食欲と性欲

私は食べることが好きです。
身長170センチの体重48キロで、どちらかというと痩せているため「全然食べないんでしょ?」とか「ずっと豆食ってんの?」とか揶揄されることも多いけれど、基本的には何でも食べるし、Pinterestで夜な夜な「鍋」とか「パクチー」とか検索して画像を保存しまくるくらいには食べ物への愛情もあります。

食べ物が出てくる小説やエッセイを読むのも好きです。文章から料理の匂いが香ってくると、物語にいっそう入り込むことができます。村上春樹氏の小説の中でサンドウィッチやパスタを作っている描写があるとそれを食べたくなるし、江國香織さんがエッセイで「トマトジュースは身体の隅々に染み渡る気がする」と書いているのを見てからは毎日トマトジュースを飲んでいます。飲むたびに「うーん、隅々に染み渡るなぁ」としみじみ思っています。ちょろいのです。

だけど、食べることが好きではない人がいることも認識しています。食べることを苦しく思っている人がたくさんいます。最初は、そういった人たちの気持ちを理解するのは難しいことだと思いました。でも、食べることへの恐怖心は、私のセックスへの恐怖心とほぼ置換することができることに気づきました。食欲と性欲は一見全くの別物ですが、ほぼ全員が持っている欲求、という意味では共通しています。私は10年くらいセックスをしておりません。何故なのか自分でも分からないのだけど、突然怖くなってしまって、他人の性欲も自分自身の性欲も、恐ろしく感じるようになってしまいました。セックスはしなくても生きていけますが、食事はそうはいきません。

昔よく読んだ銀色夏生さんの詩集に、「恐いという感情に素直になっていい」と書いてあって、それからダムが決壊するがごとく、自分が恐ろしいと感じているものをすべて認識できるようになりました。そのひとつが電車であり、そのひとつがセックスです。性欲もあって、身体も反応するのに、それ以上が恐いのです。自分でも不思議に思います。どうしてこうなったのか、カウンセラーみたいな人に諭され説明されたとしてもたぶん納得できないと思います。それくらい、私に色んなことがぐちゃぐちゃに起こり、恐怖が確立しました。克服するべきなのか、自分でも分かりませんし、今のところ、何かを変えようとも思っていません。

みなさんの恐いものが何なのか私は存じませんが、それでも生きていける世界であればいいな、と思います。当然の文脈として「男ならみんなエロいでしょ」と言われるたびに苦笑いするしかない人間もいます。ここにいます。


#日記 #エッセイ

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