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「ゴスペルでよく見かける発声練習」辞典

※2018.4/1 「足上げ発声」について加筆しました。

※2018.4/15「NAY」について加筆しました。

※2018.4/23「ハミング」について加筆しました。

※2020.2/20 「よく見かけるもの」だけでなく、「ゴスペルで使える発声練習」全般加筆しています。

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●「リップトリル」 「リップバブル」 「 リップロール」「 タングトリル」「ラトルスネイク」 

唇をプルプル震わせる発声練習のこと。

効能  

純粋なウォーミングアップ効果が狙える。発声練習は、ウオーミングアップと、筋トレと、神経支配の改善の三種類がある。これはあくまでウォーミングアップだ。息の量を最低限にして音程を上下できるので、声帯への負担を最小限に声帯と発声関与筋をストレッチすることができる。

・よくある勘違い 

「ブレストレーニング」だと勘違いしている人が多い。だから、唾が飛び散るくらい、息を吹き上げる人をよく見る。呼気量を強くしすぎると、結局声帯に負担がかかってしまう。「声枯れ」の原因の多くは「息を吐きすぎ」だ。下手したら、リップトリルだけで喉がれしてしまう人もいるだろう。

・ミックスボイス習得に役立つが副作用も

「強い地声を出しにくいエクササイズ」でもあるので、(口を閉じるような発声は地声系統の筋肉は働きにくい)裏声との連結がしやすくなる。つまり「ミックスボイス」的な音色を見つけやすいはずだ。

しかしながら、その副作用的な側面もある。「裏声と地声が良くわかりません」という方の場合、ますます裏声と地声がわけわからなくなってしまう。

なぜか?裏声と地声がくっついてしまうからだ。その場合はあくまでウオーミングアップとしてリップトリルを用いるだけにするのが良いだろう。

また、地声系統の筋肉が過度に動くのを防いでくれるわけだから、「地声は強くならない」。一年間このエクササイズばかり毎日繰り返せば、下手したら地声は弱まる。ゴスペル歌いの要である地声が弱くなってしまっては元も子もないだろう。

●「犬のお腹でハッハッハ」

腹部を触りながら「ハッハッハー」と発声させるエクササイズ。和田アキ子さんの「ハッ!」をイメージするとわかりやすいかもしれない。

・効能

「h」の子音は、声帯の内転を促すと考えられる。つまり、地声系統の筋肉がよく動いてくれる。わかりやすくいえば「声量アップ練習」だ

普段運動することもない、全く大きな声を出す機会もない、でもゴスペルをやりたい主婦,,,などにはこのエクササイズが効くかもしれない。また、腹筋群もよく動いてくれる。呼気系統の筋肉を動かす練習になるだろう。

・デメリット

腹筋群に過度に力を入れると、実は「喉が絞まる」ことがある。トイレで踏ん張る時、お腹に強く力を入れるが、その時に喉が開く人はいない。声が漏れるならば「ん〜〜」ときつく絞まった声だろう。

このことが原因で「ハッハッハー!」エクササイズで喉を枯らす人は多い。その場ではかれないものの、長年やることで、「なんとなく嗄声(かすれ声)っぽくなっている人」もいるはずだ。

また呼気を強く当てるため、声帯の負担も大きい。このエクササイズは俳優、声優などの育成訓練としても良く用いられるようだが、友人のトレーナーからは「このエクササイズのおかげで声が枯れる人が多発している」と聞いたことがある。

このエクササイズをやった後に「喉がなんかヒリヒリするな」と思ったらすぐさまストップしたほうがいいだろう。

・とはいうものの,,,

とはいうものの、特に集団レッスンの中ではとにかく即効性が強いエクササイズだ。これをやれば何となく、全体で声量がアップしてしまう。指導者がこのエクササイズに頼る気持ちもわかってしまう。

手っ取り早くみんなの声が大きくなるのなら、それ以上のエクササイズはない。生徒側としては指導者のそんな気持ちも汲み取ることも大事だろう。「このエクササイズをやらせたくなるほど、今、皆の声が出ていない」のだ。学習者として自分ができる取り組みとはなんなのか、考えるといいかもしれない。

●「マー」

ハミングからの「ア」や、「M」系の子音を使ってやるエクササイズ全般のことを指す。

・効能

「M」の子音を用いることで、軟口蓋の位置が下方に移動する。難しいことを言っているが、つまり「鼻腔に息が抜ける」。

この場合、大抵声帯の閉鎖は緩和する。喉周り全体の緊張も弛緩することが多いだろう。わかりやすくいえば、「のど声改善エクササイズ」なのだ。

地声系統の筋肉はどちらかといえば弱まり、音色としてはやや裏声らしい音色が入る。人によっては喉のポジションも下がり、いい感じに「深く、柔らかい音色」になるだろう。

・デメリット

喉声が一旦改善されるので、このままいけば喉が開いたスーパーシンガーになるような気がしてしまうが、鼻に息が抜けるくせがつくとそこそこ厄介だ。

喉声ではなくなるかもしれないが、音色はなぜかいつも柔らかい。それから暗い。そして息漏れしやすい。また息の消費は激しくなる。ロングトーンが持たなくなったり、言葉数が多いフレーズが苦手になる。

ゴスペルらしい音色からは遠ざかってしまう恐れがある。ゴスペルの強烈な地声は、「鼻に息が抜けない発声パターン」の方が多いのだ。むしろ逆のことをしていると言ってもいい。

もちろん、喉声を改善できるのだから、メリットはあるのだが、この音色がいつも正しいと思っていると、「発声の地図上」では、どんどん目的地から遠ざかってしまうだろう。

●「ロングブレス選手権」

「ssss」/「スー」などのブレス音で、誰が最後まで長く息を吐けるか、というグループボイストレーニング特有のエクササイズ。

・効能

呼気の筋肉だけではなく、「吸気」の筋肉も働かせないと、ポピュラーの音楽の時は安定した歌唱をすることは難しい。音響学者Sundbergや、歌唱指導者Richard Millerなどは、歌唱時に「吸気の筋肉と呼気の筋肉」が同時に働くことを認めている。西洋声楽の畑の指導者たちは、これを「ラロッタヴォカーレ(声の闘争)」などと読んでいる。

このロングブレス選手権はうまくすれば吸気系統の筋肉を働かせるためのトレーニングになるだろう。イタリアの伝説的歌手ファリネッリなども似た練習を提案している。

・問題点

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