くたびれない離婚_帯あり

我慢しないで離婚!母子家庭が受けられる16の支援を紹介。

吉成安友『くたびれない離婚 - じっと我慢したまま、もう何年ですか? -』本文試し読み

皆さんは「離婚」と聞いてどんなイメージを抱きますか?
恐らく殆どの人がネガティブなイメージを持っていると思います。

けれど今はネガティブだけじゃない!
離婚を考えている人だけでなく、円満な結婚生活を送っている人も、もちろん独身の人も必見。
貴方のイメージ、覆されます!!!

今回は『くたびれない離婚 - じっと我慢したまま、もう何年ですか? -』(著:吉成安友)の試し読みを公開します!

くたびれない離婚_帯あり

(書影はAmazon Kindleにリンクしています)

はじめに


 近年、結婚した夫婦の3組に1組が離婚に至っています。
 そんな時代背景の中、私は、2007年に弁護士になってから、多くの離婚事件に携わってきました。
 これまで離婚事件でご依頼を受けた方の性別は、実は男女半々くらい。そして、離婚に関する制度等の説明をすると、男性からは男性に不利ではないかという話がされ、女性からは女性に不利ではないかという話がされますが、個別的事案では様々なケースがあり、一概にどちらともいえません。
 しかし、社会全体として見たときに、我が国では「男女平等」が本当の意味では実現されておらず、女性が我慢を強いられる場面がまだまだ多いということは言えると思います。
 ところで、離婚そのものの話ではありませんが、日本の民法は、女性にのみ「離婚後6ヶ月間」の再婚禁止期間を定めてきました。
 これに対し、最高裁は、2015年、その6ヶ月のうち100日超過部分について「違憲」との判断を下し、大きな話題となりました。
 実は、今回この本を書こうと思ったのは、この判決がきっかけです。この判決自体は離婚後の再婚の話です。ただ、この判決により、現代においても女性が不平等な立場に置かれている面があることを再認識させられました。
 2016年6月1日、最高裁の違憲判決を踏まえて、女性の再婚期間を離婚後100日に短縮する改正民法が国会で成立しました。しかしそれでもなお、社会的に男女平等が達成されていないことは明らかでしょう。結果、結婚生活にも影響をおよぼし、男性優位の考え方から、結婚が女性に対する抑圧になっていることがしばしばあります。
 また、離婚というとネガティブなイメージもまだまだ根強いと思いますが、本当に自分らしく、幸せに生きるためには離婚という選択肢をとるべき場合もあるでしょう。
 前述のように、私は離婚事件で女性側の弁護を専門にしているわけではなく、半分くらいの依頼者は男性です。
 ただ、これは逆に言えば男性の立場も女性の立場も知り尽くしているということになります。その私の立場から、今回は、抑圧された結婚生活にくたびれ、離婚を切望しているような女性たちの少しでも助けになればと思い、ペンをとりました。
「離婚」とは難しいものです。「離婚」をパートナーに納得してもらうというだけでも、容易でないこともあります。その上、財産分与や親権等種々の問題が関わってきますから、事態はしばしば泥沼化します。
「負けない離婚」、「くたびれない離婚」への道は平坦ではありません。それゆえ、正しい知識とテクニックを知ることが非常に重要なのです。
 たとえばあなたは、次のような考えは正しいと思いますか?

「親権は母親が取れるもの」〔→第5章へ〕

「一刻も早く離婚したい。なにもいらないと言えば、早く離婚できるはず」〔→第9章へ〕

「夫から色々ひどいことをされたけど証拠がないから、離婚できない」〔→第9章へ〕

「探偵に頼んで夫の浮気現場が撮影できた。さっそく写真を突きつけよう!」〔→第9章へ〕

実は、このような考え方は必ずしも正しくはありません。

「右の考え方の、いったいどこが誤りなの?」と思われる方もおられるでしょう。詳しくは、本文を読んでいただければと思います。

弁護士 吉成安友

***

第1章 時代は男女平等へ!


■再婚禁止期間6ヶ月の100日超過部分は「違憲」の判決

 「はじめに」でも書きましたが、今回この本を書くきっかけになったのは、2015年12月16日に最高裁が下した女性の再婚禁止規定についての判決です。離婚についての話をする前に、少しこの判決について話をさせて下さい。
 最高裁は、民法733条1項が「女性が離婚後6ヶ月を経過しないと再婚ができない」としていることについて、「再婚できない期間が100日を超える部分は憲法の定める平等原則に違反する」と判断したのです。
 これは直接的には離婚後の再婚の話ですから、それでなぜ離婚についての本を書くことになったのかと疑問に思われるかもしれませんね。
 しかし、私にとって、この判決は女性のためにこうした本を書こうと思わせるものでした。
 そう思わせた最大の要素は、この規定が現代においても女性が不平等な立場に置かれていることの象徴的な存在でありながら、私自身がこの規定についてそこまで深く考えたことがなかったということでした。
 「永久に再婚ができないわけではない」、「6ヶ月待てばできるのだから、大きな不利益はない」という意識がどこかにあったのかもしれません。しかし、女性のみに制約を強いるこの規定があることは、非常に象徴的な意味を持っています。
 そもそも、この規定は明治31年の旧民法が制定されたときに定められたものがずっと改正されずに残っていたものです。明治31年当時は、妊娠後6ヶ月くらいが経過しないと専門家でも妊娠を確定できないという事情があり、再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくしたり、再婚後に生まれた子の父子関係が争われる事態を防ぐために、こうした規定にも合理性がないとは言い切れませんでした。
 ただ、現在の医療技術、科学技術からすれば、女性にのみに不利益を課すことに合理性はありません。
 実際、この判決の中でも指摘されていますが、かつては女性の再婚禁止期間を定めていた諸外国がこれを廃止する立法をしています。例えば、北欧諸国は1960年代の終わり、フランスは2004年、韓国は2005年に再婚禁止期間を廃止しています。
 残念ながら、我が国では、憲法で「男女平等」を謳いながら、まだまだ本当の意味で「男女平等」が実現されてはいないと思います。実際、「世界経済フォーラム」は、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)を発表していますが、2015年度において、我が国は145か国中101位という非常に不名誉な順位になっています。
 こうした社会状況であるゆえに、苦しんでいる女性もたくさんいます。にもかかわらず、このような男女不平等の象徴ともいえる規定にそこまでの関心を持っていなかったという私のそうした考え方を反省するきっかけとなったのです。
 そして、もちろん、この判決は、最高裁が男女不平等の問題について本腰を入れて改善しようとしたという意味で重要な意義もあります。

■100日間の再婚禁止期間は仕方ない?

 ところで、最高裁が違憲としたのは、離婚から100日を超える部分で、逆に言えば100日間については合憲としています。
 これは民法が、婚姻中に妻が妊娠した子を夫の子と推定するとともに、離婚の日から300日以内に生まれた子と結婚の日から200日経過後に生まれた子を、婚姻中に妊娠したものと推定するとしていることと関係します。
 ここで、仮に、100日間の再婚禁止期間がないとして、ある女性が、Aさんと離婚した日に早速Bさんと再婚したとします。そして、結婚の日から201日目に子が生まれたとしましょう。この場合、Aさんとの離婚から300日以内なので、Aさんの子と推定されると同時に、Bさんとの結婚から200日が経過しているので、Bさんの子とも推定されます。すなわち、再婚禁止期間がないと、マックスで100日間、父親として推定される人が重複する可能性が出てくるわけです。

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 最高裁は、このような推定の重複を防ぐために、100日間の再婚禁止には合理性があるとしました。
 ただ、この100日間も女性のみに不利益を課すものであることは変わりありません。
 特に、現在では、DNA鑑定により、ほぼ確実に父子関係の有無が調べられます。確実に父子関係が確認できる以上、重複した場合には調べれば良いのではないかと思われます。DNA鑑定というと高額であるようなイメージもあるかもしれませんが、今は5万円程度です。口の中の粘膜を取るだけなので、お子さんにとっても負担は大きくないですし、時間もあまりかかりません。
 これに対し、最高裁判決の千葉勝美裁判官の「補足意見」(多数意見の補足をするもの)では、「推定の重複が生ずると、子が出生した時点では法律上の父が定まらないため、DNA検査の実施や父を定めることを目的とする訴え等によることになるが、これでは法律上の父の決定がかなり遅れる事態も想定される」として、これが子の利益に反するとしています。
 しかし、この点については、同じく最高裁判決の鬼丸かおる裁判官の「意見」(多数意見と結論は同じだが、理由は違うとするもの)に、「法律上の父が確定していない子も、社会生活は支障なく送れ、また、行政サービスも受けられるのであって、法的効果以外の場面においても、法律上の父が確定していないことによって子の利益や福祉が損なわれるような社会的状況はない」との指摘があります。
 具体的な場面を想定してみると、私も鬼丸裁判官の指摘に一理あるように思われます。女性の再婚禁止期間を設定しなければならないほどの支障があまり考えられないのです。
 100歩譲って重複により父を確定できないことが問題だとしても、私的には、重複が生じても、例えば、そのどちらかが優先すると決めておく規定を作れば、そのような問題は起こらないと思います。
 しかも、推定規定が本当に子の利益にかなうものかというと、それ自体疑問があります。例えば、夫のDVに苦しんで離婚した女性が離婚後300日以内に子を出産するも、別れた元夫にその存在を知られたくないために出生届を出せず、結果としてその子が無戸籍者になってしまうというケースも考えられます。
 法務省の調べでは、日本には533人(うち成人84人、2015年1月現在)の無戸籍者がいるとされていますが、これは氷山の一角であり「少なくとも1万人の無戸籍者がいる」と推定する市民団体もあります。
 皆さんは驚かれるかもしれませんが、実は、出生届を出していなくても、住民票に記載されることは可能です。
 平成24年7月25日付の総務省の通知で、「①民法第772条の規定に基づく嫡出推定が働くことに関連して、出生届の提出に至らない者について、②認知調停手続など外形的に子の身分関係を確定するための手続が進められている場合には、市区町村長の判断により、職権で住民票の記載を行うことができる」とされています。そして、住民票に記載がされれば、保険証の交付を受けることもできます。
 しかし、逆に言えば、DV夫に子がいることを知られたくないために、認知調停などを進めていない場合、住民票の記載ができず、保険証の交付も受けられません。
 これは、非常に深刻な問題です。このように、推定規定自体が深刻な問題を生じさせていることもある状況からしても、推定規定を絶対として再婚禁止期間の問題を考える必要はないのではないかと思われます。
 そして、先ほど、私の個人的な見解として、重複した場合にはどちらかを優先する規定があればという話をしましたが、おそらく後婚を優先するようにすることが実情に合っているように思われます。抜本的な改革としては、重複の有無にかかわらず、DNA鑑定で再婚相手の子と確認できた場合は、再婚相手との手続だけで父子関係を認めるのが良いのではと思うのですが…。

■100日以内でも再婚ができる場合も!

 とはいえ、最高裁の裁判官も、基本的には100日以内の部分も制限していこうと考えているようです。
 元々再婚禁止の規定には例外がないわけではなく、民法733条2項は、離婚時に妊娠していた場合には、出産の日からは再婚が可能としています。また、従来からの戸籍事務上、前婚の夫との再婚の場合や、夫の3年以上の生死不明を理由とする離婚判決によって前婚を解消した場合、女性が懐胎することのできない年齢(67歳)である場合や、3年前から音信不通状態にあり悪意の遺棄〔「悪意の遺棄」とは何のこと?参照〕を理由とする離婚判決によって前婚を解消した場合などにおいて、再婚禁止期間内の婚姻届を受理して良いとされていました。
 最高裁判決に付された6人の裁判官の共同補足意見では、医師の作成した証明書などがあれば、不妊手術を受けている場合、離婚時に妊娠していない場合は、再婚禁止規定の適用がないのが相当としています。
 そして、平成28年6月1日に改正民法が成立し、再婚禁止期間を6ヶ月から100日に短縮するとともに、離婚時に妊娠していなかった場合や離婚後に出産した場合には100日以内でも再婚が認められることとなりました。ただし、これは医師による証明書が必要です。具体的には、婚姻届提出の際に、①本人が前婚の解消または取消の日であると申し出た日より後に懐胎していること、②同日以後の一定の時期において懐胎していないこと、③同日以後に出産したこと、のいずれかについて診断した医師による書面を添付する必要があります。法務省のウェブサイトに証明書の書式があります。

■離婚の決断を鈍らせる、再婚禁止期間

 ところで、再婚禁止期間についての最高裁判決は、離婚のあり方とも全く無関係ということではないと思います。再婚が離婚の決断へ繋がる場合もあるからです。
 一般に、離婚してすぐに再婚すると眉をひそめられる傾向があるように思われます。しかし、離婚時には、すでに婚姻関係が破綻状態になってから長期間が経っていることが少なくありません。しかも、その婚姻関係破綻の理由が、夫のDVや、夫の浮気などであったらどうでしょうか? 「離婚してすぐ再婚するなんて…」といえますか?
 実際問題として、そういう場合は少なくありません。
 また、当然のことながら、離婚は、妻から求める場合だけでなく、夫から求める場合も多くあります。夫から「好きな人ができた。離婚してくれ」と言われ、思い悩んでいるときに、親身に相談に乗ってくれた男性と恋に落ちるということもあります。そして、「離婚が成立したら、俺と結婚しよう」などと言われたら…。夫のほうはすぐに別の女性と結婚できるのですから平等とは言えません。
 苦しい思いをしているとき、自分を守ってくれて、心の傷を癒やしてくれる心の支えになってくれる人が現れ、離婚して間をおかずに結婚できるとしたら、それは女性にとって前向きな決断をする後押しにもなるのではないでしょうか。

■夫婦別姓を認めない民法750条に「合憲」の判決

 話は変わりますが、「再婚禁止期間」についての最高裁判決が出た2015年12月16日、最高裁はもう一つ男女平等に関係する事項についての判決を出しました。
 民法750条は夫婦別姓を認めていません。これは夫の姓にしても妻の姓にしても良いわけですが、実際には96%を超える夫婦が夫の姓にしています。この現状からして、民法750条は男女平等に反するのではないかといったところが争われたのです。
 誤解がないように付け加えると、これは全てのケースで夫婦別姓であるべきと主張したものではなく、同姓を望まない場合には、別姓も選択できるべきと主張したものです。
 これについて、最高裁は、民法750条を合憲との判決を下しました。
 その理由としては、夫婦同氏制には
「家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を有している」
「家族を構成する個人が、同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できる」
「子の立場として、いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる」
 といったメリットがあることを指摘した上で、デメリットは通称の使用によって緩和されるとしました。ただ、注目すべきは、15名の裁判官のうちの5名が違憲としており、さらに象徴的なのは、女性裁判官は3名全員が「違憲」とする側であることです。
 また、多数意見も、合憲との判断を示した後に、あえて、選択的夫婦別姓制について合理性がないと断ずるものではなく、ただそれは、国会で論じるべきものである旨を付け加えています。
 実際問題として、夫婦が同姓か別姓かを選択できない先進国は、もはや日本だけであるといわれています。
 今回は合憲の判決でしたが、多数意見でもあえて上記のような付け加えがされていること、違憲とする意見も3分の1を占めていることからすれば、国民や立法に対して男女平等について問題提起をする意味はあったと思います。

■男女平等の時代へ!

 最高裁が、同じ日に男女平等に関係する2つの判決を出したことは偶然ではなく、当然意図があってのことのはずです。夫婦別姓については合憲との判断になりましたが、3分の1が違憲との判断を示したことをあえて取り上げ、選択的夫婦別姓制について合理性がないと断ずるものではない旨を付け加えたことに意味があります。
 法律については、本来民主的機関である国会が改正の必要等を判断することになります。しかし、憲法違反な状態、人権侵害が生じているのに国会が対処をしない場合、裁判所が伝家の宝刀を抜くのです。
 何か問題があっても解消されない場合、その大きな要因の一つは、問題が問題として十分意識されていないことです。
 2015年12月の最高裁の2つの判決および今回の民法改正をきっかけとして、男女平等がまだ実現されていないという問題を多くの人が意識するようになり、男女平等への流れが加速していくことを切望します。

【まとめ】
●再婚禁止期間を100日に短縮する改正民放が平成28年6月1日に成立。離婚時に妊娠していなかった、または離婚後に出産したことについて医師による証明書があれば100日以内でも再婚が認められる。

●夫婦別姓に関する法律は今後国会で改正となるか。本当の意味での男女平等の時代はまだまだこれから。

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第2章 離婚で幸せを手に入れよう


■「離婚=不幸」ではない

 現在も「離婚=不幸」というネガティブなイメージはまだまだ残っていると思います。もちろん、全ての夫婦が幸せに生涯添い遂げられれば、これに勝ることはありません。
 しかし、結婚は、元々は他人同士だった人間が一緒に生活するというものですから、簡単なものではありません。残念ながら、期間が経過するうちに結婚が絶望的に不幸なものになってしまう場合もあります。
 そんな不幸な結婚生活を続けるよりも、離婚という決断をしたほうがずっと幸せになれることもあるのです。

■「離婚する人=ダメな人」ではない

 日本では、いまだに「離婚=悪いこと」、「離婚する人=ダメな人」というイメージが根強く残っているように感じます。
 特に、メディアにさらされる芸能人などの場合、離婚をしたというだけで、ほとんど犯罪者であるかのようなネガティブな言葉が飛び交うことも見受けられます。そして、それは女性芸能人のほうがよりダメージが大きいように思われます。
 以前、陣内智則さんと藤原紀香さんの離婚が発表された直後、離婚に関する実情はなにも伝わっていないのに、居酒屋で専ら藤原紀香さんのほうを非難する話をし合っているのが聞こえてきたことがありました。もちろん、藤原紀香さんの離婚の実情は私も知りませんが、芸能人同士の離婚でも、女性のほうが悪い印象を持たれがちなんだなと思いました。
 率直に言って、そんなネガティブなイメージは間違いです。
 確かに離婚には、身勝手な理由の場合や、行動や考え方等に問題があってのケースもあることでしょう。
 しかし、私が弁護士として離婚を望む方の依頼を受けてきた中では、依頼者の行動、性格等に問題があると思われる場合は皆無です。そして、こんな結婚生活は、誰であっても耐えられない、むしろよくここまで耐えてきたなあという場合が本当に多いです。
 いったんは生涯を共にすることを誓った間柄で、離婚を考えるというのは、よっぽどのこと。その場合は配偶者に大きな問題があることが多いのです。
 例えば、よくあるのが夫婦間でのDV(ドメスティック・バイオレンス)です。夫の暴力から逃げたくても、経済的な理由などさまざまな事情で急には助けを求められず、長期にわたって我慢を続ける。そんな状態が続くと、正常な判断能力が働かなくなって、自分が悪いのだと思い込むようになったりもします。一種の洗脳のような状態です。それが、何かのきっかけでふと我に返り、ようやく声を上げる…。そんなケースは少なくありません。近年は男性が被害者であるケースも増えてきましたが、それでも封建的な風潮の名残や体格等の問題から女性が被害者である場合のほうが多いのが実情です。
 そして、DVに限らず、女性が「社会でも、家庭の中でも、男性に従属して当然」「我慢を強いられて当然」といった風潮はまだまだ残っているように思われます。
 私は日々、相談者さんや依頼者さんと接していて、このような風潮が残存していることを身をもって感じさせられています。
 女性は男性に尽くさなければならないものではありません。当然、自分の幸せを求めて良いのです。

■今や、3組に1組が離婚する時代に

 日本国内で毎年どれくらいの婚姻が成立しているかご存知ですか?
 厚生労働省が発表している「人口動態統計」の年間推計によると、2015年の日本国内の婚姻件数は「63万5千件」となっています。
 皆さんは、この数字を多いと感じますか? 少ないと感じますか?
 ちなみに、1970年のピーク時には「約100万組」。一方で、離婚件数は1970年の「約9万5000組」から増え続け、2013年では「約23万組」にまで増加しています。
 婚姻件数は大幅に減り、離婚件数は大幅に増えているわけです。
 結婚件数を離婚件数で割って計算される「離婚率」で見ると、かなり衝撃的です。
 1970年の離婚率は9・3%で、おおよそ「10組に1組」が離婚していることになり、一方、2013年では離婚率は35・0%にまで上昇しています。なんと「3組に1組」以上が離婚していることになるわけです。
 もはや離婚は特別なことではありません。

■子どもの真の幸せのため

 未成年のお子さんがおられる場合、離婚はより難しい決断となります。お子さんの健全な成長にとって、父親と母親がいる円満な家庭で育つことが一番であることは間違いありません。
 ただ、夫婦関係が円満でない場合、婚姻を継続することがお子さんにとっても不幸である場合もあります。例えば、ご自身がDVを受けているような場合、お子さんには暴力が振るわれていなかったとしても、あなたが暴力を振るわれることがお子さんの心を傷つけます。また、夫婦関係が破綻していて争いが絶えない状況は、離婚をしない場合よりもかえってお子さんの心を苦しめる場合もあります。
 円満な夫婦生活をもはや送ることができない場合、離婚は、お子さんにとってベストではないけれど不幸な夫婦生活の中で育つよりはベターである場合も少なくないのです。

■離婚によって幸せをつかもう

 離婚を決断することは簡単なことではありません。また、離婚を決断しても、離婚までは長く苦しい道のりが待っています。
 それでも、多くの人が離婚を経て幸せになっています。実際、私は弁護士として、多くの人(女性も男性も)が離婚を経て幸せになっていくのを見てきました。
 弁護士に依頼をした場合でも、離婚は色々な意味で大変なものです。それでも、最終的に無事に離婚が成立すると、皆さん心の重荷から解放され、晴れやかな表情になります。
 そして、それから何年も経っても年賀状などで幸せな人生を送っているとの報告が来たりします。また中には、別の離婚したい方を紹介されることも。離婚前は暗い表情をされていた方が、別件の相談で再会すると、本当にイキイキとされていたこともありました。
 不幸な結婚生活を送られていた方が、離婚によって幸せになっていることの証です。

■離婚後の生活が不安なあなたに

 女性が離婚を躊躇する理由の大きな部分が、離婚後の生活です。
 ただ、昔と比べれば女性の社会進出が進んでおり、以前に比べればその障壁は下がっていると思います。実際、それが離婚率が上昇している大きな要因といえます。
 私が女性側の代理人を担当したケースでも、生活の不安はあったし、実際離婚して生活にかけられるお金は減ったものの、その後もちゃんと生活できており、夫の暴言等に耐えていた生活に比べると天国のようだという話を聞いたりします。
 また、離婚後もお子さんを監護養育していく場合には、相手に養育費の請求ができますし、場合によっては、「扶養的財産分与」ないしは「離婚後扶養」として離婚後も一定の生活費の請求等ができる場合があります。
 加えて、社会保障の面から見ても女性の助けとなりうる制度もあります。
 母子家庭については、自治体に次のような制度もありますので、お住まいの自治体に確認して、役立ててほしいと思います。

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■勇気を持って「第一歩」を!

 人気テレビドラマ『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)をご覧になっていた方はいらっしゃいますか? 私は、毎回放送を見ていました。実際の弁護士の仕事とは相当に違う面もありますが、弁護士の仕事の面白い部分がよく出ているドラマでした。堺雅人さん演じる主人公の敏腕弁護士・古美門研介に、ときに感情移入をしたり、心の中でツッコんだりと、楽しませてもらいました。
 ここでは、同ドラマ(第1シーズン)の第9話に触れながら、お話ししていきたいと思います。
 第9話のテーマは公害訴訟でした。大企業の工場ができた後、体調不良を訴える住民が増え始めます。そこで工場周辺の水を調べると、有害物質が出てきたために、近隣住民らがその差し止めと、損害賠償を求めて提訴を行います。
 訴訟は、古美門のペースで進んでいきますが、企業側はいくらかのお金を出しての和解を提案してきます。請求額に比べれば桁の違う低額な提案で、何より工場は今後も稼働し続けることになるのですが、長年強いものに従うことに慣れきってしまっている原告らは戦い続ける気持ちを失い、「誠意を見せてくれたし、それでいいじゃないか」と言い出します。
 しかし、古美門は、「大企業に寄生する心優しいダニ、それが皆さんだ!」「工場は汚染物質を垂れ流し続けるけれど、きっともう問題は起こらないんでしょう、だって絆があるから!」と辛辣な言葉で原告らを煽ります。逆上して原告の一人が古美門を殴り倒しますが、ここで原告らの本音が出てきます。「みんな悔しくて悔しくて仕方がねんだ。だけど、必死で気持ちを押し殺して、納得しようとしてるんじゃねえか」と。
 そこで、古美門がさらに続けます。「なぜ、ゴミくず扱いされているのに、納得しようとしてるんです?」「もし、誇りある生き方を取り戻したいのなら、見たくない現実を見なければならない、深い傷を負う覚悟で前に進まなければならない、戦うということはそういうことだ!」と。かくして、原告らは、誇りある生き方を取り戻すために戦うことを決意します。
 これは大変印象的なシーンでした。
 私の弁護士としての経験上は、事件の途中というよりは、相談の段階でこういう場面に遭遇することが多いのです。
 相談者は、「本当は現在の状況を改善したい、問題を解決したい」。けれども、改善や解決のためには勇気を持って一歩を踏み出すことが必要となる。ときに摩擦も生じ、戦うことも必要になる場合もあります。その勇気が持てずに、ついつい我慢を続ける。
 そして、限界に達したと思ったときに、弁護士のもとに相談に来る。弁護士の口から「摩擦なくして問題解決ができる魔法のような解決策」が出てくることを期待して…。
 もちろん、結果として大きな衝突もなく問題が円満に解決することもあります。けれども、勇気を持って一歩を踏み出す、戦うこともいとわない覚悟を決めることは必要です。
 私は、勇気を持って一歩を踏み出したことで、長年悩まされてきた問題から解放された方々を数多く見てきました。中には、最初の相談から、依頼をして手続に着手するまで1年近くの期間を要した方もおられました。そこから、また調停、裁判と数年の長丁場になっていき、ご本人にとっても大変な日々でしたが、全てが終わったときの本当に嬉しそうな表情が忘れられません。
 逆に、「勇気を持って一歩踏み出せば、解決する見込みが大きい」と考えられる事案だったのに、踏み出さない選択をした方々の顔も思い浮かびます。あの相談者さんたちは、今も我慢し続けているのだろうかと…。現実の弁護士が古美門のような言葉を発したら問題ですが、もっと勇気付けることができなかっただろうかという思いは残ります。
 どうかみなさん、勇気を持って第一歩を踏み出して下さい。

【まとめ】
●もはや離婚は特別なことではない。2013年の離婚率は35・0%で、およそ「3組に1組」以上が離婚する計算。

●離婚後の生活が不安な女性には、以下のような法律や自治体の制度が助けになる。

○離婚相手への「養育費」や「扶養的財産分与」、 「離婚後扶養」などの請求。

○「児童手当」や「所得税・住民税の減免制度」、「国民年金・国民健康保険料の免除」等、母子家庭への数々の支援制度。

勇気を持って一歩踏み出そう!

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第3章 離婚の具体的な進め方をお教えします


■離婚手続には状況に応じて3種あり

 離婚そのものや離婚の諸条件を決めて離婚に至るための手続としては、主として、「協議離婚」、「調停離婚」、「裁判離婚」の3種類があります。この他に「審判離婚」という手続もありますが、これはほとんど用いられません。
 協議離婚は、お互い話し合って離婚することを決め、両者が署名捺印した離婚届を提出すれば離婚成立となるものです。
 調停離婚は、裁判所で話し合いを行い、離婚及びその他の条件について話がまとまれば、調停調書が作成され、離婚が成立するというものです。
 裁判離婚は、家庭裁判所に訴えを提起し、離婚原因の存在を主張・立証し、離婚原因があると認められれば、判決の確定により離婚が成立するというものです。また、裁判中に和解をして離婚成立となる場合もあります。
 以下では、それぞれについて少し詳しめに説明していきましょう。

■「協議離婚」とはどんなもの?

 協議離婚とは、文字通り、“協議”、すなわち話し合いをして離婚するものです。
 話し合いの結果、お互いに離婚をしようと合意に至れば、離婚届1枚を市区町村役場に提出するだけで、離婚成立です。協議の方法には、何も決まりはありませんので、当事者だけで話し合っても、第三者を入れても構いません。当事者同士で話しても埒があかないような場合には、弁護士を代理人に立てることもあります。
 離婚協議書を作るかどうかも当事者次第。協議離婚は一番簡単で早い方法です。

*離婚届はどこに出す?
 離婚届は、夫婦の本籍地だけでなく、届出をする夫や妻の「所在地」で出せます。「所在地」は、住んでいるところだけでなく、旅先などの一時滞在先でも大丈夫です。つまり、基本的にはどこでも出せるということになります。
 ただし、本籍地以外で出す場合には、戸籍謄本が必要です。逆に言えば、本籍地で出す場合には戸籍謄本はいらず、離婚届1枚持って行けば良いということになります。

*離婚届の書き方
 離婚届には、婚姻届の場合と同様、成人2名の証人に署名をしてもらうことが必要となります。また、お子さんがいる場合には、どちらが親権者になるかを決めて、記載する必要があります。離婚をすること自体はお互いに納得していても、どちらが親権者になるかの話がつかないと離婚届が出せません。
 ちなみに、離婚届の署名は、自分自身で書く必要があります。例えば、夫婦間で合意ができていても、代書はできません。夫「俺の署名のところも、書いといて」、妻「分かった。私が書いて出しとく」なんてことは認められないわけです。
 ただ、そうは言っても、役所の窓口で代書に気付かれず、受理されてしまうこともありえます。そんな場合に離婚が無効になる…というわけではなく、最高裁は、離婚届が受理されてしまった場合は、有効と判断しています。これを最高裁まで争ったというのもなんだかすごい話ですが…。

*「今度浮気をしたら提出する」とサインさせていた離婚届を勝手に出して良い?
 ときどき質問を受けるのが「昔夫が浮気をしたときに、今度浮気したら提出すると、離婚届にサインをさせておいたものがあるが、出して良いのか」というもの。しかし、離婚届を出す際には、その時点で夫も離婚する意思があることが必要です。したがって、以前サインさせた離婚届を勝手に出すことはできません。

■「調停離婚」とはどんなもの?

 調停離婚とは、家庭裁判所に調停の申立てをして、「調停委員会」を間に入れて話し合いを行い、離婚及びその他の条件について話がまとまれば、〝調停成立〟となり、調停調書という書面が作成され、離婚が成立するというものです。
 ちなみに、離婚のために申し立てる調停を一般には「離婚調停」と言っていますが、正式には「夫婦関係調整調停」といいます。これは、離婚の話し合いをする場合だけでなく、円満な夫婦関係を回復する話し合いをする場合にも用いることができる手続です。
 離婚をしたい場合、まずは当事者間で話し合いをして協議離婚をするというのが一番簡潔なのですが、協議が整わない場合や、協議ができるような状況でないような場合などには、中立的な第三者である調停委員会を間に入れた話し合いをしてみようということになります。当事者間同士の話し合いではまとまらなくても、第三者が間に入ることによってまとまることはあります。
 調停委員会は、双方の言い分を聞いた上、法的な観点や常識的な観点から調整を図り、ときには当事者を説得などもしながら話し合いを解決に導きます。

*調停申立ての方法、費用
 調停の申立てに際しては、申立書等の必要書類を提出します。申立書等には、裁判所に簡単な形式の書式があり、誰でも簡単に申立てができます(書式は、東京家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードもできます)。費用も収入印紙1200円と連絡用の郵便切手代(裁判所によって異なります)と、非常に安価です。申立てをする家庭裁判所は、相手方の住所地を管轄する裁判所です。かつては、別居の際に離れたところに引っ越しをした場合などは不便だったのですが、現在は、遠方の場合などは「電話会議」による方法をとることもできるようになりました。ただし、離婚が成立する期日には出席する必要があります。

*調停の進行と調停委員会
 調停の申立てをすると、だいたい1ヶ月後くらいに最初の期日が決まります。
 離婚調停においては、調停委員会が仲介するのですが、調停委員会は、裁判官(または調停官)1名と、男女1名ずつの調停委員から構成されます。ただ、裁判官(または調停官)はほとんどの場面で同席せず、基本的には調停委員と話をすることになります。
 調停の期日においては、当事者が同席の話し合いではなく、裁判所の小部屋に交互に入って、調停委員に言い分等を話し、調停委員を通じて話し合います。
 当事者双方が同席するのは、最初の手続についての説明時や調停成立時ないし不成立時などに限られています。また、そういった場合でも相手方から暴力を振るわれる恐れがあるなどどうしても同席したくない場合は、同席をしないことも可能です。危険性が高い場合は、それぞれの出席日を違う日にする場合もあります。
 1回の期日に要する時間はおおよそ2時間~4時間くらいです。
 全く話し合いの余地もない場合には1回で不成立となりますが、解決の可能性がある場合、1回で終わることはなかなかなく、何回か繰り返されます。また、調停委員や裁判所の都合もあって、その間隔は1ヶ月くらい空くことが多いです。

*調停委員とはどんな人?
 よく「調停委員とはどういう人たちなんですか?」という質問を受けます。
 裁判所のサイトから引用しますと、「調停委員は、調停に一般市民の良識を反映させるため、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には、原則として40歳以上70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授、公認会計士、不動産鑑定士、建築士などの専門家のほか、地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれています」とのことです。実際のところ、調停委員の方が普段何をしているかについて話をすることはあまりなく、どういう人が多いのかはよく分かりません。年齢は、60代くらいの方が多い印象で、平日の調停期日に出席されていることから、男性は仕事を定年退職された方などが多いのではと思われます。
 私の経験上は、遺産分割の調停では調停委員の一人が弁護士であることがしばしばあるのですが、離婚の調停では調停委員に弁護士がいたというケースはあまりありません。基本的には法律の専門家ではない方と考えていたほうがいいかもしれません。

*調停委員には当たり、外れアリ!?
 率直に言って、毎回担当する事件の調停が始まってみると、調整能力、知識、価値観などから、「今回の調停委員は当たりだ!」、「今回は外れだ…」と感じたりします。
 当たりだと感じたケースとしては、こちらとしては9割9分裁判になることを覚悟していたのに、調停委員が熱心に調整をして下さり、無事調停で離婚が成立したようなケースです。外れだと感じたケースとしては、調停を通じた話でお互いの意向がほとんど正確に伝わらず、漫然と時間が経過し、途中から相手の代理人と直接話すようにしたところ一気に合意にたどり着いたというようなことがあったりしました。
 こればかりは、運、不運ですね。

*調停調書には判決と同じ効力がある
 話し合いがまとまって調停成立となると、調停調書という書面が作成されます。財産分与、解決金、養育費などについての合意がされた場合、調書にはこうした事項についても記載されます。この調停調書には、確定した判決と同様の効力があり、相手方が調書に記載されている義務を果たさない場合には、強制執行ができます。例えば、相手方が定められた解決金、養育費等を支払わないというようなことがあれば、この調停調書に基づいて、相手方の給料を差し押さえたりすることができるわけです。

*合意に至らなければ調停不成立
 離婚調停は、あくまで話し合いによる手続ですので、双方が納得して合意に至らなければ、調停は不成立です。この場合は、裁判を起こすか、いったん様子を見るかになります。ただし、離婚をすることや、親権をどちらにするかなどはお互いに納得しているが、養育費の額だけ話がまとまらないような場合には、離婚調停をまず成立させて、養育費の審判を申し立てるという形を取ることもあります。

*相手が調停に出てきてくれない!
 調停においては、呼出しがあったにもかかわらず、正当な理由なく出頭しないと「5万円以下の過料」に処するとの規定があります。ただ、実際にこれが適用されたというケースは聞いたことがなく、いくら呼び出されても出てこない人はいます。
 もし複数回呼出しをしても出頭しない場合は、「調停をしない措置」というもので終了ということになります。この場合も、不成立の場合同様、裁判を起こすか、いったん様子を見るかということになります。

*調停離婚の場合も離婚届の提出を
 調停離婚が成立しても、自動的に戸籍が変更されるわけではないため、市区町村役場に調停調書を付して離婚届を提出する必要があります。この場合、離婚届に相手の署名捺印はいりません。

■「裁判離婚」とはどんなもの?

 裁判離婚は、家庭裁判所に訴えを提起し、離婚原因の存在を主張・立証し、離婚原因があると認められれば、判決の確定により、離婚が成立するというものです。
 離婚訴訟では、子どもがいる場合には、親権者についても判断されますし、請求があれば養育費、慰謝料、財産分与等についても判断がされます。
 裁判は、知識やテクニカルな要素も必要となり、自分で行うのはとても大変。ですので、弁護士に依頼するのが一般的です。そして、調停の場合は弁護士に依頼しても、原則としてご本人も出席することになるのですが、裁判の場合は通常、弁護士のみが出席すればいいので、基本的には弁護士任せという形になることが多いです。
 ただ、ご自分で行う場合もあるでしょうし、また弁護士に依頼する場合もどのような手続か分かっているほうがいいと思いますので、裁判手続についてもわかりやすく、しっかりと説明していきたいと思います。

*裁判はどうやって起こす? いくらかかる?
 裁判を提起する際には、訴状を裁判所に提出します。訴状についても家庭裁判所に書式が用意されており、裁判所のウェブサイトからダウンロードすることもできます。
 離婚裁判については、調停と異なり、相手方の住所地を管轄する裁判所と自分の住所地を管轄する裁判所のいずれにも提起することができます。
 裁判所に納める手数料は、通常請求する利益を金銭に見積もった額(訴額)によって決まるのですが、離婚のみを請求する場合、離婚自体は金銭的な評価ができません(算定不能)。ただ、算定不能な場合には、訴額を160万円とみなすという規定があり、訴額160万円の場合の手数料は1万3000円です。つまり、離婚だけを請求する場合の手数料は1万3000円です。
 離婚だけでなく、慰謝料も請求する場合は、請求する慰謝料の額と160万円の高い方が基準となります。例えば、慰謝料として300万円を請求する場合は、こちらの方が高いのでこれが基準となり、訴額300万円の場合の手数料は2万円となっています。
 また、養育費、財産分与、年金分割などを請求する場合は、それぞれについて別途1200円ずつの手数料がかかります。養育費は、お子さん1人について1200円ずつです。養育費や財産分与の額がどれだけ高くても、一律1200円です一方、お子さんの親権の指定については別途手数料がかかりません。以上を前提に、
 ①離婚
 ②親権者を自分にすること
 ③慰謝料として300万円
 ④お子さん2人の養育費としてそれぞれ成人するまで月5万円
 ⑤財産分与として現金1000万円
 ⑥年金分割
 の6つの事項を求める裁判で手数料がどうなるかを計算してみましょう。まず、①離婚(160万円)と③慰謝料(300万円)については、高い方である300万円を基準とした2万円になります。②については別途手数料がかかりません。次に、④以下については一律1200円ですので、④養育費2人分は1200円×2、⑤財産分与は1200円、⑥年金分割が1200円となります。したがって、この場合に納める手数料の合計額は、①③2万円+④2400円+⑤1200円+⑥1200円=2万4800円となります。
 このように、高額になる場合も少なくない財産分与や養育費について、その手数料がそれぞれ一律1200円であるため、離婚の裁判の手数料は、法外な慰謝料を請求でもしない限り、それほど高額にはならないといえます。
 この手数料以外に6000円程度(裁判所によって異なります)の郵便切手代がかかります。弁護士に依頼すると、これらに加えて弁護士費用がかかります。

*勝ったら弁護士費用は相手に請求できる?
 よくされる質問に「勝ったら、弁護士費用は相手に請求できるのですか?」とか「負けたら、相手の弁護士費用を払わなければならないのですか?」といったものがありますが、原則として、勝っても相手に請求はできませんし、負けても相手の分を払う必要はありません。例えば、完全に勝訴をすると判決文に「訴訟費用は被告の負担とする」と記載されますが、この「訴訟費用」には弁護士費用は含まれません。
 ただ、不法行為に基づく請求(離婚の場合であれば、不貞やDVなどについての慰謝料請求)については、実際に裁判にかかる額ではありませんが、判決で認められた賠償額の1割程度が弁護士費用として認められる場合があります。

*訴訟の大まかな流れを知ろう
 訴訟を提起すると、原則として訴え提起の日から30日以内に1回目の期日(第1回口頭弁論期日)が指定されます。期日が決まると、裁判所から、相手方(被告)にも訴状、証拠などが送られます。そうすると、通常、事前に被告から「答弁書」という書面が送られてきます。被告にも弁護士が付く場合、答弁書は、具体的な事実について踏み込んでいない形式的なものであることが多いです。これは、原告は十分準備をして訴状を作成して訴訟に臨みますが、被告としては、訴状を受け取ってから第1回目の期日まで時間がないことも多いからです。
 この場合、被告は、次の期日までに「準備書面」を提出し、この中で、原告の主張のうちの認める部分と認めない部分をはっきりさせ、さらに自分の主張、反論を具体的に記載していきます。そして、さらにその次の期日までに、原告も、準備書面を提出し、被告の主張のうちの認める部分と認めない部分をはっきりさせ、さらに自分の主張、反論を記載する…。適宜、証拠も提出しながら、こうして主張、反論が繰り返されるわけです。そして、書面によるお互いの主張や立証がもう尽くされたという段階になると、当事者や証人の尋問手続が行われます。それが終わると、それまでの裁判の経過を踏まえた上での主張をまとめた最終準備書面を提出し、判決という流れになります(ただし、後述するように、この過程のどこかで和解が試みられることが少なくありません)。
 離婚裁判の場合、2回目以降は、公開の法廷での手続ではなく、非公開の小部屋で行われる弁論準備手続になることが多いです。
 ちなみに、民事の裁判では、答弁書を提出もせずに欠席すると、訴状での原告の主張を被告が認めたという扱いになり、原告の勝訴となるのですが、離婚裁判ではこの扱いにはなりません。
 裁判の期日は、だいたいひと月に1回くらいずつ行われます。次回の期日を決める際、裁判官が「いつ頃にしますか?」と聞いたとき、弁護士が「通常通りで」と答えることがよくありますが、「通常通り」というと1ヶ月後くらいということになります。
 ひと月に1回ペースの主張反論が繰り返されるため、裁判は長丁場になります。

*テレビドラマとはここが違う!
 よく弁護士もののドラマでは、法廷で双方の弁護士がそれぞれの主張について口頭で演説をしたり、激論を交わしたりするシーンがありますよね。
 でも、実際の裁判では、主張は前述のように書面で行います。というのは、裁判官は、膨大な案件を抱え、しかも、分刻みで次から次へと別事件の対応をしていくからです。しかも、訴訟は長丁場で、判決を書くことになるのはずっと先だったりもします。それゆえ、弁護士に口頭で演説をされたり、激論を交わされたりしても、覚えきれないし、把握も困難なのです。ときどき、本人で訴訟をしている方が、裁判官に口頭で事情を色々と説明をしようとして、裁判官から制されて「主張したいことは、書面にまとめて下さい」と言われ、不服そうな顔をするのを見かけます。しかし、書面にまとめないと裁判所に判決に反映してもらうことは期待できないわけです。
 前にも書いたように『リーガル・ハイ』は私の好きなドラマで、弁護士の仕事の雰囲気はよく出ているんですが、あの雰囲気はそのままに、ドラマでは口頭でやっている主張の応酬を書面でやっているというのが実際の訴訟のイメージです。ドラマでは口頭なので、主張をしたらすぐ反論という感じですが、実際の裁判では、主張をしたら1ヶ月後に反論の書面が出るといったところです。ドラマに比べると、かなりスローですね。

*勝つためには、裁判所に確信を抱かせること
 裁判離婚は、相手方が離婚を拒否していても離婚が可能となる唯一の手続ですが、その一方で、不貞行為などの離婚原因があると認められないと、離婚となりません。ただ主張すれば良いというものではなく、証拠により証明しなければならないのです。
 慰謝料請求なども同様で、相手が浮気をしていたなどの事実が証明できなければ、いくら本当に相手が浮気をしていても請求が認められないのです。
 裁判官がどちらか分からない場合に請求が認められないのはもちろんのこと、どうもこちらが正しそうだというレベルでも請求は認められません。こちらが主張する事実が存在するという確信を裁判官に持ってもらえなければ、請求が認められないのです。その意味で、裁判離婚では、どれだけの証拠があるかが極めて重要。ただ、証拠がないからといってあきらめるのも早計です。ここは、〔第9章〕でもう少し詳しくお話ししましょう。

*裁判離婚ではいつ「離婚成立」となる?
 裁判離婚においては、家庭裁判所が離婚を認める判決が出したらその時点で離婚となるわけではありません。離婚を認める判決が確定した時点で、離婚が成立となります。
 典型的なケースは、家庭裁判所の出した離婚を認める判決に対して、14日以内に控訴が行われずに判決が確定するケースです。ちなみに、調停離婚と同様、裁判離婚の場合も、判決で自動的に戸籍が変更されるわけではないため、市区町村役場に離婚届を提出する必要があります。裁判離婚の場合も、離婚届には相手の署名捺印は必要ありません。

*実は「和解離婚」は少なくない
 これまで裁判離婚について書いてきましたが、実は、裁判になった場合でも、判決まで至らず訴訟手続の中で和解が成立し、これにより離婚となることが少なくないです。
 裁判手続での離婚なので、「裁判離婚」の一種とも言えますが、判決によって離婚となる通常のケースと区別して「和解離婚」ということも。以前は和解できるという話になった場合でも、裁判での和解(訴訟上の和解)では離婚ができず、通常の双方が署名捺印した離婚届の提出で離婚成立としていましたが、平成16年4月の法改正で和解により、離婚ができるようになりました。
「協議や調停でさんざん話し合ったのに平行線だったんだから、裁判でも和解はできないのではないか?」と思われるかもしれませんが、最終的には判決で決着を付けられる権限を持つ裁判官が、判決の見通しを示しながら調整に入るので、話し合いでの解決が付きやすいのです。
 裁判になってガチガチに争い、当事者としては相当にヒートアップして「和解なんかしたくない」なんてこともありますが、特に判決の見通しも出てきた中では、和解によって柔軟に着地点を探るほうが良いケースもあります。また、判決になると100取れる可能性が高いと考えられるけれど、0になる可能性もあるというような場合、リスクを回避するために、80で和解をするのが良い場合もあります。
 さらに、意外と少なくないのが、「ほぼ勝ち」な和解。言い換えると、事実上相手が降参するという意味合いの和解です。将棋で最後までやらずに、参りましたと降参するシーンがありますが、裁判所の心証も開示され、判決になっても変わらない場合、もうこれ以上戦っても仕方ないから判決までせず、和解で終わろうということもあるのです。
 和解が成立し、和解調書が作成されれば、判決をすることなくその時点で離婚成立となります(役所に離婚届を出す必要があるのは、調停離婚や裁判離婚の場合と同様です)。
 この和解調書には、判決と同じ効力があり、例えば養育費や慰謝料を支払うことが記載されながら、支払いがなされない場合、強制執行をすることが可能となります。
 余談ですが、裁判官は、非常に和解を好みます。これは、和解が当事者にとって最も良い解決手段であるとの信念からということもありますが、膨大な事件を抱えている中で判決を書く負担が減るということも大きいといえるでしょう。ある離婚事件で和解ができるという話になったときには、それまでずっとポーカーフェイスだった裁判官が見たこともない輝くような笑顔になり、私も相手方の代理人も「先生方さすがです!」と、とことん持ち上げられたりしたこともありました。

*調停前置主義…いきなり裁判は提起できない
 ところで、我が国の法律では、原則として、いきなり離婚の裁判を起こすことはできません。厳密に言うと、調停を経ずに訴訟を提起すると、調停に付されることになります。
 したがって、相手が行方不明である場合などの例外を除いて、まずは調停を申し立てなければならないということにならないのですが、この制度は「調停前置主義」と呼ばれます。調停前置主義は、「いきなり裁判にして争うよりは、よくよく話し合ったほうがいいですよ」という考え方に基づいています。これは、一度調停をやればその後いつでも裁判ができるというものではありません。一度調停をしても、それから時間が経ってしまえば、もう一度調停をしてからでないと裁判はできません。

 なお、調停が不成立となっても自動的に裁判に移行するわけではありません。調停成立後何もしなければ(訴訟提起をしなければ)、何も起こりません。また、裁判と調停は同じ家庭裁判所で行うことが少なくないですが、調停と裁判は連続した手続ではありませんから、調停の記録は何もしなければ訴訟では考慮されません。調停の記録を訴訟でも反映させたければ、調停の記録を取った上で証拠として提出する必要があります。

【まとめ】
●離婚とは主に協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3種類。

●協議離婚とは、話し合いにより当事者同士が合意して離婚届を提出すれば成立する、最も簡単で早い離婚方法。

●調停離婚とは、当事者同士で話がまとまらない場合に中立的な第三者の「調停委員会」を加えて話し合う方法。委員によって結果に差が生じ、離婚不成立の場合や相手が出頭しない場合などは、最終的に裁判離婚に持ち込まれるケースも。

●裁判離婚とは、協議でも調停でも成立しなかった離婚を、家庭裁判所に訴えを起こし、判決を得ることで成立させるもの。弁護士への依頼が一般的で、実際は和解離婚が少なくない。


4章以降ではより詳しく、正しい知識とテクニックを紹介しています!!


<収録内容>
はじめに
第1章 時代は男女平等へ!
第2章 離婚で幸せを手に入れよう
第3章 離婚の具体的な進め方をお教えします
第4章 離婚ができるのはどんな場合?
第5章 子連れ離婚で気になる問題
第6章 くたびれない財産分与について
第7章 慰謝料について知っておきたいこと
第8章 忘れちゃいけない婚姻費用の請求
第9章 「くたびれない離婚」達成! 最新テクニック実践編
第10章 「くたびれない離婚」を助ける頼りになる弁護士とは
第11章 私は神職資格を持つ弁護士です
おわりに
【巻末付録】養育費・婚姻費用算定表

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