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「昔より貧しくなった」の正体

「日本は貧しくなった」
と言われて久しいですが、これ本当でしょうか?
メディアの洗脳もあると思いますが、体感としてもそうらしいので、調べてみたくなりました。(はい、ヒマなんですワタクシ)

まず、1990年代の 20代と最近の 20代を比較するため、大卒初任給の統計データを見てみましょう。

青の折れ線が名目ベース、赤の折れ線が実質ベースです。
名目、つまり金額ベースでは、1990年代から 20年間ほぼ横ばいですね。
しかし、実質ベースではわずかに増えています。(年率 1~2% 程度)
物価が下落(デフレ)しているからです。

20代の実質賃金は、1990年代より現在のほうが高い、と言えそうですね。
それなのに、「貧しくなった」と感じるのはなぜでしょう。

答えは贈与経済から市場経済へのシフトにあると思います。
☟ の記事を読んでくださった方からは、またその話?と言われそうですが。

私は 1990年代に 20代でした。あの頃は、お金のかからない “取引” が充実していたと思うんですね。
例えば、マンガは友達の家で読むものでしたし、ゲームのソフトは友達からタダで借りていました。
どこかへ遊びに行くときは、クルマを持っている友達に同乗すればよかったし、飯や酒は先輩がおごってくれました。
終電を逃したら、都内に住んでる同僚の家に泊めてもらいました。

これらの贈与取引が市場取引に置き換わったらどうなるでしょう。
マンガもゲームのソフトもお金で買う。交通費も飲食代も自己負担。終電を逃したらタクシーで帰る。
可処分所得が同じでも、生活にかかるコストは全然違うのです。

昔と今とで何が違うか、わかりますよね。
友達がいなくなった。”知り合い” はいても、関係が浅くなったのでしょう。

個人の生活力を「人的資本」と「金融資本」で説明した人がいました。
簡単に言うと、人的資本とはその人の「お金を稼ぐ能力」で、金融資本とはその人が「持っているお金」のこと。
しかし忘れてはならないのは、第3の資本=人間関係資本 (social capital) だと思います。
助け合える真の仲間のネットワークのことです。
これが弱いと、市場での取引に頼らざるをえず、何をするにもお金がかかるわけですよ。

都市部と地方で生活コストが異なるのはなぜか。
物価が違うから?
いいえ。物価の差以上に大きいのは、この人間関係資本の有無でしょう。
都市部の住人は人間関係資本が弱いから、市場経済に頼って生活している。だから余計な支出がかさむのです。

休日に繁華街へ行くのは普通の消費行動なのでしょうか。
ヨーロッパでは、日曜日にはすべてのショッピングセンター、スーパーマーケット、ほとんどの飲食店が閉まっています。なので、ヨーロッパの人々はお金を使わない週末の過ごし方が身についています。
お金を使うこと=快楽、という体質の人には耐えられない環境かもしれません。

人間関係資本が生きていた 1990年代と、市場経済で生きるしかない現代。
休日にお金を使わないヨーロッパ人と、使う日本人。
貧しいのはどっちだろう。


初任給はわずかに増えているようですが、日本全体ではどうなのでしょう。

むう・・・。平均値(青)も中央値(赤)も減っていますね。
1997年をピークに、ほぼ単調な減少傾向。
とくに大きなダウンは、リーマンショック後の 2009年か。

40代男性の統計もありました。

概ね同傾向ですね。(ピークは平成 9年=1997年)

20代の収入は、1990年代 < 現在
40代の収入は、1990年代 > 現在

そこで、次のような仮説を立てました。
1990年代の 20代は、可処分所得が少なくても、人間関係資本によってそれなりに豊かな暮らしができていた。
同時代の 40代は、年功序列的な賃金カーブのおかげで、人間関係資本が弱くても市場経済で十分豊かに暮らせた。

年齢とともに人間関係資本が弱くなっていくのは、自然な流れだったでしょう。とくに 30代から 40代にかけては仕事の比重が増し、結婚して子を持つと「家族」という排他的な最小単位に閉じこもる傾向がありますからね。
その過程で、助け合える仲間のネットワークを失っても、収入が十分に増えていれば、市場経済というお金のかかるシステムだけでも食っていけた。

やはり、昔のほうが豊かだったようですね。


現在の 40代あたりが最も苦しいのではないでしょうか。
昔ほど収入が増えず、人間関係資本が脆弱なので市場経済に依存している。すると、収入と支出にアンバランスが生じます。

この厳しい状況をサバイブするために、どんな選択肢があるでしょうか。
ひとつは、少しでも収入を増やすため、ガムシャラに働くか、転職や複業化などの道を模索する。
もうひとつは、家庭を持たない、という選択肢。
家庭を持たなければ、人間関係資本を維持しやすいですから。

すでに家庭を持っていて、今以上に働く気のない、私のような人間はどうしたらいいだろう。
市場経済から距離を置くのがいいと思いますね。
例えば休日は、街に出るのではなく、お弁当を持って河原や公園へ行こう。

人間関係資本を築きなおすのもいいですね。たまには家庭からも職場からも離れて、損得抜きで付き合える友人と過ごそう。

昔より貧しくなったのは、人的資本でも金融資本でもなく、人間関係資本だと思います。
現代に生きる私たちは、なんでもお金で取引する市場経済に搦めとられているのではないでしょうか。
本来、人と人の関わり合いは、「お互いさま」「持ちつ持たれつ」といった、市場とは無縁のところにありました。
経済活動のストレスとお金の不安に襲われがちな今の時代、私たちが幸せに生きるためのヒントは、お金が介在しない人間関係にあると思っています。