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リサーチ本の著者が教える、未経験からユーザーアンケート調査をはじめる時に覚えておきたい5つの基本

サイトやアプリへのアクセス時にポップアップウインドウを出して数問のアンケートを実施したり、あるいは、プロダクト(アプリのプログラム)内にサービスへの意見募集フォームを組み込んで実施する調査手法を目にすることが多くなってきました。

ユーザーアンケート調査というと、これまでは、外部の調査会社か社内のリサーチャーが、アンケートフォームをつくる→メールでアンケートURLを告知する→回答フォームに飛んで回答してもらう、という少し手間と時間のかかるプロセスが一般的でした。

しかし最近ではデジタルツールの高機能化に伴い、アプリ/ツールの付帯機能としてユーザーアンケートを簡単に実施する環境が整ってきました。デジタルマーケター・プロダクトマネージャー・UXデザイナーが直接、アンケートを行う時代になっています。

私はいま在籍している総合ECサイトの会社で、リサーチャーとして会社のブランド調査などを担当しているのですが、ここ2年くらいで「自分の担当サービス内でも短めのアンケートをやってみたい!」という相談を受ける機会が急速に増えてきました。

何度もアドバイスをする機会を得て気づいたことは…
・アンケートは主に新卒メンバーが担当する業務になっている
・一般の会社にはアンケートを学ぶための機会・体制に乏しい
・必ずといっていいほど皆が共通して質問してくる項目がある
ということ。

アンケートはもちろん誰にでもできますが、気軽にできるからこそ、気をつけておきたいポイントがあります。これだけスキルセットとしての需要が上がってきているからこそ、そもそもの基本的な設計の考え方や経験則に沿った判断基準が必要です。

このエントリーでは、私がもともと調査会社の「マクロミル」に在籍していた時の知見と、事業会社で12年間リサーチ業務を行ってきた中での経験をもとに、新人スタッフから受ける質問として最も多い項目かつアンケート企画の基本5点を解説します。

①質問数は何問くらいまで?→アプリ内では3~5問まで


質問数は何問くらいまでが適切か?

この問いに対する最適解を導くために、まずは身近なウェブサービスから見てみましょう。

動画好きの人には欠かせないYouTube。日々アクセスをしていると、高い確率でサービス評価を問うポップアップダイアログが現れます。

「今日のYouTubeはどうですか?」→素晴らしい/非常に良い/とても良い/良い/良くないの選択肢で、満足度を問う1問だけの構成です。

ただこの形式だと究極的すぎてしまい、YouTubeくらいサービスの便益が広い場合は致し方ないのですが、ふつうのサービスだと、どこを指してどう良かったのか/良くなかったのか、検証しづらい懸念がありますね。

身近なウェブサービスからもうひとつ。
こちらもアクセス時に現れるFacebookのプロダクトアンケート。

質問構成は、利用体験満足度、友だち人数の適正度合い、個人情報取り扱いへの印象についてなど、10問以上えんえんと続きます…正直、長い!

質問そのものはシンプルながらも、いろいろなテーマに切り替わる、選択肢の数が多い、全体で何問あるのか先が見えない、などの要因から、回答負荷はけっこう高くなっています。

さて、例示で短い場合と長い場合を見てきましたが、そろそろ「適性な質問数」への答えを発表しましょう。

サイト内でポップアップダイアログを使ったり、アプリのプロダクトにアンケートフォームを組み込む場合、最適な質問数は「3問~5問」程度です。

この基準は、通常のウェブアンケート調査時の「スクリーニング質問数」を基準にしています。

スクリーニングとは、対象者抽出を目的に行う事前調査のことで、「男性・会社員・年間の海外出張回数が2回以上」など、本調査の条件に見合う対象者をリクルーティングするための工程を指して言います。

調査会社でスクリーニングを行う時は、たいていは3問~5問の間でリクルーティングができるように設計します。これが回答者に負担をかけず、調査主側もすぐに対象者を選別できる質問数レンジなのです。

調査会社国内最大手の「マクロミル」の料金システムを見てみると、標準は「3問」になっています。

もっとも、調査会社でスクリーニングを行う場合には、あらかじめ標準的な基本属性が取れているなどの違いはありますが、純粋にショートアンケートを実施する時の基準としては、スクリーニングの標準質問数である3問~5問くらいが適切であることを覚えておきましょう。

②どんな質問をしたらいい?→成長ドライバーを握る質問


通常のウェブアンケート調査であれば、尋ねる質問は「サービスを知ったきっかけ・サービスで改善して欲しいところ」など、20~30問程度まとめて聴くことができますが、ショートアンケートではかなり絞り込む必要があります。

本来は20~30問聴きたいところ、究極の3~5問に絞るのですから、かなり難しい判断になります。長すぎると先のFacebookのアンケートのように、途中離脱する心理が働いてしまいますから、ここは慎重かつ大胆な判断基準が必要です。

質問に正しい優先順位をつけるのに、うってつけの本があります。

『Hacking Growth グロースハック完全読本』(日経BP社)
グロースハックの名著の訳書で、日本語版解説を(日本のグロースハックのトップランナーである)ZOZOテクノロジーズの金山裕樹さんがされています。

グロースハックとはそもそも、高速でPDCAを回してプロダクト改善を行う仕組みを指します。そのプロセスの中で、グロースハックのはじめの一歩として紹介されているのが「マストハブ・サーベイ」です。

紹介されている内容を要約すると、サーベイ、つまりアンケートを通じて「何がサービスの成長ドライバーになり得るのか」を突き止める作業がマストハブ・サーベイであり、質問内容も洗練されています。

マストハブ・サーベイ
Q.もし明日このプロダクトがなくなったら、どれくらいがっかりしますか?
すごくがっかりする/少しがっかりする/がっかりしない(あまり役に立っていない)/該当しない(既に利用していない)
(スケール形式の単一回答質問)
※本の85ページから代表的な質問を抜粋。

マストハブ・サーベイの質問要件からは、あまり多くを盛り込めない中で入れるべき、究極の質問の姿が見えてきます。それは、①ユーザーの利用フェーズに沿った質問、かつ、②サービスの成長ドライバーを握る要因となる質問です。

この原則をうまく実践している例が「マザーハウス」です。マザーハウスはバングラデシュをはじめとする途上国で自社生産したバッグ・アクセサリーを、日本をはじめとするアジア圏で販売しているメーカー・小売店ブランドです。

マザーハウスにはECサイトもあるのですが、サイトでの購入時アンケートが秀逸です。
そこでは、たった一問だけ、「今回のオンラインストアでのお買い物をするために、事前に店頭で商品をご覧になりましたか?」という質問に絞られています。

同社では店頭スタッフを「ストーリーテラー」と呼び、お客様に直接商品の魅力・開発背景を伝える店頭接点を大事にしています。自社の直営工場、生産地の職人の手作業にこだわりを持っており、そのブランドポリシーを物語っている1問です。

もちろんアンケートの設計意図は私の推測ですが(ECサイトの作り込みようからして、サイトで売れることがネガティブではないはずなので)、「自分たちのビジネス・業態の成長にとって意味のある質問」に絞り切っている良い事例です。

もうひとつ絞り込みがうまい事例を。
「ファッションのサブスクリプションモデル」で話題になったファッションレンタルアプリ「メチャカリ」です。

メチャカリでは、利用ユーザーへのアンケートを公式サイト上で募集し、結果をプレスリリースとして公表する形式を取っています。

アンケートは無料会員向けのものと有料会員向けのものに分かれており、その中でも注目したいのが、有料会員向けアンケートの中にある「あなたの職業をご回答ください」という質問です。

この質問自体は何の変哲もない基本属性を尋ねる質問のように見えますが、選択肢が秀逸で、フルタイム/制服あり、フルタイム/制服なし、パートタイム/制服あり、パートタイム/制服なし…となっていて、職場における制服着用の有無を確認しているのです。

(あくまで私の推測ですが)なるほど、ふだんの仕事での「制服のあるなし」によってレンタルサービスに求めるものが大きく変わってくることが推測されます。もしこの部分が販売職・事務職…などふつうの区分になっていたら分析に広がりは出ないことでしょう。

メチャカリのアンケート自体は少し長めの構成ではありますが、「サービスの成長ドライバー握る要因は何か!?」を意識したこだわりのある質問の好例になっています。

③どれくらい集めたらいい?→分析+公表の観点から算出


アンケートとは、ある母集団の中からランダムで対象者を抽出してきて、その中での回答傾向を見る「サンプル調査」の方式を取ります。このサンプルがどれくらい集まっていればよいのかというと…

一般的にアンケート結果は、「全体で400サンプル」あると代表性が保たれると言われており、物販・サービスの枠を越えたマルチカテゴリで12年間アンケートをやってきた私の実感値としても同様です。

(Markezineにマクロミル社員の方がインタビューに答えるマンガ記事があり、この説明がわかりやすいので、統計的な観点から根拠をより詳細に知りたい方は見てみてください)

アンケートでちょうどいい目標サンプル数を決めるアプローチはふたつあります。

目標サンプル数を決めるアプローチ、1つめは、「個別の属性グループごとの分析最小単位を積み上げて全体のサンプル数を決める」方法です。

ある属性グループの分析に必要な最小単位はだいたい50サンプル~と言われており、もしその属性グループが東京・大阪・名古屋・福岡(地域)のそれぞれ男女(性別)であれば、これで全体が400になります。決めやすい基準ですよね。

もっとも、デジタル施策で配信しているアンケートの回収数をコントールするのは難しいもの。どうしても、集まったら集まっただけ、という集め方になってしまいます。
内製型の調査で属性グループごとに均等に集めるのは困難なので、私たちが事前に対策できることは、配信数を上げてリーチを広げる方に焦点を当てるやり方になります。

例示で見てみましょう。
GIRLS’TREND 研究所」が発表している、調査リリース「平成の女子高生(JK)に関する世代別トレンド」調査~ライフスタイル編~の有効回答数を見てみると…

45才~48才女性(平成元年時に高校生)=140
37才~39才女性(平成8年時に高校生)=164
15才~18才女性(現役高校生)=109

このようになっています。

分析に必要な最低ラインを意識しつつ、できるだけ属性グループ間のバランスを取れるように努力していることがわかります。グループごとの分析最小単位が100~150くらいにそろうように心がけられていて、全体でも413サンプルを確保しています。

ちょうどいい目標サンプル数を決めるアプローチ、2つめは、「公表を意識した時のキリのいい数字をねらって全体のサンプル数を決める」方法です。

このやり方が抜群に上手いのは、結婚情報誌『ゼクシィ』です。
ゼクシィでは先輩読者から意見を集めて構成している記事が多く、結婚式・結婚準備の体験談を寄せてくれる「ゼクシィ花嫁1000人委員会」というモニター組織を設けています。

誌面で公表する記事のすべてが1000人のサンプル数を元にしたものではないのですが、広報上はモニター組織1000人というキリ番に意味があり、特定属性の数を多く集めることで、データの確かさを類推させています。

このように公表が前提になっている場合は、「どれくらいの数を掲げればインパクトがあるか?」を基準に目標回収数を決めていきます。

ただしキリ番でも、雑誌とテレビで多い「100人アンケート」は、キリの響きはいいものの、現実的な分析には耐えられないことが多く、有意の内容を公表するにはサンプル数不足であることが多いです。

公表で使う全体サンプル数の最低ラインは、個人的に200以上がおすすめです。公表時のインパクトは100とさほど変わりませんが、内容的に100の時よりも充実した発見が多くなってくるので、最低ラインの目安にしてください。

④回答謝礼って無いとだめ?→貢献意欲を満たす方が効く


回答の謝礼は、本格的な市場調査ではきちんと用意しますが、3問程度のショートアンケートであれば無くても大丈夫です。仮に薄謝を出しても、薄謝すぎると効果(告知インパクト)が無く、謝礼を出す意味が無くなってしまいます。

ウェブ・アプリ上でのショートアンケートを行う場合、むしろ、「無料でも答えてくれる関係性づくり」が大事と言えます。

ファンユーザーは利用しているサービスを良くしていくことで満足感を高める習性があります。「自分は生産的な活動に参加している」という手ごたえを感じられると、回答の早さ・回答の濃さが変わってくるので、ユーザーの積極性を引き出していきましょう。

具体的にできることとしては、アンケート冒頭の前文や告知メールの中で、「調査目的」や「データの利用法」をしっかりと伝えて、協力意欲を引き出していきます。特に、プレスリリースや商品開発など、想定しているアウトプットがある場合には効果的です。

⑤何日くらいで集まるもの?→3日以上は待ってもムダ!


ウェブアンケートの回収期間は、全般的に「3日間」が目安です。面白いもので、ユーザーアンケートでも従業員向けアンケートでも、3日をすぎるとパタッと回収の動きが鈍くなります。事業会社で12年間リサーチ業務をやっていますがこの傾向は変わりません。

調査会社で行うアンケートでは、金曜夕方配信~月曜午前終了のパターンが多く(つまり3日間)、仮に月曜午後以降に時間を延長してもたいして回収数は伸びません。どうしても回収率を上げたい時は、途中でメールの配信母数そのものを上げるようにしています。

アプリ内にフォームを組み込んでいるケースでは、もう少し長めの回収期間設定が可能です。プロダクトのPDCAサイクルが早いゲームアプリ業態から、乃木坂46メンバーとの学園生活シナリオを楽しむ恋愛シュミレーションアプリ「乃木恋」の例を見てみましょう。

アンケートはキャンペーン的な施策として登場しており、開催中のイベント一覧画面に一定期間表示されています。キャプチャしている第1回の時は、回答期間はおおよそ2週間程度と長め。回答によりそれなりのボーナスコインがもらえる形になっていました。

プロダクト内に組み込むアンケートは、メールで別途送るアンケートと違って、アンケートそのもののアテンション(開封・到達)に強く、ごく自然な形でユーザーの意見を収集できるので、ユーザー体験をプロデュースしていくには最適なやり方と言えます。

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ユーザーアンケート調査は、今後ますますサービスに関わる誰もがトライする可能性のあるスキルセットです。今回説明した基本を押さえておくだけでも、設計のスキルはぐんと上がるので、実施時に意識してみてください。

もしショートアンケートだけでなく、しっかりとしたユーザー調査にも興味を持った方は、拙著『ウェブ担当者のためのサイトユーザー図鑑』(マイナビ出版)をご覧ください。より詳細なユーザー分析方法を紹介しています。

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