声は頭に響かないという衝撃的ニュース
※「岩崎ひろきのクワイア指導論」にていつもお話ししているような内容を、今回は無料でお伝えしたいと思います。
こんなことを言われたことはないだろうか。
「高い声を出すときは頭に響かせなさい」と。
そして、こう思ったことはないだろうか。
「どうやって?」と。
もしくは、
「たくさん練習してるけど、いつになったら私の声は頭に響き始めるのだろう?」と。
実は、この問題。
まず、ちょっとトリッキーな事実を受け入れなくてはならない。
それは、「声は頭には響かないという事実」だ。
この事実を知ってからトレーニングを開始するのと、誤解をしたままトレーニングを開始するのでは、もうワケが違う。
こういった「声をどこに響かせる」という指導のことを「発声配置指導」と呼ぶ。発声配置には2つの問題がある。それを説明したい。
1,そもそも、声が響くのは「声道(せいどう)」である
画像で解説してみよう。
響く、つまり「共鳴」。現在の発声科学について、共鳴器として考えられるのは主に3つ。
1,鼻腔
2,口腔
3,咽頭腔
この3つだ。※鼻腔に関しても否定的な意見はある
「声道(せいどう)」という言葉を知っているだろうか?
声道(せいどう)(英: Vocal tract)とは、動物体内の音の発生器より発せられた音が、体外に放出されるまでの間に通過してくる、動物の体内の空洞のことである。(引用 : wikipedia)
「声が響く場所は、声道のみである」という現在の発声科学ではある程度定説になってきた。つまり、それは、「胸や、頭には声は響かない」とする意見だ。
よくよく考えれば、頭の中には脳がつまっている。声が響くような空洞が頭部にあったら死んでしまう。
でも、きっとこう思うかもしれない。
「いやいや、頭を触ると、かすかに振動する。それから、胸にも振動があるよ!」と。
その意見もわかる。がしかし、それは共鳴ではなくて「共振」だ。グランドピアノの足を触ると振動が伝わってくるが、そこに音が響いているわけではない。
体の震えているパーツ全てが「共鳴」だというなら、大変だ。「私は肘に振動を感じる。肘に、声が響くのだ」という人に会ったことがあるが、科学の話をしているのか、何かスピリチュアルな話をしているのか、わけが分からなくなる。
ちなみに「子宮に声を響かせる」という指導表現も聞いたことがある。男性はどうしたらいいのか問い詰めてみたいところだ。
2,共通の発声体感は存在しない
「頭に響かなかったとしても、私は頭に響いてる感じがする。だからアナタも頭に響かせるイメージを持って歌えばいいのよ」
と思うかもしれない。
これは本当に注意しなくてはいけない考え方だ。
この指導方針こそ、発声指導現場で混乱が生じる原因ナンバーワンだからだ。
例えば、高い地声を出す時の発声体感は、いくつも種類がある。
「前歯に声が当たるように」「おでこに声が当たるように」「とにかく声を前に出す感じ」
などが定番だろう。
これによってわかるのは、「人によって発声の体感が違う」ということだ。同じような声を出していても、発声体感とは異なるものなのだ。
だからボイストレーナーの仕事とは、「どこどこに響かせる」という自分の体感を共有する作業ではない。「どこどこに響かせる」と体感を共有したところで、目の前の生徒は違う体感を持つ可能性がある。
体感は人それぞれのものだ。そしてそれをどんな言葉で表現するかもまた人それぞれだ。
よくある発声現場の混乱パターンと、まとめ
そんなわけで、「発声配置指導」にはいつも混乱とストレスがつきまとう。
指導現場でよくあるパターンはこれだ。
1,講師が「こんな体感」だよ、と生徒に教える
2,講師の体感をもとに発声にチャレンジ
3,うまくいかない
4「いやもっと頭に響かせて!頭に!」と連呼が続く(それが科学的に怪しいということと、そもそもみんな感覚は違うということに気づいていない)
5やっぱりうまくいかない 辛い
という流れである。いや、もちろんうまく行くこともある。ただ、とにかく混乱が多い。
こういう話をすると、「じゃ、じゃあどうやって指導するの?」と良く聞かれる。
それがボイストレーナーの腕の見せ所だ。僕の指導手順はいつも以下の通り。
1,まず発声に成功させる
2,成功したら、「どんな体感」と聞く
この手順だ。まず発声に成功させるのだ。母音と子音、スケールを駆使して、発声に成功させる。そのあとに発声体感を聞く。そうすれば、生徒の中で、「声と体感」が結びつく。そうして声のストックが増えていくものだ。
だから難しい。とにかくボイストレーニング指導はいつも難しい。どんな母音を選べばいいのか、子音を選べばいいのか、どんなスケールにすればいいのか。ちょっと組み合わせを変えるだけで発声は一気に変わる。
どんな変化が起きるか、これを予想しながら次の一手を考えて行くのがボイストレーニングなのである。
「発声配置指導」。もう随分前からクレームがついている指導スタイルだが、今だにあちこちのボイストレーナーによって用いられている。
今あなたがボイストレーニングに励んでいて、そして発声配置的な練習をしていて、かつ効果が感じられないのであれば、違うボイストレーニング方法を試すのもいいかもしれない。
※「岩崎ひろきのクワイア指導論」にていつもお話ししているような内容を、今回は無料でお伝えしました。他の記事も、ぜひ読んでみてくださいね。
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