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これからの高齢者は、 「ミツバチの働き」 を目指そう [ 後編 ]〜自分のニッチを見つけよう〜

安宅和人氏と大石佳能子氏のスペシャル対談[ 後編 ]です。

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定年制度は即刻、廃止!

大石:今後、日本はますます超高齢化が進んでいくことが予想されます。これからの高齢者は何をすべき、あるいはどのような存在を目指すべきだと思いますか?

安宅:まず、働ける人にはずっと働いてほしいと思いますね。僕が強く主張しているのは、年齢・性別による雇用差別の禁止です。つまり、「定年で終わり」というのは禁止したほうがいいと思うんですよ。

大石:能力があり続ける限り、雇うということですよね。無能であれば年齢にかかわらずクビ?

安宅:もちろんです。能力によって雇うというマインドにしない限りは、今の問題は解決しません。有能な人は90歳だろうが100歳だろうが、生きている限り雇うようにしたほうがいい。

もしこれが可能になれば、人間というのはがんばれる限りがんばるという生き物に変わるので、ずっと社会の役に立つわけですよ。寄りかかる側から納税側に変わる。人間というのは、社会の中でいる意味を感じないと、自分の価値を実感できないわけですよね。

社会的役割を与えることが真の幸せのためには本質的に必要であって、社会的役割を失った人に楽しく生きろというのはもう論理矛盾を起こしている。だから、労働を与えることが必要である、というのがそもそもの前提です。可能である限り、「正しい淘汰システム」に変えてくださいということですね。

大石:「正しい淘汰システム」とは?

安宅:ちょっと森にたとえてみますと、健康な木は樹種によっては50メートル以上に大きくなって、1000歳かそれ以上まで生きますが、弱い木は1か月で死ぬわけですよね。でも、今行われている定年制度は、どんなに見事な木も病気の木も、ある年になったら一斉に切り倒すというシステムなんですよ。

そうではなくて、われわれが目指すべきなのは「極相林」なんです。

大石:「極相林」って何ですか?

安宅:完全な原生林の最終状態が極相林なんです。はじめに、草むらがある。だんだん灌木が生えはじめる。で、もう少し大きい木が生えてきますよね。最終的に、大きい木も、小さな木も、変わった形の木も、いろんなものがいて林全体が安定化する。林床の豊かさがまったく違うのです。

そこを目指すべきなのに、いま何をやっているかというと、あるときに木を全部切り倒して、全部なくして杉を植えている。そして、全部同じような杉が育っていくから、現代社会は極相林になっていないんですよ。

このシステムは、あまりにも自然とずれています。自然というのはいろんな種類のものがいて、安定もしていて、相互に支えあって生きているんです。

われわれがよかれと思って、植林したり耕したりすると、その土地のサステナビリティを破壊してしまう。イースター島もそうやって、どんどん森が失われ、最後の一本の木まで切り倒し、禿げ山になっていって滅んでしまったわけです。古代文明を生んだメソポタミアやエジプトも砂漠になってしまった。

そうならないためにも、強い木にはいつまでも、200歳まででも働いてもらう。弱い人はどこかでリタイアする。「強制伐採システム」は廃止することです。

「ジャマおじ」ではなく、「ミツバチ」を目指そう

大石:安宅理論では、すべての人がこの森の一員としてキープ・オン・ワーキングという感じでしょうか。

安宅:そうですね。巨大な木は巨大な木なりの貢献をする。小さい木は小さい木なりの貢献をする。

大石:この森のそれぞれの人が、それぞれの役割があるという概念はとてもいいと思います。たとえば、孫の面倒を見ているおばあさんも、ちゃんと次の苗木を育てているわけですよね。

安宅:はい。あと、ミツバチの役割の人もいると思うんですよ。この自然界においては、ミツバチの役割は非常に重大で、温帯の植物の90%はハチなどの虫によって受粉しているんです。虫媒花に対する受粉係なんですよね。

大石:人の社会において、受粉係とは?

安宅:まあ、お見合いばあさんとか、子育て係ですよね。

大石:企業や個人のマッチングをやっている人もミツバチですよね。ここに困っている会社がいて、ここにこんな技能を持つ人がいる。全然、業界は違うけれど、この会社とこの人をマッチングさせて付加価値を生む。これは、ある種のセンスとネットワークさえあれば、年齢に関係なくできますね。

安宅:そうです。僕ね、最近よく「ジャマおじ(じゃまなおじさん)」禁止という話をするんですよ。ここ数年、「ジャマおじ」がこの国を滅ぼしつつあると言い続けてきたおかげで、けっこう広まってきています(笑)。

すると、「『ジャマおじ』にならないためには、何をしたらいいんですか」って聞かれることがよくあるのですが、そんなときは「次の3つのことをやってください」と答えます。

それは、①いい人を紹介する。②信用を与える。「こいつはできる」とか、お墨付きを与えるということですね。あとは③金を出す、と。

実はこの3つ、少なくとも「紹介」というのは、ミツバチの仕事じゃないですか。だから、「ジャマおじ」になりたくなければ、ミツバチを目指してくださいとお伝えしたいです。

まずは、自分の「ニッチ」を見つけよう

大石:安宅さんは、国レベルで動くミツバチですよね。そういう意味でいえば、ある業界とか会社、町内会で動くミツバチもいますね。私は業界のミツバチかな?

安宅:どこにでも、いろんなハチがいます。やっぱり、ニッチの数が勝負だと思います。

「ニッチ」というのは、実は生態学(エコロジー)の言葉です。生態学的にいうと、たとえば地表近く、人間の腰ぐらいの高さ、それ以上の高さ、と分けて考えると、それぞれのところで異なる生物相があります。このそれぞれの空間の中で異なる生物が異なる役割をなしている。光や栄養、構造などの条件の掛け合わせ、役割ごとに異なるニッチがある。

1つの空間の中に複数のニッチがあって、ニッチごとに異なる生き物が生きていて、それぞれ異なるメカニズムが働いている。

このニッチをたくさんつくるのが、実は生態学的な豊かさのポイントなんです。これが均一化すると、非常に弱くなる。だから、均一化した杉林なんかはすごく弱いんです。ニッチ多様性が少なすぎますから。

大石:それぞれのニッチに住む「おじ・おばミツバチ」になれ、ですね。

安宅:そう。ニッチが多様化するためにも、このミツバチなりミツバチ化したおじ・おばがいるわけです。だから、50、60になるときまでに、自分で巣を作るぐらいの力を蓄えておかないといけないでしょうね。

大石:自分のニッチが何かと内省することと、そこで生きていく力を持つことですかね。

安宅:そうですよ。ものすごく特異なニッチだったら、勝手に仕事が増えていきますし。たくさんのことを広く浅くやっている人ではなくて、1つのことを極めた人に仕事がたくさんきますから。

ちょっと前まで弊社にいて、芸大の院生に転身した女性が、昨今話題のグラフィックレコーディング(絵で議事録をつくる術)の開発者の1人になりました。あるミーティングで、やることがないから絵を描き出したら、それが仕事になったと言っていました。

これは、20代にしてもはやニッチを持っているということです。それだけ収入も入ってくるし物も売れるし、有名人になるしで、いいことずくめですよ。

大石:今の社会を変えていくヒントが「極相林」ですね。

安宅:はい。とにかく、この杉林的なビジョンを破壊したいんですよ。奥会津のような田舎に行っても、やっぱり森が杉化してしまっていますから。もう原生林が残っていなくて、全然美しくない。この問題は根深いと感じます。

森が杉だらけだから、みんな花粉症になっていますよね。本物の極相林だったら、花粉症にはなりません。だからわれわれは、本来あるべき森をつくってこなかったという反省をしなければいけないときが来ているのではないでしょうか。

人間も同じことをやっているわけです。新しいことをやる人を育てていこうと思ったら、やっぱり経験が要りますし、人を動かそうとしたらある程度老獪なほうがよかったりするわけですから、あるタイミングになったら経験が全部無価値化してしまうのは、社会として極めて不安定だと思うんですよ。

大石:その不安定な社会を、本来あるべき安定した社会にするためにも、われわれは「極相林」を目指していくべき、ということですね。

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▼何歳になっても、自分らしく過ごせるその仕組と環境づくりの最前線を紹介しています。


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