吉岡李々子『キミに小さな嘘ひとつ』について

 双子の姉妹の愛憎、偶然と運命、嘘と真実といった、物語を面白くする要素をこれでもかと詰め込みながらも、この作品をそういう切り口で語る気になれないのはなぜなのだろう。

 むしろ、そのようなストーリーの流れからすると本当に枝葉にすぎない一言に、私は閃くような輝きを感じる。

 例えば、夏祭りで金魚すくいをする千星の一言。

里見「どうした…? 難しいカオして」

千星「これ(金魚すくいで使う輪)を水に入れたら破けるが
入れないと取れない
そんな人生の縮図が今ここに」

(2/p. 41 )

 あるいは、夏祭り後の榛名ナコ(結構出てくるのに中盤までフルネームが登場しない、メインなのかサブなのかよくわからないキャラクター)の、夏祭り後の台詞。

「あたしなんて告ったうえに
キスまでしてよ? それなのに
なんて言われたと思うよ

『ごめん よく考えてまた連絡する』

なんっだソレ!
採用試験かよ!
本能で決めろよ! 本能で!
男だろ‼」

(2/pp. 68-69)

 こうした比喩のセンスや、ユーモアというよりウィットのきいた言葉遊びを、もっと見てみたいという気分にさせられる。

 この作品を描いた吉岡先生は最近、少し年齢層が上向けの作品を描き始めたような気がしたが、きっとそれが正解ではないのかなと思う。たとえば、日々に疲れた大人の生活実感を少し笑える感じで取り上げてみる、エッセイに近いような作品を描いてもらったら面白くなるかもしれない。

 この作品は実際、ふとした場面で中高生らしからぬ言語を使っている。例えば先ほどのナコの台詞には、学生に馴染みは薄いはずの「採用試験」という言葉が出てくるのだ。こういう語彙の選択ひとつに、その人の経験というのが意図せずして滲み出てしまうのだと思う。

 ストーリーの巧みさというのももちろん大切だとは思うのだけど、冒頭に書いたような要素がそれだけで陳腐に思えてしまうほど物語が飽和した今、上の引用のような感性をうまく作品に織り込んでいくことが、その作家の武器になるのではと思ったりする。責任はもちろんとれないので、創作する人には聞き流してもらって全然かまわないのだけれど。


キミに小さな嘘ひとつ 1 (プリンセス・コミックス・プチ・プリ)
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