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「広告で人の心を動かしたい」人へ

広告業界に興味を持ったきっかけや、志望動機を話してもらうと「広告で人の心を動かしたいんです」と話をしてくれる人によく出会います。

広告主が広告を出稿する理由は数多くありますが、その中に「(消費者に)商品に興味を持ってもらう」「(消費者に)「(消費者に)競合他社の商品を選択するのではなく、自社の商品を手に取ってもらう」「次も、自社の商品を買ってもらう」といった狙いがあります。例えば、あるCMを見て「そっか、そんな商品が発売されたのか。コンビニに行って探してみよう!」とか「うわぁ、このCMかっこいい!今まで知らなかったけど、憧れてまうわ」みたいな感じですね。このようなCMを見た後の消費者の感想を大雑把に捉えて、「人の心を動かす」と言っているのかもしれません。

ただ、あまりにも「広告で人の心を動かす」ということを単純に信用し過ぎていて、何か魔法の力を持っているかのような夢や憧れを持っている就活生(もしかしたら社会人も)が多くみかけるので、ちょっと意地悪な質問をしたことがあります。

私「最近、あなたはテレビ番組を見ましたか?」
候補者「はい。ドラマですが“XXXXXXXXXXXX”を見ました」
私「なるほど。結構人気のドラマのようですね」
候補者「はい。好きで毎週見ています」
私「では、先週その番組で放映されていたCMで、覚えているものを上げられるだけあげてみてもらえますか?提供スポンサーでもよいです」
候補者「……えっと、覚えてないです」
私「1つもですか?」
候補者「はい…」
私「そうなんです。それが普通なんですよ。みんな、覚えていないんです。それで心は動きますか?」
候補者「…」

すみません。意地悪な面接官で。

でも、これで広告というのが簡単に「人の心を動かすもの」や、ヒットを生む魔法のツールではないことが理解できるかと思います。

では、どうすれば良いのか。

志望する業界に、夢や憧れを持つことは大切ですし、ぜひ志望する業界に入った後も、その夢や憧れ、最初に興味を持ったきっかけは忘れないようにして欲しいと願っています。ただ、夢や憧れだけだと、入社後にその夢や憧れはだいたいにおいて一瞬で砕け散ります。なぜなら、現実がすぐ目の前に現れるからなんですね。広告業界の場合だと、あなたが一生懸命作った広告を実際に「見た」「好き」と言ってくれる人には、現実ではほとんど出会いません。見られたかどうかもわからないし、見ていたとしても覚えてくれているかどうかもわかりません。だって、あなたも毎週見ているドラマの広告を覚えていないくらいですから。

でも、なぜそれでも世の中にはたくさんの広告に溢れているのでしょうか。広告が作られているのはなぜなのでしょうか。それを理解するためには、広告業務の内容と広告が見た人になんらかの影響を及ぼすプロセス知っておく必要があるのです。(これは、別に広告業界だけのことではなく、この辺りのことは、別途別なところでもっと詳しく説明してみようかと思います)

例えば、広告が「効く」プロセス(例えば、CMを見てからコンビニで商品を買うまでのプロセス)を少しだけ考えてみましょう。

まず、企業は商品(ここでは、ポテトチップにしてみます)を買って欲しい人を想定します。ポテトチップなら、例えば10歳代の男子(実際はもっと細かく想定しますが、ここでは思いっきり単純化します)だとします。
そうすると、次に10歳代の男子がどのようなテレビを見るのか、インターネットのサイトを見るのかを調査します。そしてその調査結果に合わせてTV番組やインターネットのサイト(Youtubeとか)をピックアップし、次に10歳代の男子が好みそうな広告クリエイティブを作ります。その後、広告枠をTV局やWebサイトから購入し広告を出稿します。

ただ、1回だけだと見てもらえるかどうかわかりません。なので、何度も出します。何度も出しても効果がないかもしれません。もしかしたら、最初に想定したTV番組やWebサイトではポテトチップを買う人は少なかったのかもしれないのです。その時には別なTV番組やWebサイトに広告を出すことを検討し直して出稿プランを作り直す必要があります。また、10歳代の男子が気にいると思って作った広告クリエイティブも、実は全然受けない内容だったら、内容を変えて作り直すことも必要になってきます。

何度も出しているうちに10歳代の男子はようやくその広告に気がつきます。もっと広告を出します。何度も見ると、ようやく広告の内容をちょっと覚えていたり、どんな味なのかなと興味が出てくるかもしれません。
そして、10歳代の男子だとコンビニにはよく行くと思いますので、コンビニに行った時にそのポテトチップを見かけることもあるでしょう。次に....。

長くなりそうなのでこの辺にしておきますが、ここまでで「広告を見て心が動いた」と言えるでしょうか。実はまだわからないのですが、とりあえずは、「そんな簡単に動いてはくれない」「覚えてさえいてくれない」ということがわかってもらえれば良いと思います。さらに、広告を出すために多くの人が様々な角度から頭を捻り、多くの手順を得てようやく広告が消費者のところに届きます。でも、まだ影響があるどうかわからない状態です。しかし、それでも知恵を絞って裏側で色々な役割の人が「広告」が広告主にとって役に立つモノであるようにしているとも言えるのです

まだまだ書きたいことはあるのですが、これだけは覚えておいてください。先の面接内容の続きです。

私「そうなんです。それが普通なんですよ。みんな、覚えていないんです。それで心は動きますか?」
候補者「…」
私「そこからが広告会社の出番なんです」「その状況をどうにかしていく知恵を絞るのが、広告会社の役割なんです」

ぜひ、それでも「やりたい」と思ってくれると、面接官としても嬉しい限りです(笑)

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