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【検証】東北トップの進学校になら、リアル双葉杏が存在するはず!

スカイツリーのてっぺんからリンゴを落とすと、落下直前の速度はいくらになりますか?
スカイツリーは634メートル、重力加速度は9.8とします。

双葉杏「秒速111.474m!」

川島瑞樹「時速だと?」

双葉杏「401.306km/h!」

ドヤ顔で回答する双葉杏。アニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ」第9話より
(C)BNEI/PROJECT CINDERELLA


問題文が表示されてから回答までの時間、なんと約13秒
これはアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ」第9話において、ニート系アイドル・双葉杏(ふたばあんず)が見せた驚異的な計算能力である。

この話の簡単なあらすじは以下の通り。
杏が所属するユニット「CANDY ISLAND」はとあるバラエティ番組に出演するものの、番組内のクイズコーナーで劣勢に追い込まれてしまい、罰ゲームとしてバンジージャンプをさせられそうになってしまう。
過酷な罰ゲームを避けたい杏は、最も得点の高い科学の30点の問題を選択する。そして出題されたのが先ほどの問題というわけである。(※正確にはポイント制の競技ではなかったが、本題から逸れてしまうのでこの表現にしておく。)

一見、この問題をこのスピードで解くのはあまりに現実離れしているように思えるが、果たして本当にこれをファンタジーで済ませてしまって良いのだろうか?
今回は、この約13秒の間に杏がどのような思考回路で問題を解いたのかを考察し、その上で、実際に彼女と同じスピードでこの問題を解くことができる人間が存在するのかということを検証していく。

双葉杏はどのようにしてこの問題を解いたのか

その1.どうすれば速度が求められるのか

改めて今回出題された問題を見てみよう。

スカイツリーのてっぺんからリンゴを落とすと、落下直前の速度はいくらになりますか?
スカイツリーは634メートル、重力加速度は9.8とします。

今回、作中でのクイズの形式は、解答を最も早く口頭でシャウトした者が得点するというものであった。
そのような形式の中でこの問題が出題されると、一見かなり難しそうに見えてしまう。そもそもこの形式と問題が全く噛み合っていないため当然である。

しかし、実際は高校物理基礎で習う単なる自由落下運動の問題と考えることができ、そのことさえ分かれば、スカイツリーの地面からの高さをh〔m〕、重力加速度をg〔m/s²〕とすれば未知数である落下直前のリンゴの速度v〔m/s〕(>0)について
v²=2gh
という方程式が立てられることはすぐに分かる。
スカイツリーの高さと重力加速度の値は与えられているから、すぐにでも速度が求められそうである。

※空気抵抗は問題文で言及されていないため考慮していない。実際、双葉杏も考慮せずに計算している。また、問題文では単に速度(本来は方向を含めた量)と述べられているが、勿論今回は鉛直下向きの速度として話を進める。実は、この問われ方なら「水平右向きに0m/s」と答えても"速度"であることに変わりはないので間違いとは言えない。

その2.実際に双葉杏はどのような計算をしたのか


ここまでなら、直近で高校物理をひたすら勉強している人間ならばすぐに辿り着けるだろう。

しかし、この問題の肝心な部分はここからである。
先ほどの方程式にh=634、g=9.8を代入すれば
v²=2×9.8×634
となり、まず右辺の掛け算ですら少々複雑であり、これを常人が10秒あまりで暗算するのは中々厳しい。
それに加え、この暗算によって得られる値はあくまで求めるvを平方した値であるため、その平方根を取らなければいけない。
右辺をそのまま計算すると、
2×9.8×634=12426.4
となり、この平方根の値をそのまま求めようとするのはかなり大変である。
そこで、(2×9.8×10=196=14²)であることに着目すると、
2×9.8×634=(2×9.8×10)×63.4=196×63.4=14²×63.4
と一部平方数を作り出すことはできるが、63.4はこれ以上綺麗な値に持ち込むことはできないと考えていいだろう。

つまり、vの値を暗算で求める為には、2×9.8×634が14²を含む掛け算で表せることに気づいた上で63.4の平方根を暗算で求めてその値と14の積を求めるか、12426.4の平方根をひたすら暗算で求めるしかないのである。

この時点で匙を投げたくなってしまいそうだが、実はこの世には平方根の値を求めるための実用的な計算法がある。
その方法とは開平法と呼ばれるものであり、詳しい手順の説明は省くが、実際に開平法を用いて63.4及び12426.4の平方根を求めてみると以下のようになる。

開平法による63.4の平方根の計算。
同じく12429.4の平方根の計算。

手順を知らなくとも何となく全体を見てもらえれば分かってもらえると思うが、この方法、普通に面倒くさい。少なくとも、これを暗算でやるのはまだまだ厳しい。何なら上の計算はコンピューターに任せている。
ここで留意してもらいたいのは、双葉杏は秒速を小数点第4位を四捨五入した上で小数点第3位までの有効数字6桁で回答しているため、後に14との積をとる√63.4の場合はその値を最低でも有効数字5桁で、√12426.4の場合は有効数字7桁で求めなければいけないということ。
開平法の性質上、2,3桁目まで求めるだけならそれほど大変ではないが、5桁目や7桁目まで求めるとなるとかなり大きな数字の割り算とそれよりも複雑な操作を必要とする為、暗算でやるのは不可能とまでは言わなくとも、相当時間がかかるのは明白である。

※有効数字とは、位取りを示すだけのゼロを除いた意味のある数字のことを指す。例えば、3.14は有効数字3桁、0.01429は有効数字4桁。杏は秒速111.474mと回答しているので、有効数字6桁で回答しているということになる。

また、これにより√63.4≒7.9624、√12462.4≒111.4737と求められたため、これらを用いてvを計算すると
v=14×7.9624=111.4736≒111.474〔m/s〕
v=111.4737≒111.474〔m/s〕
となり、どちらの方法で計算しても杏の回答と一致する。

ちなみに、杏はこの後すぐに時速の値を聞かれた時も瞬時に回答しているが、これは秒速の値に単に
3600〔s/h〕÷1000〔m/km〕=3.6〔s・km/h・m〕
を掛ければ求められるため、上記の開平計算に比べればまだ現実的ではある。が、それでもすさまじい暗算力であることに変わりはない。

考察:なぜ双葉杏はわざわざ有効数字6桁で速度を求めたのか

※以降の考察ではそろばんに関する話題が登場しますが、筆者はそろばん未経験者であるため、誤りを含む可能性があります。そろばん経験者の方から見て不自然な点があれば指摘をお願いします。

ここまで杏がいかに複雑な計算を行っていたかを解説してきたが、そもそもこの計算は本当に必要だったのだろうか?

というのも、問題文では速度を有効数字何桁で求めればいいのかが明示されておらず、わざわざ有効数字6桁で秒速111.474mと回答する必要はなかったのではないかと考えられる。
むしろこの手の問題で有効数字が指定されていなければ小数点第1位を四捨五入して整数値で答えるのが一般的であり、わざわざ小数点第3位まで求めるのは少し不自然なのである。

そこで今回、杏はそろばんを用いた開平計算(平方根を求める計算)によって答えを求めたという説を提唱してみる。
というのも、そろばん十段の認定試験において出題される開平計算の問題を見てみると、その答えの有効数字は最大でも5桁になっているのである。(※筆者調べ)
ここで、先ほどの開平法で√63.4の値を最低でも有効数字5桁で求める必要があったことを思い出してほしい。
つまり、√63.4の値をそろばんの段位認定試験で要求される限りで最高の正確さで求めた場合、杏の回答とぴったり同じ正確さで速度を求められるのである。
すなわち、杏がそろばん十段の認定試験の問題を暗算で解けるほどの実力を持っていて、手癖で開平計算を有効数字5桁で行ってしまったと考えれば、杏がわざわざ整数値などではなく小数点第3位まで含めて回答したことも、異常なまでに暗算が早いことも全て説明がつくのだ。
実際、そろばん十段の人が開平計算を行っている動画などを見ると、√63.4の値を5桁目まで求めるのを10秒前後で行うのは現実にあり得なくないように思える。
そろばん十段は年間合格者40~50人と言われるほどの難関試験。杏がこの試験の問題を暗算で解けるほどの実力を持っているとなれば、今すぐにでもそれを売りにしてアイドル活動をすることを勧めたい。

結論(仮)

以上のことを踏まえると、杏と同じスピードかつ同じ正確さでこの問題を解くのは常人にはかなり厳しく、そろばん十段相当の実力を持つ人間ならば不可能ではないかもしれないという結論に至る。
杏はまだ17歳と若く、その年齢でそろばん十段相当の実力をつけるためには幼少期からの壮絶な努力が必要であることは確か。彼女がそのような努力をする性格であるとは思い難いため、やはり双葉杏は空想上の存在でしかないのかもしれない。

それは嫌だ。双葉杏が実在しないなんて信じたくない。

そうだ!杏の出身地は北海道で、大体東北だ。
つまり、東北地方のあらゆる叡智が集合する東北トップの進学校になら、リアル双葉杏が存在するのではないか?
希望はまだ潰えていない、リアル双葉杏の存在を証明しよう!

リアル双葉杏を求めて、某進学校で検証する。

先ほど演出の都合上北海道は大体東北であるという詭弁を弄してしまったが、実際は全く別の地方なので、ここで謝っておきたいと思う。申し訳ございません。

ゲーム「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(デレステ)内の営業選択画面。北海道と東北地方がまとめて『北東地方』とされている。

とはいえ、東北でこの記事を執筆中である私が今から北海道の進学校に検証しに行けるはずもなく、今回は東北トップの進学校であるS高での検証で妥協させてもらう。
S高は偏差値が70を超えており難関大合格者も多いため、杏並の暗算力を持つ人間が存在する可能性は十分にある。
そして残念ながら私はS高には通っていないので、現役S高生である友達のY君に検証をお願いした。

かなりダルい要求

画像にもある通り、今回は制限時間を30秒、有効数字は最低3桁と、少々ハードルを低くお願いした。
実際に杏と同等の結果をこの検証体制で引き出すことは相当難しいと考え、リアル双葉杏のポテンシャルさえ確認できればOKということでこの条件で設定させてもらった。
30秒で有効数字3桁という正確さでこの問題を解くのもかなり難しいため、これができたらその人はもうリアル双葉杏のポテンシャルを有しているといっても過言ではないだろう。

ここで余談だが、2011年12月に放送された頭脳王という番組でほとんど同じような問題が出題されており、その際は数学オリンピック金メダリスト手計算で、約25秒で、有効数字3桁で時速を導き出していた。
勿論数学オリンピックで金メダルを獲るとなると極めて高度な数学能力が求められるが、暗算力が求められるわけではない。
それを踏まえても、杏が暗算で、約13秒で、有効数字6桁で答えを出したことがいかに人間離れしているかが伺えるだろう。

さて、Y君に検証をお願いしてから約9時間後。今回はグループLINEで連絡をしたため、S高ほどでないがかなり偏差値の高い高校であるI高に通っているT君も検証に協力してくれた。手数は多ければ多いほどいい。
そしてその結果、

T君の検証結果報告

と、なんとも微妙な結果が返ってきた。
ちなみに「動画はとってない」というのは、私が暗算を極めた人間の暗算をしている姿を見てみたいという好奇心から可能ならばと動画の撮影をお願いしたため、それに対して返してくれたものである。

√64に近いからウンタラカンタラというのは、平方根の近似値を求めるのにあたって最も手っ取り早い、「根号の中の値に最も近い平方数から近似値を求めていく」という方法のことだろう。
64=8²であるため、64に近い63.4の平方根の値は大体8だろうということが予想できる。
実際、先ほども求めた通り√63.4=7.9624…であり、この方法は大体の値を求めるだけならかなり有効であることがわかる。
しかし、今回は有効数字3桁以上を要求されているため、√63.4≒8と近似してしまうと、
v=14×8=112
となり、実際の答え(v=111.474)と一の位でずれが生じてしまう。

ちなみに、T君は数学を得意教科としており、そんなT君が"暗算ガチ勢"と評するほどの人であるから、確かな暗算力は持っているはずである。
しかし、開平計算となればやはり話が別になってくる。単純な四則演算では超えられない壁が、リアル双葉杏への道を阻んでいるのだ。

ここで、T君からの検証結果報告からすぐに、Y君からも結果が送られてくる。

果たして、東北トップの偏差値を誇る進学校、S高には、リアル双葉杏は存在しているのか?


検証結果は…!



いなかった。


結論

東北トップの進学校には、リアル双葉杏は存在しなかった。


まとめ

今回はリアル双葉杏の存在を確認したいという思いでこの記事を書き始めたが、結局そんなものは存在しないという悪魔の証明じみた結果となった。

しかし、今回調査したのはあくまで2つの高校のみである。あくまでこの2校では残念ながら存在を確認できなかったというだけで、世界はまだまだ広い。そもそも結論(仮)で述べたように、そろばん十段相当の実力を持つ人間ならば不可能ではないだろうと私は考えている。
これからも私は、どこかに存在しているリアル双葉杏を求め、調査を続けていくことだろう。

また、双葉杏がいかに凄いことをやってのけていたかということも前半の解説で理解していただけたと思う。私は何の専門家でもありはしないため、解説に不備があれば申し訳ない。

そして、この記事を読んでくれた方がリアル双葉杏の存在を確認した場合は、ぜひ私に教えてほしい。そうすると、私がうれしい。

それでは次回は、【検証】東北トップの難関大学になら、リアル双葉杏が存在するはず!でお会いしましょう。

さようなら。

みんなの疑問を一気に解決しようのコーナー


Q. √63.4の計算をする前提で話が進んでた部分があったけど、その前に2×9.8×10=196=14²なんて短時間で気づけるわけなくない?

A. そうでもないかも。高校物理の問題においては、当然物体の速度を求める場合がたくさんあるわけで、その際に重力加速度の平方根が絡んでくることもまた多い。g=9.8=49×0.2=7²×0.2であるから、これを利用して楽に計算をするという意識を持っている受験生は少なくないはず。つまり、高校物理を学ぶ人間は勉強の経験から重力加速度を利用して平方数を取り出すというプロセスが頭に入っていることが多いため、2×9.8×10=196=14²というのにもすぐに気づけておかしくないのではないかと思う。でもまあ難しい。

Q. そもそも答えを暗記してたんじゃないの?

A. その可能性も十分ある。ただ、その場合「わざわざ整数値じゃなくて有効数字6桁で覚えるのか?」という疑問が付きまとってくる。勿論暗算の場合も「わざわざ有効数字6桁で計算するのか?」という疑問が生じるわけだが、その疑問は考察で説明したような場合なら何とか解消されるのではないかと考えている。自分でもあの解釈はさすがに無理があるなとは思うけれど。

Q. サマーウォーズのアレとどっちがすごい?

A. サマーウォーズの方が比較できないぐらいすごい。




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