汝は貴腐なりや?

 超 微 生 物 群 相 発 生 !(ゾンビ・ショウ・ビギン!)

 ある少女の嘔吐から発生した腸内フローラの暴走は、いまや首都圏を覆い尽くそうとしている!
 灰色の菌津波が町を、人を襲い腐敗させていくのだ!東南アジア特有の高温多湿気候がこれを助長し、もはや制御不能。そして菌類の本能か、苗床をさらに増やすべく菌感染死亡者が次々と立ち上がる。
 ゾンビ・ショウ・ビギン!
 もはや東京は壊滅、これ以上の被害を阻止せんと各国首脳は核不拡散条約であぶれた核弾頭をありったけ用意して発射体制に入った。
 不浄は核で焼き滅ぼすべし!たった一つの真理を信奉する人々はそう決定し、安堵してマティーニを傾けた。

 そんなことを首都の人々は知らない。陸を行く灰色の津波と、それを泳ぐように乗り歩くゾンビ達から逃げることで手一杯なのだ!

 あれに見えるは避難民の群れ!
 巨大なつり橋を車で、自転車で、徒歩で駆け抜けていく。行く先では火炎放射器を携えた自衛隊が待機する。市民達を逃がした後、追い来る灰色津波を焼き滅ぼそうという魂胆だ!ゾンビに火炎放射は火葬の国で当たり前の発想である!

 だが見よ!無理だが見よ!顕微鏡視点で!
 カビは目に見えるものが全てではない。目に見えてる時点で大量の胞子が周囲に根を張っているのだ。灰色津波はカビ菌の塊だからその周りは津波より早くかびているのだ!

 体調が悪かった自衛隊員が嘔吐!即座にゾンビ化!武器を捨て同僚達にかじりつきゾンビ・パンデミック!避難民達は立ち往生せざるをえない。
 橋の上でカビ菌とカビ菌のサンドイッチ!具もゾンビ化するのでおかずパンではなくカビた餅だろうか!

 だがおかしい。群衆の中にいた少年は首をかしげた。
 行く手の人間がゾンビになるなら、自分達も既にゾンビ化しているのでは?気付いていないだけで自分も既にゾンビなのでは?

 だがそれは絶望に腐敗した悲観に過ぎない。真実は希望の発酵に包まれている!群集の中央で青年が叫んだ!

「全員固まって伏せろォ!」

 叫びながら青年は、腐り始めた!
 いや違う!そのロングコート姿がアオカビに包まれていくのだ!

「極度生育阻害物質(シールド・オブ・パティナ)!」

 いまやその姿はアオカビの塊だ。市民達は悲鳴を上げて後退、気絶するものもいる!
 だがシールドの名は伊達ではない。灰色の津波とゾンビがアオカビの不可視(人間の肉眼で)の領地に触れると次々萎んで枯死!

 しかし津波は津波!前列が萎んでも後列がそれをなぎ倒して侵攻する。津波は止められないのだ!

「だが本当に貴様等が津波ならばだ!」

 待ち構えていた少女がつり橋の天辺から跳躍、即座に全身から出血!
 いや違う、それはアカカビだ!

「溶解性生産物質(カーマイン・スパイネ)!」

 しなやかなボディラインを血管のようなアカカビ群に包んだ少女は上空から不可視(人間の肉眼で)アカカビ領地を灰色津波の上から叩きつける!範囲内灰色津波爆散!

 赤の少女は緑青の青年の隣に着地。だが2人に余裕はない。膨大な菌生産の苗床となったためカロリーが足りていないのだ。たちまち2人はうずくまった。

「へっ、かっこつけて飛び降りてくるからだ」
「火力ゼロのアンタのサポートでしょマヌケ」
「まぁまぁ2人とも」

 そこにあらわれる柔和な偉丈夫!すでに首から下はキイロコウジカビに包まれたマシュマロマン状態だ。だが市民は彼を恐怖するどころか、その周りに少しづつ集まっている。
 当然だ!

「万物消化酵素(ハニー・ハンター)」

 穏やかに彼が宣言するとその頭部もマシュマロマン化。さらに避難民とその周辺に侵食しつつあった灰色ゾンビ津波菌圏が発酵をはじめる。
 そう、発酵である!彼は敵を分解して友軍の栄養素に変えてしまうのだ!
 ワタアメのように甘い彼の周囲の空気は呼吸するだけで高カロリー摂取!適度な運動をしなければたちまち肥満してしまうだろう。

 だが赤と群青の黴騎士は市民がそれを呼吸しすぎる前に吸収、自らの体力を回復させた!

「サンキュー旦那」
「助かる」
「なに。先は長いからね」

 菌コロニーをまとう彼らは一通り談笑すると、避難民の中のひとりを差し招いた。

「さ、やっと見つけたぜ。リーダー」
「え?」

 3者に見つめられる少年のまわりからサッと避難民が逃げさる。三黴騎士はそれに構わず少年に歩み寄り、立位でそれぞれの騎士礼をとった!

「ここまで、よく人々を守ってくれた。細菌叢(キングス・フィールド)」
「え?」
「アンタの能力が必要だ。リーダーカッコカリ」
「ふざけんのはよせ。こいつは本物のリーダーなんだから」
「え?」

 キングス・フィールドと呼ばれた少年はわけが判らず目を瞬いた。

 だがこれは、はじまりに過ぎない。

 首都が核攻撃される前に。自衛隊がゾンビ・ショウを食い止めている間に。4人の騎士は全ての根源である腸内フローラの姫(ケオス・アジテーター)を滅ぼさなければならないのだ!

 いま彼らは菌の塊、化け物にすぎない。だがやがて彼らの戦いは栄光の発酵臭に包まれるだろう。

 その時まではまだ少しの時間がかかる。当の少年ですら、いまは当惑のモロミ樽で溺れている。

 彼はなけなしの生物学の雑学知識で3人に問いかけた。

「あなた達は、貴腐、してるんですか?」

【完!】

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