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無名作家のデビュー作が、発売1週間で重版した理由

ホラー小説『禁じられた遊び』(清水カルマ著)が、発売わずか1週間で重版。さらに7月に入り、追加重版も決定。書店の店頭でも好調に売れています。

この作品は、全国の書店員さんが選ぶエンタメ小説新人賞「第4回本のサナギ賞」の大賞作。目利き書店員さんから高評価を得ていました。

なぜ、無名の新人作家のデビュー作が、多くの読者に届くのか。
創作の秘訣を著者の清水カルマさんに聞きました。

ーー『禁じられた遊び』を書こうと思ったきっかけはなんですか?

とにかくエンタメを書こうと思ったのがきっかけです。
それまでは純文学的な作品を書いていたりしていたのですが、賞に応募してもなかなか受賞ができなくて。
それで「自分に書けるエンタメって何かな」と考えた時にホラーがもともと好きだったので、そのジャンルで書いてみようと思いました。

その時に『ベストセラー小説の書き方』(ディーン・R. クーンツ・著、大出 健・訳)という本を読みました。
ある作家さんのブログに「長編を書く前には必ずこの本を読み返す」と書いてあったので。


この本は色んなベストセラーになった本を分析し、共通点を見出しています。たとえば、タイムリミットを設定しサスペンスを生む仕掛けや、悩んでいるだけじゃなく、誰かのために立ち向かう主人公を設定するなどです。

まずはこの本の通りにやってみようと思いました。
特にプロットの立て方やキャラクター設定の仕方は参考になりましたね。

ーーエンタメ小説を書こうと思った時は、参考文献を読んだ方が良いということでしょうか。

こういう参考文献を読んで、プロットの立て方を勉強するのも大事だと思います。
でも、やはり1番重要なのは創作のアイディアを思いつくことです。
アイディアを形にしていく上で参考にできる本はあると思いますが、そもそもアイディアがなければ何もできないと思います。

ーー創作のアイディアはどのように出すのですか?

『禁じられた遊び』に関しては、たまたま見ていた他人のブログがアイディアの元になっています。
子供がトカゲの尻尾を持ってきて「逃げられた」と残念そうにしていたから、「尻尾からトカゲが生えてくるよ」って言っちゃったというブログがあったんですね。
それを読んだ時にバーっと話が膨らんできました。よく「アイディアが降ってくる」と言われることがある思うんですが、そういう感覚がありました。

その少し前に、ビデオジャーナリストの特集が夕方のニュース番組で放送されていました。それも面白いなぁと思っていたんです。

そのビデオジャーナリストが主人公像になり、トカゲのアイディアと組み合わさって、話が完成したという感じです。
大枠のストーリーはほぼ一瞬でできたと思います。ただそれを形にしていくのが大変でした。


ーー小説の創作をする上で、影響受けた本はありますか?

直接的に影響を受けたと思える本は思いつかないですけど、筒井康隆さんや安部公房さんはかなり夢中になって読んだので、影響は受けていると思います。

でも、小説をガシガシ読むようになったのはある程度の年齢になってからなので、もっと子供の頃に触れた漫画の方が、僕に影響を与えているような気がします。

例えば、高橋葉介さんの『ミルクがねじを回す時』という漫画作品があるのですが、子供の頃に読んですごく感銘を受けました。ホラーというより不思議な話なんですけれど。今でもとても好きです。

あと、日野日出志さんの『ウロコのない魚』という漫画があって、それも子供の頃に読んでトラウマになりました。
ウロコのない魚を釣り上げて、幻覚を見るようになって……という話です。絵が不気味で、なんの予備知識もなく読んだので、かなりショックでした。

他には、つのだじろうさんの『恐怖新聞』や『うしろの百太郎』。古賀新一さんの『エコエコアザラク』とか、思えば怖い漫画ばかりが印象に残っています。

一気に時間が空くのですが、そのホラー漫画の流れで、大学では江戸時代の怪異小説家である上田秋成で卒論を書きました。

秋成の『夢応の鯉魚』という作品から日野日出志さんの『ウロコのない魚』を連想したためです。実際は「夢」「魚」「死」という部分しか重なっていないのですが、子供の頃に読んだために記憶が曖昧になっていたんです。


ある程度、年齢を重ねてからはカフカや、これもまた漫画ですがつげ義春さんとか、さっき挙げた安部公房さんとか、不条理や寓話的な作品を好むようになりました。

寓話といえば、アンデルセンも好きです。心温まるお話だと思われているかもしれませんが、よく読むと可愛い女の子がひどい目に会う話ばかりです。実は屈折した話だというのが面白いですね。

そういった作家さんたちの影響もあり、小説を書き始めた頃は、寓話的な作品が多かったです。

ただ、そういうのはあまり需要がないようで、なかなか賞を受賞することもできなかったので、思い切ってエンタメ作品を書いてみることにしたんです。

もちろん大人になってから読んだ小説や漫画にも面白いものはいっぱいありましたが、それはもう理性と知性で防御しちゃっているので、純粋に心のど真ん中に突き刺さるということはないですね。

なので、やっぱり自分の「血と肉」を作っているのは子供の頃に読んだものだなと思っています。


ーーエンタメ小説を書こうと思った時に、今流行っている作品を研究したり、マーケットがあるジャンルを狙って書くと言うのはどう思いますか?

器用な人だったら、今流行っている作品を調べて、売れる作品を書くことができると思いますし、それはすごいことだと思います。

ただ、自分にはそれができませんでした。
たとえば、警察小説が流行っていますが、僕は苦手なんですよね。
「事件です」と電話がかかってきたら、いきなり正義感に燃えて自分の人生とは特に関わりのない凶悪犯に命がけで向かって行くというマッチョな展開にいまいち共感できない。
自分や身近な人物に降りかかる災いをなんとかしようと頑張るなら、しっくりくるんですけど。

ーーキャラクターをつくる上で気をつけている点はありますか?

エンタメ作品の場合だと自分に近いキャラクターを作るとお話が展開しません。著者自身がすごく面白い人だったらいいんですけど、まぁ大抵そうじゃない。
僕も、純文学っぽい作品を書いた時は自分がすごく出ているわけです。でも、それだと思い悩んでいるばかりで話が全然広がっていかない。

自分と関係なく面白いキャラを作った方がエンタメにはいいんじゃないかなと思います。自分からなるべく離れた方が、面白い展開を書けます。

ーーそうすると、キャラクターのリアリティはどうやって生み出すんですか?

それはよく言う「キャラクターが勝手に動き出す」と言う状況を作ることです。頭で考えていてはリアルには書けないと思うんです。キャラクターを設定してシチュエーションがあったら自然とキャラクターが動き出す。それがリアリティになる。

ーーキャラクターの作り込みはすごくされているんですか?

ある程度書いてからですけど、一応簡単な履歴書や年表のようなものは作ります。
主要な登場人物については何となくモデルとしてイメージしてる人がいます。それは、芸能人だったり知人だったりしますね。もちろんその人そのままではなく、だんだん変わっていきます。

ーー筆が止まってしまうことはないんですか?

もちろん、あります。僕は筆が遅い方だと思います。『禁じられた遊び』は半年ぐらいかかっています。

筒井康隆さんは作品の下書きをするらしいんですよ。チラシの裏にすごく小さい字でびっしり書いて、あとで清書するそうです。
それを真似しているわけじゃないですけど、僕もチラシとかレシートの裏に思いついたシーンを書いてそれをためていきます。ふと思いついた時に手書きで書いた方が考えがまとまりやすいんです。
裏の白い紙は部屋にためています。アイディアが思いついた時に、それをばーっと取って書くんです。

それで、ある程度たまったらパソコンで書き出して、組み合わせてみる。それから、シーンとシーンの間を埋めていく。でもそんなにうまくいかないから、一部を削ったりまた新しく考えたりする。

いきなりラストシーンから書くこともあるのですが、あとから作品が組み上がってくるとそのラストシーンがふさわしくなくて、また書き直したり。そうやって推敲をしてるから時間がかかります。

作品の冒頭から順番に書くと言う方もいらっしゃいますが、そんな書き方ができたらすごいなぁと思いますね。

ーー完成までの間に誰かに見てもらったりはするんですか?

基本的には無いですね。誰も見てくれないですよね、こんな長い作品。めんどくさいじゃないですか。

ーー執筆で1番大事にしていることはなんですか?

根気ですね。本当に地味な作業だし、延々やるわけじゃないですか。それを一年かけて二年かけてやっても無駄になるかもしれない。それでも書く。

ーーなぜ書くことを続けられたのですか?

他にできることがなかったからですね。
他に楽しいことや、できることがあったらそっちをやっていたと思います。でも、なかったから僕は書くしかなかった。
とにかく書き続けること。なんの反響がなくても、書くしかないですね。

嫌になりますよね。嫌になるけれど、しょうがない。他にできることがないから。それこそ業(カルマ)ってやつですよ。

ーー最後に、読者の方にメッセージをおねがいします!

『禁じられた遊び』はホラー小説ではあるんですけれど、ホラーである前にエンタメ作品として書いています。怖いものを期待するだけでなく、読んで「面白い!」と思ってもらえたら嬉しいです。


(編集部・林拓馬)


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