有料サービスの方向性を考える会員アンケートの取り方

ファンクラブや優待プランなどの有料会員サービスは、利用メリットの旗印が鮮明な割に、「新規が増えない/退会申込が多い」「売上/利益インパクトが中途半端」など、有料の価値が社会でも社内でも認識されず、運営意義が問われることが少なくありません。

同じ状況は、本体事業から付帯的に立ちあがるオプション課金や物販展開でも同様に見られ、「売上の足しにはなっているけど、制作費・人件費を含めると赤字で、かといって廃止の判断が難しく、そのまま運営だけが数年続いていく」ケースもよくあります。

この原因は、もともとのサービス設計が甘いことのほかに、基幹事業ほどマーケットリサーチをせずに始めてしまって、その状態がリリース後も続いてしまうことにあるように感じます。いろんな意味でオプション的に運営されていることの弊害と言えます。

そこでおすすめしたいのが「有料会員アンケート」を実施する方法です。既にサービスを提供中の企業では有料会員に満足感を尋ね、これからサービスを開発する企業では広く一般のニーズを尋ねることで、有料の価値を定義して集客と収益に貢献ができます。

今回は「有料会員アンケート」の活用法を解説します。

※本稿の内容は、広義のSaaS/サブスクよりも少し狭く、有料会員サービスに焦点を当てて解説します。また、物販についても、グッズで収入を得るタイプの事業モデル(旗艦事業はあくまでサービス業)を想定しており、本格的なECやMDの話は含みません。

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▼ 有料会員アンケートの企画メリット

有料会員アンケートの企画メリットの企画メリットは、主に2つあります。

企画メリット

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①有料モデルの価値を診断できる

有料会員サービスは、サービス開始時こそ新奇性やお得さが感じられるものの、時間が経つにつれて相対的に価値が低減していき、事業者側からすると突然ユーザーが解約に至るケースが多く見られ、価値を出し続けるところにハードルの高さがあります。

会員アンケートを使うと、有料会員サービスの提供価値を事業目標ではなくユーザー視点から捉え直す機会になります。特典や機能などの各構成要素が、知られているか・役立っているかを確認することで、特典や料金をチューニングすることができます。

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②課金・物販の精度を向上できる

基幹事業のアップセル施策としては都度課金や物販の形式を取っている場合もあるでしょう。この場合はさらに事業計画を補填するような枠組みで始まることが多く、目標売上の埋め合わせのように商品・サービスが次々計画されていくケースもあります。

会員アンケートを使うと、ユーザーにとって適正な価格・品数・販路の基準を知る機会になります。スタートがプロダクトアウトになりやすい中で、チャネルごとの販売戦略を再設計して、ユーザーに届きやすく、使われやすい事業モデルを模索できます。

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ここまで、有料会員アンケートの企画メリットを説明してきました。有料会員サービスは何らかの形で中期的な展望を組織内で企画・提出する機会があると思うので、アンケートを活用するとベースとなるデータと方向性を導き出すことができます。

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▼ 有料会員アンケートのモデルケース

有料会員サービスにおける会員アンケートは伝統的に実施されており、新規事業として開発するためにニーズをヒアリングする形でもよく実施されています。これらのユーザーアンケートは文字通りユーザー向けに実施されるため、あまり見る機会は無いかもしれませんが、本稿で実情を見ていきましょう。

以下では、有料会員アンケートで代表的な3つのモデルケースを解説します。

モデルケース

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▼ ①実態把握モデル

実態把握モデルは、「会員種別ごとの認識価値の把握に使う」調査モデルです。有料会員サービスの業務実績はどうしても新規獲得と登録者数に集約されますが、アンケートではユーザー視点でサービスの実態的な価値を把握することができます。

実態把握モデル

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<質問構成>
①あなたの[○○]会員(ブランドの有料会員サービス名称)の登録状況にあてはまるものをお選びください(単一回答)【会員ステータス】
②[○○]会員(ブランドの有料会員サービス名称)が提供している下記の会員特典について、あなたがご存知のものをお選びください(複数回答)【会員特典認知】
③あなたが[○○]会員(ブランドの有料会員サービス名称)を退会された理由をお選びください(複数回答)【退会理由】※退会者対象

核となる質問構成は、①会員ステータス、②会員特典認知、③退会理由となります。

まず、①会員ステータスの質問を通じて、回答者の現在の状態を確認します。もちろん構成比は会員データベースでわかっているので、続く他の質問と掛け合わせて、プランやグレードの種別に応じて挙がりやすい利点や不満を知るために役立てます。

次に、②会員特典認知の質問で、(機能面も含めた)サービスの構成要素を焦点に検証します。提供していても認識されていないものも出てきます。そして③退会理由の質問を通じて、価格はもちろん価値が実感されない理由を吟味するようにします。

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ここでは、マンガ・アニメ・劇場版ともヒットしている人気作品「名探偵コナン 公式アプリ」のユーザーアンケートの例を見てみましょう。

<名探偵コナン 公式アプリユーザーアンケート>
①会員ランク Q.現在の会員ランクは?(ダイヤモンド/ブラック/プラチナ/ゴールド/ブロンズ)
②有料契約:入会理由 Q.有料会員への入会理由は?(各種ボイス/イベント/推しキャラ/壁紙/会員証/年間プラン…)
②有料契約:継続要因 Q.有料を継続するのに重要な機能は?(エピソード特集/スタンプ/裏話/アラームボイス/コナン検定…)

「名探偵コナン 公式アプリ」は、作品情報や独自機能を提供する作品のポータルアプリで、無料でも楽しめるほか有料会員機能も充実しています。ユーザーアンケートはアプリの周年企画の一環として実施され、使用感や希望について確認していました。

質問のメインは②③で、入会・継続にあたっての要因(コンテンツ・イベント・特典・決済など)を把握するもので、主に情報・機能の利便性を検証していました。また①会員ランクの質問により、加入期間ごとにデータを分析する趣意も感じ取れます。

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▼ ②需要確認モデル

需要確認モデルは、「有料形式への期待や課題の確認に使う」調査モデルです。これから有料サービスの導入を検討する企業にとって、月額料金や年会費は一度始めると変えられない重要な検討議題です。アンケートを使うとユーザー側に立ったニーズの程度や許容度のラインを知ることができます。

需要確認モデル

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<質問構成>
①もし[○○](ブランド名称)のサービスに有料でお楽しみいただけるプランがあった場合、どんな特典があると魅力を感じますか(複数回答)【特典ニーズ】
②前問でお選びになった特典を含む有料プランが、もし「月額○○円程度」だったとしたら、あなたは利用したいと思いますか(単一回答)【利用意向度・価格受容性:尺度回答】
③前問でお尋ねした有料プランについて、前問のように(利用したい~利用する気はない)と回答された理由を詳しくお聞かせください(自由回答)【利用意向度・価格受容性:自由回答】

核となる質問構成は、①特典ニーズ、②利用意向度・価格受容性:尺度回答、③利用意向度・価格受容性:自由回答となります。

まず、①特典ニーズの質問で、自社で検討している特典ごとのニーズを把握します。特典は主となるものと副となるものがあるので、マス層と特定層それぞれに期待されるものを知るために、総合スコアだけでなく属性別の受容度も確認するようにします。

次に、②③の質問で利用意向度+価格受容性を尋ねます。質問では提供予定のサービス内容の具体的な価格を提示することで、参照価格をもとに有料での提供価値を問うことができます。分析ではファン層と一般層の境い目を自由回答で見極めていきます。

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ここでは、ラグビーリーグのリーグワン(旧・トップリーグ)に所属する「静岡ブルーレヴズ」(旧・ヤマハ発動機ジュビロ)のファンクラブ会員アンケートの例を見てみましょう。

<静岡ブルーレヴズ ファンクラブ会員アンケート>
①適正価格評価:尺度評価 Q.年会費の印象は?(お得/ややお得/適切/やや高い/高い)
②適正価格評価:金額選択 Q.妥当な年会費は?(1,000円/2,000円/3,000円/4,000円/5,000円…)
③特典効果検証 Q.チケット割引率の満足度は?(満足/やや満足/普通/やや不満/不満)

「静岡ブルーレヴズ」ではファンクラブ会員アンケートを実施し、年会費の適正価格評価を問う①定性的な印象評価・②定量的な金額評価の質問で、ファンベースでの価格受容性を検証していました。(5コースあり、3,300円~上位は55,000円まである)

また③特典効果検証では、チケット割引率・チケット先行販売など主だったファンクラブ特典の構成要素ごとに満足度を検証していました。特典ごとに質問を分けて尺度評価を問うことで、(複数回答よりも)より精度の高い評価測定方法になっています。

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▼ ③物販展開モデル

物販展開モデルは、「物販のニーズや受容性の確認に使う」調査モデルです。物販を主力としない会社では販売業務の委託や子会社への分割により、なかなかマーケティング情報の全容をつかむのが難しい状態にあるものですが、アンケートを使うとリアルとネットの両方のチャネルを視野に入れた情報分析が可能です。

物販展開モデル

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<質問構成>
①あなたが[○○](チャネル名称)で[○○](カテゴリ名称)の1回あたりの購入にかける金額はどれくらいですか(単一回答)【平均購入金額】
②[○○](ブランド名称)では[○○](チャネル名称)でオリジナルグッズを販売していますが、あなたはこのことをご存知でしたか。また、商品を購入したことはありますか(単一回答)【販売チャネル認知】
③[○○](チャネル名称)で購入したことがある[○○](ブランド名称)商品の品目をお選びください(複数回答)【購入商品】※購入者対象

核となる質問構成は、①平均購入金額、②販売チャネル認知、③購入商品となります。

まず、①の質問では、チャネルを特定して商品カテゴリの平均購入金額を尋ね、ターゲット層の訪問一回あたりの予算に見立てます。同一人物であっても販売経路によって多少予算は上下するものなので、このデータは客単価を再設定する際に役立ちます。

次に、②販売チャネル認知の質問で、自社商品を流通先の販売店(あるいはオフィシャルショップ)で取り扱っている状況が理解されているかを確認します。物販では購入場所がわかることが前提となるので、そのうえで③購入商品を尋ねるようにします。

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ここでは、キャラクターのグッズやアニメが定番人気となっている「カピバラさん」のキャラクターアンケートの例を見てみましょう。

<カピバラさん キャラクターアンケート>
①趣味にかけるお金 Q.ひと月に趣味にかける金額は?(3,000円/5,000円/1万円/2万円…)
②販売チャネル認知 Q.グッズ専門店/通販サイトを知っている?(知っていて購入したこともある/知っていたが購入したことはない/知らなかったが購入したい/知らない)
③購入商品 Q.購入した/持っている商品は?(ぬいぐるみ/スマホケース/雑貨/文具/デジタルコンテンツ…)

まず、①趣味にかけるお金の質問では、趣味領域に対する可処分所得の割当を確認しており、この情報をターゲット層の限界予算として参照することができます。原価と利益から積み上げて売価を設定しても、ユーザーの小遣い事情を忘れてはいけません。

次に、②販売チャネル認知の質問で、リアルとネットで展開している販売チャネルの認知状況を確認しています。チャネルによってもターゲットの予算や商品の売れ筋は変わってくるので、オーソドックスな③購入商品の質問結果を活かすことができます。

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