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SNSで提供して頂いた写真で詩や物語を書きました。donorは"提供者"という意味です。
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記事一覧

#08【日記】きゃりー

#08【日記】きゃりー

こんばんは。

とても些細なことなのですが、このnoteの書体を明朝体に戻すことができました。半年ほど前にアプリをアップデートしたら、ゴシック体に勝手に変わっちゃったんですよね。まぁ、自分みたいに創作する人よりもコラム的な文章を書かれる人のほうが多いから、そうなるとゴシック体なのかなぁ、と思ってやり過ごしていたのですが、なんてことはない、設定で明朝かゴシックか選べるようになっただけでした。てへぺろ

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誰にも負けない身体と心

完全に統制された空間の中で、わたしだけが偽物である。とんだスパイ野郎だ。スパイのわたしはひとりひとりの顔や魂をこんこんと観察する。見た目に一般人との差異はないが、彼等の背中には、背骨に沿っていっぽん線のタトゥーが入っている。もちろん普段は服に隠れているわけだが、彼等の使命は、その線を常にまっすぐに保つことである。ぴんと背筋を伸ばして生きるのだ。笑うときも。泣くときも。食べるときも。交わるときも。タ

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考えるフリ/知らないフリ

考えるフリ/知らないフリ

 僕はソファに座り、ぼんやりとテレビドラマを見ていた。彼女はワイングラスにウイスキーをなみなみと入れて飲みながらスガシカオを歌っている。コーンフレークとスープ、という歌詞が聞き取れた。僕は何回か「テレビの音が聞こえないから」と注意したが、彼女は「うん」と言うだけでまたすぐに歌い始めてしまう。僕はソファの裏側を指で彼女に聞こえない程度の強さで叩いた。テレビの中では刑事が聞き込みを重ねていたが、僕の耳

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透明なこどもたち

坂の上から
透明なこどもたちが
ころがるように
笑いながら歩いていく

太陽は
お役ごめんと
西へ

東京タワーが
オレンジ色に煌めいて
わたしにもひかりが
ほんの少しだけ分けあたえられる

「世界でいちばん美しいものってなんだと思う?」

透明さを鼻にかけたあの人は
たびたびわたしに問いかけた

「なんだろう」

わたしはそのたびに考えた

からまった線をほどいて
イヤフォンを両耳に入れ

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donor_09_End_滾らない吸血鬼

「なに言ってるの?」
気づくと彼女は僕のそばまで戻ってきていた。目の前に立つと、ちょうど僕の鼻あたりに彼女の頭がくる。

「買い物して帰るから、先に帰ってて」と彼女は言った。「おれも一緒に行こうか」と訊いたが、彼女は顎を引き、僕の顔を一対の目でしっかりと見定めてから、いいの、ひとりで行くから、帰ってて、ときっぱりした口調で言った。

仕方なく僕はひとりでとぼとぼ家まで戻った。僕らは、さっき

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donor_10_End_太陽と詩人

太陽は(も)夢を見る
遠ざかる意識に身を横たえて
カラダに刻まれるそのビートを
時に心地よく時に疎ましく思う

頭から爪先にかけて
とろっとした液体が流れていく
あたたかくもつめたくもない温度
きっともうこれは夢の中だと
判断して太陽はねむる

太陽はねむる

詩人は想像力でもって液体となり
太陽のまわりをぐるりと囲みこんだ
熱に溶けぬように太陽の呼吸に合わせて
気体と液体を行ったりき

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僕のグッド・ウィル・ハンティング

午後のニュースによると、大きな勢力を保った台風がいよいよ東京に近づいていて、電車が止まったり遅れたりしているようだ。でも、僕はお休みだから関係ない。みんな会社から帰れなくなったりするのだろうか。傘が盗まれたり、買ったばかりなのに壊れたり。みんなって誰のことだ。僕の家には傘がないから、雨の日は一歩も外に出られない。雨はこれで休みなく、三日三晩降り続けている。家には食べ物もないから、僕はとてもお腹が空

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吾郎月おじさん

吾郎月おじさんは泣いていました。男の人にしてはかなり薄い肩を、ひらひらとゆらして歩きながら。いつも、こうして夜道で泣くのです。夜だから悲しいわけではなく、吾郎月おじさんは毎日、朝から夜までたくさん涙を流します。首もとにくっきりと遺った手術の傷痕を、右の人差し指で撫でてから、ゆっくりと首を動かして夜空を見上げます。常にサングラスをかけているので、星はほとんど見えません。サングラスは度入りで、これを外

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冷たい夜の海の底

言葉だけをたくさん
散り散り部屋にバラ撒いて
妙にすっきりした顔の
君が出ていきました

やさしさとは何だったのか
わたしは夜じゅう考えました

言葉には「匂い」があります
そのひと独特の特別な匂い
冷たい風に消滅してしまわぬように
わたしは窓を閉めました

君が居ないことは
それほど怖いことではありません
わたしが恐れるのは
それをわたしが忘れることです
身体を通り抜ける食べ物のよう

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太陽と詩人

詩人はその領域に
指一本も触れられない
森で巨大な熊に出会った武道家が
瞬時にすべてを判断し
座して運命を受け入れようとするのと
同じように
詩人はここを踏み超えることをしない
目の前に在る灼熱の太陽に
触れないのと同じように

もし太陽に触れたならば
詩人の手は無事では済まないし
恐らく存在が消滅してしまうだろう

太陽は常に熱い
詩人は温度や形がぐにゃぐにゃと
変化するからやたらに悩む

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滾らない吸血鬼

「なに言ってるの?」
そう言って彼女はスタスタと先に歩いていってしまう。「あー」とか「もー」とか言いながら僕はあとをついていく。

彼女はいつも男前だ。不透明な言動や矛盾を嫌う。むかむかするときは素直にむかむかした顔をする。僕が事情を訊くといかにも苦々しそうに話すが、途中でいきなり笑ったりする。あっはは。つられて僕も笑う。僕からの話は聞いているのかよく分からない。真剣な面持ちで頷いたり「大変ね」

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離れた左腕

医者からもらった抗生物質を飲まなかったのがいけなかったのか、ぼくの左腕は肩からすっぽりと抜けてしまった。日々黒ずんでいくそれに多少の恐怖は感じていたが、特に気にせず暮らしていた。しかし、牛丼屋でどんぶりを持って食べている最中に左手の感覚がなくなったかと思うと、長袖の中でぼくの左腕はぼくから離れてしまった。ぼくはどんぶりをテーブルに置き、コップに半分ほど入っていた水を飲み干し、右手で左腕が落ちぬよう

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てろん

女の裸のユメを視る
おなじ生き物のはずなのに
こうも違うのはどうしてなのか

僕の体は不快な皺だらけだ
皮膚は象のようにざらざらと硬く
指で触れると皺の線にひっかかる

てろん とした 裸の女

見たことのない横顔
視線の端で僕を見ている
青い冷たい瞳
シーツにひろがる黒い髪

吸い寄せられるように近づき
うつぶせの背中に僕の汚れた手を置くと
積もりたての雪に触れたときのように

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頁をめくる

 付け焼き刃かもしれないが台詞をひとつだけ用意して、君のもとへ自転車で急ぐ。直接会って話すのは四日ぶりだ。

 電線の上のカラスが私を見て「アー」と鳴く。ひとりひとりのカラスに本当に帰る巣があるのだろうか。都会のカラスはハンガーを使って巣を作ると聞いたことがあるが、私はほとんど巣を見たことがない。カラスは毎日色んな場所でたくさん見るのに、どう考えても数が合わないと思う。私は電線の下をくぐる瞬間、

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