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日本人は性善説でいこうぜ

本社の内部監査が始まって 1週間。
この監査は、あと 2週間続くわけですが、ここらで一度、自陣営、すなわち監査されている側の感触を共有しておこうと考え、主要メンバーを招集しました。

調達、製品開発、品質管理、サプライチェーン、エンジニアリング、経理、人事、リーガル、コーポレートアフェア等、各部門のヘッドに次のようなことを訊きます。
✅ 監査人にどんなことを質問され、どう答えたか
✅ うまく答えられなかったことはあったか
✅ 監査人に何か問題を指摘されたか
✅ 触れられたくないトピックはあったか
✅ 監査人の狙いはわかったか

ひととおり報告を聞き、最初の 1週間は概ね順調、という印象をもちました。(監査は、最初の印象が肝心なのです)
ところどころ、面倒そうな指摘事項はあったものの、どれも想定内。
今回の監査チームはたいしたことないな、と感じたくらいです。
正直なところ、技術部門(開発・品管・エンジ)の説明能力に不安があったのですが、監査人も技術マターにはあまり強くないので、たいしたツッコミができなかった模様。これも想定内。

現時点で、監査チームの狙い目は以下のとおりと予想。

本命: 固定資産管理
対抗: サステイナビリティ(人権、環境、労働安全衛生)
大穴: 事業継続計画 (BCP)、クライシス・マネジメント

笑けてくるくらい、想定内です。

固定資産に関しては、甘んじて指摘を受けよう。監査チームも戦利品が必要だろう。
サステイナビリティについては、中国相手にチープな正義持ちだすなボケ!と一笑に付してやるか。
BCP と危機管理は、ちょっと厄介なトピックだが・・・
パンデミックで、半導体危機で、中国政府が計画停電を強行しようとしている今が一番のクライシスやっちゅーの。
で、どないせいっちゅーねん。
最後に用意しているシナリオは、「中国ビジネスやめます」ですが何か?

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「そのほかに気になったことはありますか?」
と訊いたら、調達部門のヘッドが、満を持して言いました。
「監査人がミーティングを録画するのは不愉快です」

他のヘッドたち一同も、一様にざわつき、うなずいている。
皆がそのことを言いたかったらしい。

出張不可により、リモートで行われる監査なので、監査人との会議はすべてオンラインで行われています。
会議の冒頭、監査人が「この会議を録画してもいいですか?」と了解を得たうえで録画していることは、私も知っていました。
私も初めて見る作法だったので、へぇ今どきの監査は録画するのか、と少し驚きはしましたが、「不愉快」とは微塵にも感じませんでした。

会議の内容を後で振り返るために、録画したい気持ちは理解できるし、監査チームには私の元同僚もいるので、録画することに悪気があるとはまったく考えませんでした。

しかし、「監査を受けること自体が初めて」というメンバーにとっては、会議を録画されることが相当なプレッシャーであり、不愉快だったようです。

経理部門のヘッドも言いました。
「警察の取り調べを受けている犯罪者の気分でした」

監査を受けているメンバーは、半分以上がスイスの本社の社員です。
ヨーロッパの輩どもはめんどくせーな、と思いつつ、ふと気づきました。
「録画」に対して声高に文句を言っている連中の国籍・・・
ロシア、ウクライナ、ポーランド、チェコ、ルーマニア。
旧共産圏の奴らばかりだ。

嗚呼、もっとめんどくせー。
君たちや君たちの先祖が圧政に苦しんできた歴史は知っているつもりだが、私には共感しにくい。
公権力や査察的なものを恐れる DNA があるんだろうが、いつまでそんなの引きずってるんだ。

アカンアカン。それは私の偏見だ。
香港人のメンバーにも水を向けてみよう。
「録画に関して、あなたはどう思いましたか?」
「不愉快とまで感じませんが、何のために録画するのか不審に思いました」
「何のためだと思いますか?」
あとで間違いや矛盾を指摘するためでしょうか」

旧共産圏の連中よりは理知的な反応だが、君たちは、ある意味で現共産圏の住人だったか。

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私だけ受けとめ方が違うらしい。
ちょっと待て。
私は日本人のなかでも反権力の気持ちが強く、検察とか司直とかが大嫌いな人間なんだが。
君たちのそれは筋金入りなのかね。

おそらく、この問題はもっと奥が深くて、性善説か性悪説かという、古くて新しい問題が根っこにあるのだと思います。

性善説: 会議を録画するのは、内容をきちんと記録し、質問の重複を避けるため。さらに、監査人の質向上のため。
性悪説: 会議を録画するのは、不利な証言を残し、相手を問い詰めるため。あるいは、嘘を言わせないよう相手に圧力をかけるため。

世の中には、性善説寄りの人間と、性悪説寄りの人間がいます。
私自身は、性善説 8 : 性悪説 2 くらいの割合だと思っています。
世界の多くは、性善説 1 : 性悪説 9 なのでしょうか。

私は、性善説だからこそ、政府や警察などの権力が不要だと考えている。
彼らは、権力を基本的に信用してないから、性悪説になる、というわけか。

性悪説が支配する社会より、性善説が支配的な社会のほうが、はるかに幸せだし、社会的コストが少なくて済みます。
日本人は、世界でも稀にみるレベルの性善説派国民だと思います。
そのこと自体が、日本の重要な社会インフラになっている気がします。

私たち日本人は、次のことに留意すべきだと思いました。
✅ 性悪説が支配する諸外国の思想に染められてはいけない
✅ 性善説を維持しつつも、権力を疑う姿勢は保持しておきたい
✅ 外国人と付き合う際は、彼らの性悪説的性向を知っておいたほうがいい(とくにロシア・東欧)