森田羊『少女マンガはお嫌いですか?』について

 正直、作品としてはあまり好きではない。人物の味付けがテンプレだし、そこでときめくのか? という描写があったり、モラハラ気味の男や女子高生が見ていて苛々する。

 ただ、この作品の主人公が「女子は少女マンガに何を求めているのか」を次のような形で語る部分には注目すべきだ。

「私ら女子は
現実で転んだら
手を差し伸べてくれるイケメンも
やさしく諭してくれるロマンスグレーのオヤジも
いないことくらい知っています

だからみんな自力で立ち上がっているんですよ」

夢見たっていいじゃないですか マンガの中でくらいは
求めたっていいじゃないですか 身近な男性に
そんな夢のような部分を」
(pp. 85-86)

 いつかブログで取り上げた、「ロマンティシズムとリアリズムの奇妙な融合」がここにある。少なくとも、この作品は少女漫画を単なるシンデレラ願望を持つ人の妄想として片付けることに異議を申し立てようとしている。それは厳しい現実を乗り越えるためのささやかな糧なのだ。

 しかし、こう啖呵を切ったはずの主人公が、仕事面でも恋愛面でも重要なところで日和ってしまい、女子高生や薬剤師の男に言われ放題、要求を飲まされ放題な展開が続くというのはどういうことなのだろう。夢を見て、それによって救われまた現実を生きる人の力強さが描けなければ、上のような啖呵は空しいだけなのではないか。

 また、「今の部署にしがみつこう」という気持ちだけでとる中途半端で保守的な態度は「夢を見る」ということとは無関係ではないか。主人公はもう夢を叶えてしまっており、転びも起き上がりもせず惰性で生きているだけなのではないか? (彼女の編集部の同僚のほうが、よほど漫画に対して情熱を持っている気がする。p. 105参照)

 この振り切れることのない主人公を見ていると、自分を見ているようでいささか嫌になる。彼女は少女漫画を好きでよく読むが、今の自分の人生は高原のようなものだと思っている。そういう人にとっては、実は少女漫画など何の役にも立たないのではないか、何の力も与えず、ただ流されるままにするだけなのではないか、という気持ちが湧いてきて、私はそこはかとなく虚しい。もしもそれが狙いだとしたら、これほど皮肉の利いた作品はないと思うのだけれど。

 この感想は1巻読了時のものなので、近いうちに続刊を追いたいと思ってはいる。

少女マンガはお嫌いですか?(1) (BE・LOVEコミックス) 森田羊 https://www.amazon.co.jp/dp/B0764837NW/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_Rj8dCbYHD3W

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