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大井川鐵道被災区間見学ツアーに参加して


大井川鐵道被災区間見学ツアー

 大井川鐵道大井川本線は、2022年9月の静岡県付近で発生した豪雨による災害で被害を受け、2024年5月現在も金谷-千頭間39.5kmのうち、川根温泉笹間渡-千頭間19.5kmで運休が続いています。同区間の復旧に関しては、静岡県が「大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会」を開催し、「早期の運行再開を目指した検討を継続する」という報告が出ているようです。

 大井川鐵道は、5月11日と18日に、「大井川鐵道被災区間見学ツアー」を開催しました。

 新金谷-家山は営業列車に乗車し、家山から先は貸し切りバスで移動。そして運休区間の一部である下泉-田野口は徒歩で歩くという内容です。なかなか変わった企画だと思います。新線開業前の公開とか、廃線を歩くツアーなら珍しくないですが、災害で被災し、復旧時期も定かになっていない区間を歩くというのは(別に系統的に調べたわけではないですが)ちょっと聞いたことがありません。

 5月11日にこのツアーに鉄オタとして参加してきました。以下は鉄オタとしての感想を綴ったものです。なお、特に徒歩移動区間はかなりハイペースでの移動となりましたので、いろいろと見落としや間違いがあったりするかもしれません。あくまでもざっと見ての感想です。

新金谷-下泉

ツアー開始は新金谷から。0950発1101レSL急行南アルプス11号に乗車です
1018家山着。ここから「貸切バス」です。実用的な車が来ました
下泉からはいよいよ被災区間を歩きます

下泉-田野口(被災区間徒歩移動)

下泉-田野口間略図。背景は地理院地図

 上の図は、ツアーで徒歩移動した下泉-田野口間の主な被災箇所を、静岡県「静岡県:第2回大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会」資料1(PDF)をもとに、現地での確認も踏まえて記したもので す。数字は金谷起点の距離です。なおこの資料(以下では「静岡県資料」と呼びます)は、今回の災害による大井川鐵道の被災状況の概要を知るための資料としても有用だと思います。同資料によれば被災箇所は下泉-田野口間だけでなく、川根温泉笹間渡-千頭間で合わせて24箇所に上るとのことです。

下泉駅すぐ北側のトンネル内

 下泉から歩き始めてすぐにトンネルに入りました。トンネル内では上部から水がしたたり落ち続けている箇所が複数見られました。大井川鐵道の方の話によると、このトンネルの水の状況はまだましな方とのこと。「大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会」の「検討会まとめ」(PDF)では、運行再開に要する費用として、老朽化したトンネルの機能回復に要する分がかなり大きいことが挙げられていました。

28.08km地点

28.08km地点。地図は地理院地図に加筆、写真は筆者撮影、以下同じ

 最初に目についた被災箇所は28.08km地点。小渓流から土砂が流出し、軌道上に堆積しています。地形図では判然としませんが、陰影起伏図もあわせてみるとごく小さな谷地形が読み取れます。この箇所の軌道脇でがけ崩れが生じている訳ではなく、上流側のどこかで生産された土砂が流出してきている状況です。流出した土砂により構造物が破壊されているような状況ではなさそうで、これはこの後の土砂流出箇所も概ね同様な状況でした。

 大井川鐵道の方の説明によると、この地点は被災後に土砂を一部除去したものの、その後も土砂流出があり、今見るように軌道上に土砂が堆積している状況とのことでした。

 静岡県資料ではこの先の28.20km地点にも「土砂流入」(鉄道側からの視点だと「流入」なんでしょうか)があるとされていますが、私にはよく分かりませんでした。

28.95km地点

28.95km地点

 次に目についたのは28.95km地点の土砂。ここは地形図でもなんとか読み取れるくらいの小規模な渓流から土砂が流出。やはり、軌道脇斜面のがけ崩れという感じではなく、もう少し上流から土砂が来ているようです。ここはレールがなんとか見える程度の土砂の堆積。これ以後田野口までの間の土砂流出箇所では、土砂の除去は行われていないとのことです。

29.45km地点

29.45km地点

 29.45km地点。ここは谷の出口は小さく見えますが、これまでの2地点よりは大きな(あくまで相対的にですが)流域を持つ小渓流。地形図上でざっと流域面積を測ってみると、1つ手前の28.95km地点の小渓流の数十倍規模と見られました。とはいえ、谷出口の軌道と渓流の交差部付近でも通常時には水の流れは見られない(当日は明らかに水の流れはありませんでした)程度の小渓流です。この渓流沿いには車道が1本見られますが、住家を含め建物は地形図からは読み取れません。

 この箇所の流出土砂量はこれまでの2地点よりは多く、大井川との合流部にはごく小さな扇状地状の土砂の堆積が見られました。ここでは路盤流失が一部見られましたが、2022年豪雨時に生じたものか、その後の水の流れで生じたものかは分かりません。静岡県資料の写真と見比べると、多分2022年時点で生じたのだろうとは思いますが。

30.20km地点

30.20km地点

 30.20km地点。ここは29.45km地点よりは小さいものの、明瞭な谷地形がみられる小渓流から土砂が流出。この小渓流内にも車道1本があるだけで建物等は見られません。

 ここでは軌道の上流側に、おそらく2022年の豪雨で流出してきたと見られる土砂の堆積が見られました。また、29.45km地点よりもやや規模の大きい路盤流失が見られました。この路盤流失も、2022年豪雨時に生じたものか、その後の水の流れで生じた(または拡大した)ものかは分かりません。

 この路盤流失により、軌道下部の地盤(堆積物)が露出して見えたのですが(上図右下写真)、これが現在軌道上にある土砂とよく似ているように思われました。俯瞰的に付近の地形を見れば明らかといえばそれまでなのですが、過去に同様な土砂流出がくり返されて、現在線路が通っている山麓の緩斜面が形成されている事が伺え、それはまた今後も繰り返されていくのだろうと思いました。

 なお、静岡県資料では30.25km地点にも「土砂流入」があるそうですが、私にはよく分かりませんでした。

30.40km地点

30.40km地点

 30.40km地点。ごく小さな小渓流から土砂が流出。ここではレールが見える程度の土砂堆積のみで、路盤の流失などは生じていません。この箇所では、小渓流と軌道の交差部の様子がよく分かりました。これまで見た土砂流出箇所はいずれも小渓流と軌道の交差箇所付近ですが、土砂に覆われてはいるものの、橋桁のような構造物は見られませんでした。各箇所とも、このような形で小渓流と軌道が交差していたのかも知れません。

 今回ツアーの徒歩区間で見られる被災箇所はこれでおしまい。ここから600mほど歩き、田野口駅に到着です。

田野口-千頭-家山-金谷

田野口からは再び「貸切バス」で千頭へ
千頭では取り残されている21000系への乗車体験と転車台を回す体験
千頭から家山に「貸切バス」で戻り、最後は4002レ快速急行~806レ普通で金谷に至り解散

おわりに

 徒歩移動した下泉-田野口間の被災箇所はいずれも軌道脇の斜面が崩壊したものではなく、軌道と交差する小渓流の上流側で生産された土砂が流出し、軌道上に堆積している形態でした。また、土砂などにより構造物が大きく破壊されている状況は見られず、今回の徒歩区間以外の箇所でも、橋梁が流失しているような、構造物の激しい被害形態は生じていないようです。しかし、「大井川鐵道本線沿線における公共交通のあり方検討会」の「検討会まとめ」(PDF)では課題として「鉄道施設以外の隣接した斜面や河川等の災害発生源の対策」が挙げられていました。確かにその通りで、鉄道施設の部分の土砂を除去して施設を復旧するだけではどうにもならないだろうなと思いました。

 ただ、これらの小渓流沿いには大井川鐵道と、若干の道路以外には住家等は地形図からは読み取れず、なんらかの対策を行うとして、その対策による防護対象はほぼ大井川鐵道だけということになりそうです。お金の仕組みのことはよく分かりませんが、どうしたらよいのか、というのはなかなか難しい問題なのだろうと思われます。鉄オタとしての偏った視点からは口を差し挟むべきものではないと思いますので、このあたりで話はおしまいにしたいと思います。

 今回のツアー、参加してよかったです。これは「専門家目線」になりますが、こういう現場を、被災からそれなりに時間が経過して、ある程度落ち着いた段階で多くの方に見ていただくというのは、いろいろな意味で重要な意義があるのではないかとも思いました。ツアーを企画し、当日も様々な説明、対応をいただいた関係者のみなさまに感謝を申し上げます。

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記事を読んでいただきありがとうございます。サポートいただけた際には、災害に関わる調査研究の費用に充てたいと思います。