刑事物語 りんごの詩

 鉄矢がテストの裏に描いたカンフー版「男はつらいよ」の第二作。前作で飛ばされた青森で店の金を持ち逃げした女を追う男連中を暴漢と勘違いし、過剰なまでにカンフーでやっつけて閑職へ追いやられた鉄矢。北海道から「強盗事件の手がかりかと」とリンゴの種だけを持ってきた刑事とリンゴ研究所へと行くと偉い研究者には「そんなもんで犯人わからんよ」とつっぱねられるも、可愛い研究員が個人的に育ててくれると。

 当然惚れる鉄矢。なんだかんだと過去があるっぽいけど、たいした問題でなく距離が縮まる鉄矢と女。育つリンゴ。飯に誘って楽しく過ごす鉄矢。家に送る鉄矢。「お茶を」と誘う女。部屋に入るなり「あなたにはすべてを見てほしくて」と脱ぎだす女。「前の男に傷をつけられた」と噂があったが、なんかそんなたいした傷でもない。漲る鉄矢。そして唐突に草原を走る鉄矢と女のシーン。まるで悪夢!

 そんななにかの手がかりになるかどうかわからないリンゴ栽培を捜査情報として堂々と新聞に取り上げる記者の岸部シロー。そんな記事を見て研究所を襲撃する犯人。棚はグチャグチャで育ててたリンゴの芽も踏みにじられる。おおよそ何の手がかりにもなりそうもないのに!鉄矢との愛の結晶と言わんばかりのリンゴの芽を踏みにじられ、もう証拠隠滅は完了したにも関わらず、バイクで逃走を図ろうとする犯人を追いかける女。走り去るバイクにしがみつき、引きずられる女。もう証拠となりそうなリンゴは研究所の中でぐちゃぐちゃに踏まれてるのに「返して!」と喚く。そして死ぬ。

 当然怒る鉄矢。北海道に乗り込み岸部シローをぶん殴る。北海道にしか配られてない新聞だから犯人は北海道にいるはずっていう青森にいてもわかることを確信して、なぜか青森に戻る鉄矢。当然、怒られて謹慎。謹慎中はいじめられっ子にカンフーを教え、親交を深める。つい最近、好きな女を亡くしたばっかりなくせに「お母さんと結婚しちゃいなよ」とガキに言われて晩飯に転がりこんで風呂まで入る始末。

 そんでなんやかんや、意外な犯人でしたとかで最後に乱闘。ガキに「ハンガーよこせ!」って言ったらプラスチックのやつで「ちがーう!木のやつ!!」って言う二作目にして一番有名なシーンも登場して、悲しいガキとの別れ。泣く鉄矢。そして「えぇかげんなやつじゃけぇ」

 最初から最後まで「強盗の現場に落ちてたリンゴの種」っていう証拠能力に乏しいものに鉄矢が固執し、犯人サイドも信憑性の低いそれを奪還し無きものにするために10年も逃げ続けてたくせにノコノコ捜査線上に顔を出すお粗末さなのに人が一人死ぬという間抜けさ。

 意味のないお色気もちらほらあったり、必要のない婦女暴行シーンも。人情派な物語の割に「何故、鉄矢と女が心惹かれるのか」や「いじめられっ子のガキが何故、鉄矢になつくのか」などの心理描写がほとんどなく、こんなにドメスティックなのに途中からフランス映画を見てるような不可解さが充満。

 カンフーシーンは増えるも、回し蹴りなどの時の鉄矢の足の短さは健在で笑える。カメオ出演のタモリの不必要に長いコメディーシーンの数倍笑える手足の短さ。それを補うためのハンガーヌンチャクで、だからこそ燃えるのではあるが、ガキとのカンフー特訓の際に神社の境内で何の前触れもなくハンガーを振り回すシーンはねじ式くらいシュール。第一作ではクリーニング工場でとりあえず掴んだハンガーだったはずなのに、披露したくて堪らなく、わざわざ神社まで持っていって練習する始末。

 そして、ガキに「強くなれ!」と教えるためにラストで取っ組み合うシーンでの鉄矢の容赦なさがスゴい。執拗に投げ、張り倒す。怖い。

 アクションシーンが多く、テンポも良くなった気がするし、シリーズ中では一番評判がいいとされてるけど、オレがノリきれなかったのは鉄矢の恋が一度成就したからだろうか。三回ほど「ふざけんなよ」と声が出た。

 それでも、一度、女が町中で男と歩いてるのを見かけた後にやけ酒飲んで彷徨う鉄矢のBGMとして流れる吉田拓郎「流星」が素晴らしく、これもまた吉田拓郎のPVとしては最高!


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