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第6回 管理と経営戦略が要

 これまで顧客視点で全社の数字を明確にし、店舗・EC・CS・物流の現場、本社の情シス・商品・販促部隊と会話しながら業務とITの流れを見える化し、デジタルシフトを進める話をしてきました。最終回は本社の要、管理と経営戦略を取り上げます。

管理こそ変革し続けなければならない

 管理といっても大きくは総務・人事・法務・財務・経理・経営管理が代表的な部門となります。それぞれが高い専門性を持っていて、時には弁護士や司法書士、税理士、社労士のような国家資格が必要とされる業務です。
 よく言われるのが「管理部門は現場の事がわかっていない。今までのルールを押し付ける」という話です。実は私も以前はそう思っておりました。それでは逆に伺います、「現場の皆さんは管理部門の事がわかっているのでしょうか」。私自身、管理部門に所属したり、それぞれ業務として担当した事もあり、その中で感じたのがこの問いです。
 総務では健康管理の為のルール、人事では誰もが安心して働ける環境を提供するルール、法務では会社法等にのっとったルール、財務・経理では金融庁の指導や会計のルール、経営管理は予実管理だけではなく、それぞれのルールをまたがって企業経営が適正に行われているか見える化する。こうして国や会社で決めた様々なルールに従って業務を進めているのです。これまで現場の業務の流れを見える化してきたように、管理部門の業務の流れもきちんと見える化してみましょう。すると業務ルールや職務権限規程そのものを変える議論をする前に、業務の流れでいくつもデジタル化して改善出来る部分が見えてくるはずです。

(図1)

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 例えば総務ならこれまで紙で集めていた年末調整の書類をデータ対応にしたらどうか。人事なら様々な届け出を画面入力のデータ対応に。法務なら契約書確認を画面入力のフォームにして「契約の目的・特に確認すべき相談事項・契約締結期限」等、メールで長々と書かせず、法務確認時に知っておきたい事を記入してもらう。財務・経理なら資産管理や経費申請を画面入力に。経営管理なら予実管理をBI化して、全社から部門までブレイクダウンして見られるように。こうした入力部分のデジタル化をまずは推進出来るのではないでしょうか。
 ここで終わらせてしまうと改善どころか、かえって業務を増やしてしまいます。さらに「ID管理」「稟議・承認処理」まで考える事が大事です。よくあるのが総務系・人事系・経理系・・・と様々なソフトウェアパッケージを導入し、個別に画面を立ち上げたり、すべて違うIDでログインしなければならなかったりして、社員が面倒になってしまう事です。違うベンダーの専門ソフトウェアをSaaS環境でAPI接続して利用するのは珍しくありません。そこで、それぞれのソフトウェア毎ではなく管理系の集合画面を作って、可能なら社員番号等でシングルサインオン出来る仕組みにするだけで現場は楽になり、紙ではなくデータ入力に抵抗なくシフト出来ます。
 そして稟議や承認処理もメールだけではなく管理画面で一覧化出来ると見落としによる二重作業が大きく減ります。社員のマイぺージを全社業務で考えて用意するイメージです。
 こうして一方的ではなく、管理と現場が双方向でやり取りできる環境と気遣いをデジタルシフトで成し遂げるのです。おそらくこれまで双方が感じていた不満は減り、現場を支える“より攻める管理部門”へと進化し、新しい決済システムを積極的に導入したり、社内情報の見える化が進んだり、現場にとっても働きやすい環境となるでしょう。

経営戦略・経営企画部門はより機動的に

 社内で一番見えないと言ってもいいのが経営戦略や経営企画と呼ばれる部門でしょう。何故なら私自身も経験がありますが、中長期戦略に基づいた企業買収や提携、まだ公表出来ない企業戦略プランなど機密情報に関わる事が多いからです。
 これまでこの部門は経営者が決めた事を遂行したり、経営計画の予実管理をしたり、経営の補助的な役割を務める事が多かったと思います。実際に規模の大きくない企業では、専門の部門を置かずに、総務部長や経理部長が業務として兼務する事もあります。
 しかしながらこれだけ世の中の変化が速くなり、より多くの情報を集めて的確な判断をしなければならなくなると、経営者1人では限界があります。そこで経営者の視点でいかに様々な社内外の情報を収集し、整理して、経営者に提案するか、というより機動的な経営戦略部門が求められています。特に社内情報に関しては、何かあるたびに部門に確認したり情シスにデータ抽出をお願いしたり、はたまた自らSQLを書いていてはなかなか数字も揃いません。そのためには社内のBIをきちんと整備し、様々な数字が常に更新された状態で確認出来るように管理、情シスと連携して進めなければなりません。社外の情報ももちろん対面や実際に勉強会に参加して学ぶ機会は大事にしつつ、オンラインで参加出来るセミナーや、オンラインMTGを活用して効率良く情報収集出来る環境の構築も必要です。
 企業をデジタルシフトする時に、経営戦略がそのプランニングに関わることで、社内を横通しにするプロジェクトがうまく進むようにする事も重要な役割です。経営者を後ろ盾に虎の威を借る、、、ではなく経営と現場を繋ぐ、社外と社内を繋ぐ、そうした機動的な部門となる事が求められているのです。

企業内の評価・ルールを変える

(図2)

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 管理、経営戦略のテーマとしてデジタルシフトに欠かせないのが経営者を交えて検討しなければならない評価とルールの変更です。
 以前も書きましたが、これまで評価は売上・利益と直結していました。プロジェクトの推進などのプロセス評価や納期管理などの〆切遵守も評価対象ですが、売上と利益が常に上位にあり、今週/今月/今年の売上と利益を誰が生み出したのか、という事が重視されていました。
 しかしながら部門同士が相互支援しながら業務を推進したり、お客さまのIDを軸にした経年におけるロイヤリティが見える化してくると、単なる単年度売上では評価出来ない部分が増えてきます。リピート顧客を増やしている店舗や販売員、コールセンターのオペレーターがきちんとLTV向上の基準で評価されなければなりません。またお客さまがネット注文⇒店受取を選んだ際には、売上を店舗につけ、評価をECにもダブルカウントとする関与売上の基準で評価されなければなりません。
 こうした事は現場部門では感じていながらなかなか整理できない部分でしょうし、経営と常に接する管理・経営戦略だからこそ出来る話でもあります。たとえどれだけお客さまの役に立つ、お客さまの立場に立って良い施策でも、企業内で適正に評価されないのであれば、社内は動きません。いや組織として動けないのです。
 私は常にリテールであれば営業利益額と在庫回転率を全社共通の目標にするべきと考えています。そしてLTVや関与売上という評価軸をその下に置く事で、よりデジタルシフト、オムニチャネル化が進めやすくなると考えています。こうして評価を変え、その評価に沿った業務ルールに変えるのです。そのうえでルールが全社に公開され、トップダウンを待たずに必要に応じて改善・変更可能な事。誰もが自分で考えて行動できるように、評価や数値が常に見える化されている事。これまでのプロセスに加えてこうした環境が構築出来れば、あなたは自社のデジタルシフトを大きく前に進める事が出来、成果も上がるでしょう。

 6回に渡り、この25年間に事業会社の当事者として、客観的なコンサルタントして関わってきたオムニチャネル化、デジタルシフトの内容を凝縮してお伝えしてきました。読んでくださった方に少しでもプラスになれば嬉しいです。ありがとうございました。

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逸見 光次郎(Kojiro Henmi)
三省堂書店、イーエスブックス(現セブンネットショッピング)、Amazon、イオン、カメラのキタムラ等で店舗とネット(デジタル)の現場を経験、その融合を推進。 現在はオムニチャネルコンサルタントとして独立。現場から経営まで、継続的な顧客満足と企業利益を重視した全体最適視点の可視化により、デジタル化に悩む小売流通企業の支援している。
著書:『デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール』(翔泳社)

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