あたりまえのことができなかったあの頃

「新卒の頃の気持ちって色々とあたりまえになってしまって忘れちゃってるなあって、ふと思ったんですよね。」

訪問からの帰り道、僕は先輩と昼下がりの下町を歩きながら昔のことを思い出していた。

新卒の頃

新卒の頃は一挙手一足が重くて苦しかった。

僕の会社は1年目から裁量をもって仕事を任せてもらえる。お客さんからは当然プロとして見られるし、仕事を依頼する取引先の方や職人さんはこの業界で何十年も仕事をしてきた玄人だ。

みんな優しいから僕が1年目だってことを感情の面では理解してくれている。だけどやるべき仕事をちゃんとやることと感情の話はまた別だ。

職人さんに依頼をするたびに「こんな僕が偉そうにごめんなさい・・」そんな気持ちになっていた。だけどそんなことを思えば思うほど相手だっていい気持ちで仕事ができなくなる。

「仕事」ってなんだろうがわからないから、何がしたらいけないことで、何がしてもいいのことなのかわからなくなる。

お客さんにだって交渉したりフラットに相談したほうがいいことだってあるけれど、1年目の僕はお客さんと自分の関係は奴隷と雇用主のようなもので何もかもを拒否する権利はないのだと勘違いしていた。

何かをするたびに誰かを怒らせたり不満をもたせたりしている気がしてならなかった。自分がいない方が案件も、自分の会社も、身の回りの業界もうまくまわるんじゃないか。自分には向いてないんじゃないか。自分の存在は迷惑だ。そんな気持ちがこみあげてくる。

だけどそんなことを言っていても現実は変わらない。身の回りの人も不幸になるし自分も不幸になる。自分にできることは少しでもできることを増やすこと。愚直に取り組むこと。本当に無理なことは人にたよって諦める選択をすること。そうやって1年間を歩んできた。

4年目の僕

気づいたら自分も社会人4年目だ。直属の先輩が転職したりして、突然案件の窓口がたくさん増えたり、責任者として案件やプロジェクトに取り組む経験を何度もさせてもらった。直属の先輩がいなくなったことは惜しいことだけど、同時にその事実が色んな経験を運んできてくれた。

自分が責任者になるということは逃げようがないことだ。自分がやり抜かなければいけないしミスをしたときに誰かが代わりになんとかしてくれるなんていう逃げ道はない。その状態はヒリヒリする怖さがあると同時にとても充実していた。自分という人間を仕事で関わる人達が見てくれていると感じるようになった。良い面も悪い面も。自分で勝負して、人間と人間として関わる感覚。

1年目の頃は褒められるより怒られることの方がずっとずっと多かった。職人の方々とは同じ景色を見ることができず一方的にお願いするか、一方的に頼ることしかできなかった。

今は喜んでもらえたり、同じ目線で語れる機会がとても増えた。昔では想像ができなかった世界。もちろんまだまだ未熟中の未熟で、関わる人達もずっと歳が上の方々が多いから、その皆が今まで何十年も積み重ねてきた末にある今を、自分みたいなぺーぺーが無駄にしてはならないって意気込みながら、関わる方々の人生の一片を担うような気持ちで働いている。常に精進あるのみだと思っている。

今の僕と昔の僕

今のこの状態はなってしまえば日々を生きてきたら気づいたらすーっとなれていたように思ってしまっている自分がいる。自分のことだから大したことないって思っちゃうんだよね。登山とかもさ、してるときは大変だったりするけど、登りきったら案外あっという間だったんじゃないかな?なんて思っちゃう。あの感じ。

でも一つ一つの瞬間を振り返ると本当に苦しいことだってたくさんあったし、なんでこんなことやってるんだろうとか、いつ寝れるんだろうとか、身体はもつんだろうかとか、仕事のプレッシャーのことばかり考えて心が鬱になりかけて映画とか観ても感動できなくなったりとか、いろんなことがあった。

そんないろんなことを今があたりまえになってしまうとついつい忘れている。

新卒の本配属によせて

来週から新卒のみんなが本配属されて各部署にやってくる。僕の部署にも後輩がくる。本配属という形で後輩ができるのは1年以上ぶりだ。

そんな彼ら彼女たちが、かつての僕のように今目の前が本当に大変で、一挙手一足が苦しくなっているかもしれないことを僕は先輩として忘れないでいたい。たったひとつのメールを送るとか、たったひとつの電話をかけるとか、そんなことが不安で確信がもてないから一歩前に進まなくてつい後回しにしちゃったり逃げたくなってしまうあの感じ。それを「そんな簡単なことただやればいいだけなんだから深く考えないでやればいいじゃん。」とか思っちゃわないような自分でありたいなって、同じ景色を見れたらいいなって思う。

今の自分が簡単にできることは、かつての自分がどうしてかできなかったことだ。

初心を思い出す。ってこういうことであってるのかな?笑
そんな気持ちで来週を迎えられたらいいなって思う。週末は初心を思い出したりしよう。できれば外でお酒でも飲みながら。

サポートでいただいたお金は全てサポートに使わせていただきます。note村のスキの循環が活性化します。