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【詩】真夏の夜の嘘 - リマスター

ひどく喉が渇くので、水を3杯飲んだ。渇いて、渇いて、唇がひりひりと痛む。身体中が砂になって、ひび割れて崩れていくような、どうしようもない渇きだ。むし暑い真夏の夜。汗ひとつかかず、僕はひらすらに水を飲んだ。ビールを飲みたいと思ったが、冷蔵庫には入っていない。  

熱があるかもしれない。  

僕は立ち上がり本棚の上にある救急箱から(胃腸薬と睡眠薬とたくさんの種類のアレルギー薬が入っている)体温計を取り出して脇に差し込んだ。ベッドに腰掛けて、5杯目の水を飲み始めたところで彼女からメールが届いた。


「熱が出たみたい」
「おれもかも。今、熱を測ってるところ」
「すっごく喉が渇くの」
「同じ。熱はある?」
「さっきは38.6度だった」
「結構高いね。おれもそのくらいあるかな」
「熱測ってるの?」  

そうだよ、とメールを打ったところでピピピと体温計が鳴る。脇から取り出して表示を確認する。  

"36.1度"

「何度だった?」
「えっとね」
「風邪、流行ってるみたいね、明日会社、休めるかな。本当にすごく喉が乾くの。3リットルくらい飲んだかな?でも、ぜんぶ汗で流れちゃう」
「それは大変だね」
「あなたは?何度だった?」
「38.1度」
「そう、あなたも高いわね。汗でてるだろうから、こまめに着替えてね。あたしはもう少し眠るわ。おやすみなさい」
「おやすみ」  

言われた通りに、シャツと下着を着替えた。でも、僕は汗なんてひとつもかいていないのだった。僕は新しいシャツと下着の姿のまま、笑った。僕は近所のコンビニにビールを買いに出た。夏の夜空も僕のほうを見て笑っている。「お大事に」僕は夜空を見上げながら彼女に言った。


(2013.2.18 初稿)

#詩

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