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量子物理学を使って無線機器のセキュリティを確保

米国のNSF(National Science Foundation/全米科学財団/国立科学財団)は2023年05月30日に、無線機器間の通信のセキュリティは、プライバシーの維持や盗難防止に重要である。そこで、量子物理学を使って無線機器のセキュリティを確保する実験を開始している。

アクセスカードやキーフォブからBluetoothスピーカーまで、無線機器間の通信のセキュリティは、プライバシーの維持や盗難防止に不可欠である。しかし、残念ながら、これらのツールは完全なものではなく、これらのシステムをハッキング、クローン化、バイパスする方法に関する情報は簡単に手に入るようになってきている。

そのため、イリノイ大学シカゴ校(University of Illinois Chicago)のNSFの支援を受けた電気技術者たちは、より安全なデバイスを作る方法を研究してきた。Nature Communicationsに掲載された論文では、量子物理学にヒントを得て、ワイヤレス機器の識別を改善し、機器間の通信を保護する方法を報告している。これは、ランダムでユニークなデジタル指紋を使用して、事実上解読不可能なハードウェア暗号化システムを構築することがであるという。

パイ-エン・チェン(Pai-Yen Chen)率いるエンジニアは、量子物理学の理論を数学に基づく実験で使用し、[発散する例外点]を特定した。

量子物理学では、正確な測定が困難または不可能なシステムについて説明すると、量子状態とは、パラメータ空間または測定可能な範囲である。このような状態の中で、システムの不確実性が最大となる例外点が存在する。

この例外的な点は、暗号技術にとって有望であり、システムの不確実性が高ければ高いほど、安全性が高まる。

チェン教授らは、キーカード(key cards)やフォブ(fobs)など、鍵を開けたり、近くのセンサーと通信したりする機器に使われる技術(the technology used by key cards, fobs and other devices)である無線周波数識別システム(radio frequency identification system)において、この例外点を特定する数学的アプローチ(mathematical approach to identify these exceptional points)を考案した。従来のRFIDシステムでは、暗号化された鍵はメモリチップに格納されるが、メモリチップはサイズに制限があり、攻撃されやすいという欠点があった。

チェン教授のグループは、例外点アルゴリズムを使用して安全な信号を作成する新しいRFIDロック&タグデバイス(RFID lock-and-tag devices)を作成した。製造過程での小さなばらつきにより、ハードウェアは一つ一つ微妙に異なるため、各RFIDデバイスは例外点の最大化された不確実性を利用して独自のデジタル指紋(unique digital fingerprint)を生成する。

チェン教授は、アナログの音波で聞こえるみんなの声と同じように、鍵暗号の構造によって、各デバイスからの信号がユニークになると、述べている。

「多くの科学者は、例外点理論を現実世界で確実に適用することは不可能だと考えてきたが、我々はそのような性質を利用して斬新なシステムを実装することができた。」とチェン教授はは述べている。

また、この技術は低コストで汎用性があり、特にキーカードや近距離無線通信機器など、大量生産されハッキングの影響を受けやすい製品に役立つ可能性があると述べている。

NSFのDirectorate for Engineeringのプログラムディレクターであるジェンシャン・リン(Jenshan Lin)は、「この研究は、RFとアナログ技術を利用して無線機器のセキュリティを大幅に強化できる可能性を示しています.」と述べている。

https://new.nsf.gov/news/using-quantum-physics-secure-wireless-devices
https://www.nsf.gov/awardsearch/showAward?AWD_ID=1914420&HistoricalAwards=false
https://www.eurekalert.org/news-releases/987477
https://www.nature.com/articles/s41467-023-36508-x#Ack1

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