…なっなぜ…。私は赤鬼の力を手に入れたのだぞ…。」

すると桃太郎はこう言いました。

『…青鬼…。お前は何もわかっちゃいない…。赤鬼の能力はそれは素晴らしい“力”だ…。でもお前の“力”は赤鬼の足元にも及んでいない…。』

「…ばかなっ?!?…私は赤鬼からこの力を奪ったのだぞっ?!?!」

『…お前が奪ったのは、赤鬼の“力”のほんの一部にしかすぎない…。赤鬼は自分の“力”に溺れず、ただ純粋に日々その技を磨き続けていた…。赤鬼の圧倒的な能力は、その積み重ねがあってこそ圧倒的なのだ。…お前の付け焼き刃とは訳が違う…。』

「…くっ……。」

青鬼はゆっくりと立ち上がると、桃太郎に懇願にしました。


「…桃太郎…。お前のその能力も本当に素晴らしい…。お前のその力があれば…なんでもできるぞ…。…どうだ…私と一緒に世界を手に入れないか…。…私と手を組むのであれば…世界の半分をお前にやろう…。」

『…青鬼…俺は世界征服などに興味はない…。仮に世界を手に入れたいと思っていたとしても、お前なんかと手を組むつもりはない…。このままお前を嬲って殺すこともできるが、それだと俺の中に後味の悪いものを残すことになる…。さあ立て青鬼。これで本当に最後だ。最後は正々堂々決着をつけてやる。』

青鬼はそれを聞いて心の中で思いました。

「…桃太郎…。…この土壇場に来て、お前はやはり半分人間の半端者だ…。ごく短い時の流れでしか生きない人間の考え方をする…。“後味の良くないものを残す”とか、“人生に悔いを残さない”だとか…、そんな下らないものの考え方が命取りだ…。…私にはそれはない…。あるのは単純なたった一つの思想だけだ…。…たった一つ…“勝利して支配する”…それだけが満足感だ。…過程や方法など……。」

青鬼はゆっくりと立ち上がりながら叫びました。

「…どうでも良いのだぁぁーーーーーっ?!?!」

青鬼は桃太郎の目に自分の傷から鮮血を飛ばしました。

「…どうだっ?!?!この血の目潰しはっ??!?」

『…っく…。』

青鬼は目の見えない桃太郎に、思い切り殴りかかりました。

「…勝ったっ?!?!死ねぇぇぇーーーーーーーーっ?!?!?!?」

その瞬間、桃太郎は血で染まった両まなこをしっかりと開け、青鬼に言いました。

『…青鬼…お前の負けだ…。この一撃は…、お前の私利私欲に翻弄された…オニのみんなの分だ…。…うぉぉぉーーーーーーーーっ?!?!?!?』

桃太郎は青鬼の渾身の拳を避けながら、反撃の拳を繰り出しました。

「…のぉぐわぁぁーーーーっ?!?!」

桃太郎の渾身の拳は青鬼の顔面を確実に捉えました。

「…ばっ…ばかなぁーっ?!?…この青鬼がぁーーっ、この青鬼がぁぁーーーーーーっ?!?」
青鬼はこの世のものとは思えない程の悔しさをにじませたまさに“鬼の形相”で、そのまま細かい灰となり絶命しました。

流れゆく青鬼の灰を見ながら、桃太郎は呟きました。

『…おまえの敗因は…たった一つ…

        ……青鬼……たった一つの単純な答えだ…。
                               
               ………………。……お前は俺を怒らせた…。』

こうして桃太郎と青鬼の長きにわたる究極の戦いは、今まさに幕を閉じたのでした。

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