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企業としての note が生き残るために

企業としての note は謎が多い。

note 株式会社のビジネスモデル、収益性、成長性などについて、多くの人が分析を試みています。
私は note の社員ではないし、経営コンサルタントでもありません。
巷に流布する分析と極力ダブらないよう、また専門的な話に陥らないよう、私なりの視点と言葉で note という企業の可能性について書いてみます。

note が目指すもの

企業を見るときに、私が最初に知りたいのは創業者の志です。
横文字でビジョンとかミッションと呼ばれるものですが、要するに、その人は何がしたくてその事業を始めたのかを表す短い言葉です。

note のそれは、クリエイターが創作を楽しみながら稼ぐことのようです。

何かを創作することは楽しい。それで生活の糧を得られたら尚いい。
そんなクリエイターを最も大切と考える、クリエイターファースト
この考えに共感する人は多かったのでしょう。会員数は順調に増えてきました。

一方で、営利企業としてはどうなのでしょうか。

財務状況から見えてくること

私はコンサルではない、と言いましたが、いちおうファイナンスでメシを食っている人間として、note 株式会社の財務状況を見ておこうと思いました。
しかし、これがそう簡単ではありません。私の理解が正しければ、この会社は上場していないので、財務情報が開示されていません。
辛うじて見ることができたのは 2020年末のバランスシートです。

これを見た私の感想をひとことで言えば、この会社、何もする気ないの?

まず、総資産 22億円のうち、15億円が現預金。
こんなバランスシート見たことないですよ。超安全ではあるけれど、投資する気がないわけで、ビジネスとしては超不可解です。

一方の資金調達については、細かい説明は省きますが、銀行借入はわずかで、他社からの出資が大半を占めている模様。
資本金は 2億円でしたが、最近 1億円に減資しました。(節税対策か?)

ある意味で健全すぎて気味が悪い。資金を集めるだけ集めて投資せず、手許に置いているのですから。
流動負債に “預り金” が 9億円もあるけど、これはクリエイターたちに支払う記事の売上でしょうか?(なぜすぐに支払わないのだろう)

損益のほうは、毎年数億円の赤字で累積赤字が 8億円ほどになっています。

要するに、出資してくれる会社はいる、だから資金はある、しかし儲かっていない、攻めの投資もしていない。
note さん、いったい何がしたいのですか?

上場する必要なんかないですよね。
上場の主な目的は資金調達ですよ。つまり事業への投資のため。
資金が潤沢にあり、投資するアテもないのに、なぜ上場したいのですか?

何をやらないか、が重要

まあ、財務諸表から読み取れることなど、たかがしれてますけどね。
note には note の事業戦略があるのでしょうから。

孫子の兵法に「戦わずして勝つ」というのがあり、ビジネスの世界でも金言とされます。
これは、誰もがやりたがることに手を出すな、とも言えます。
例えばプラットフォーマーは、広告で稼ぐ、サブスクで稼ぐ。
SNS も、動画配信サービスも、概ねそういうビジネスモデルですよね。
それをやらないのが note です。

世のプラットファーマーたちがやっていることを、敢えてやらなかった note は潔い、と私は高く評価します。note の経営陣は今後もその姿勢を貫くものと思われます。

note の主な収益源は、記事の販売やサポートによるクリエイターの収入からわずかな手数料をいただくというもの。
薄く広く、というプラットフォームの王道に則った収益モデルですね。
しかし、これまでの損益を見たところ、このモデルだけでは限界があるようです。
会員数は順調に伸びていますが、やがて頭打ちになります。
あとは、現会員の中から note で稼ぎたい人を増やすしかありませんが、これはあまり増えないと私は考えます。私自身も含め、稼ぐ以外の目的で note に参加している人が大多数だと思うからです。
note の最近のメッセージは、note で稼ぐこと・有料記事を購入することを推奨しているように聞こえます。これは note らしさを欠くプロモーションでしょう。

「クリエイターが創作を楽しみながら稼ぐ」という志はいいと思いますが、創作を楽しみたいけど稼ぐ気はない会員も多いことを気に留めるべきです。

もうひとつ、note が敢えてやらないことは、グローバル化です。
純日本のプラットフォームであり続けることこそ note の大きな魅力だと思っています。
例えば、note が英語サイトなどを作ったら、私は記事が書けなくなります。知人に読まれるリスクが跳ね上がりますからね。

note が企業として存続するため、私ならこうする

広告掲載しない。ユーザーへの課金もしない。世界進出もしない。
としたら、note はどうやって収益を上げればいいと思われますか?

基本的には、企業向けビジネス、いわゆる B2B 主体でいくんでしょうね。
お金は、たくさんあるところからいただくべきです。
投稿コンテストで様々な企業とコラボしたり、企業のメディアとなることに注力しているようですが、それらは広告と大差ないのであまり感心しません。
広告・メディア以外で、note だけが提供できる価値はないものでしょうか。

良いアイデアがないのなら、アイデアを生み出せる人材を集めればいい。
今の note に必要なのは、マーケティングや広報ではなく、技術やデザインでもなく、事業開発 (BD) ができる人材だと思います。
例えば、有能な BD 人材を多く抱えるリクルート社からヘッドハントする。
リクルートは、様々なモノやコトをマッチングするビジネスモデルの開発を得意とする会社。リクルート出身の人なら、note というプラットフォームにマッチングビジネスの可能性を見出すことができるでしょう。

最近採用活動をしていて感じたのですが、LinkedIn のようなビジネス人材に特化したプラットフォームとは別に、クリエイターに特化した人材マーケットがあってもいいのではないか。
人を採用する側は、学歴・職歴・資格等はどうでもよく、とにかく面白い人と出会いたいかもしれません。面白い文章を書く人。面白い発想をする人。面白い生き方をしている人。
そういう企業が、LinkedIn と同時並行的に、note からも人材をサーチする。
履歴書のような無味無臭な情報よりも、note でクリエイターが創作するもののほうがはるかに興味をそそられるし、人物がわかります。

今や 500万人を超える会員のデータベース化。過去ログを解析することによって、会員をプロファイリングし、顧客企業が興味を持ちそうな人材を抽出する。会員が就職・転職目的で記事を書くようになっては本末転倒なので、この事業は声高にはアピールしない。リクルート社が関与するのもよくない。でも、元リクルートの社員が事業を企画するのは問題ないでしょう。

クリエイター人材プール事業は、ほんの思いつきに過ぎません。私が言いたいのは、note 社内に精強な BD チームを作り、様々な事業のアイデアをガンガン試行してみればいい、ということです。手許資金に余裕があるうちに。
10個試して 1つでも成功すれば御の字。

企業にとって最も重要なことは、儲けることではなく、存続することです。万年赤字企業は存続することができません。
日々何万人ものクリエイターたちが無償で提供する記事の集積こそ、note が持つ最大の無形資産です。記事の著作権はクリエイターに帰属するといっても、自社のサーバー内にクリエイターの属性情報とともに全ログを保有し、それらのデータを一元的に扱うことができるのは、note だけです。

note は、世のクリエイターたちに創作の場を提供しました。
クリエイターたちは、その場を利用して、無数の創作物を提供しました。
今度は、note がその資産を利用して、企業存続のために価値を提供する番です。