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シード期から積み重ねた信頼関係、テックタッチがDNXをリード投資家に選んだ理由

シリーズA・アーリーステージでの投資をメインに据えるDNXですが、実は2015年ころからファンドの一部をシードステージのスタートアップに投資する用途として確保し、過去40件以上の投資を実行してきました。(シード投資の実績についてはこちらのページでご覧いただけます)

シード期からご一緒することで、シリーズAへの道のりをサポートさせていただくとともに、起業家のみなさんとの信頼関係の醸成など、相互にとって大きなメリットを感じています。実際、DNXのメインとなるシリーズAラウンドで追加出資させていただいた企業は10社以上にもなります。

今回はそのなかから、テックタッチのCEO 井無田仲さんにご登場いただき、DNXにシードラウンドで投資を依頼した理由や、シリーズAでの追加出資までの伴走エピソード、DNXの活用術などを伺いました。

DNXがどのようにスタートアップのみなさんとお付き合いしているか、井無田さんのエピソードを踏まえてご紹介できればと思います!


誰もがシステムを使いこなせる世界を目指して

井無田さん:僕のバックグラウンドはすこしユニークでして、6年間ほど金融機関で働いた後にIT業界へキャリアチェンジし、B2Cのスマホアプリを作る仕事をしていました。

金融機関ではユーザーとして様々なシステムを使っていましたが、どれも複雑で分かりにくいんですよね。例えば、経費精算システムの入力項目が30箇所くらいあって、マニュアルを見ながら頑張って入力したのに、1箇所間違っていたからといって差し戻されたり。一方でアプリの作り手になってみたら、エンドユーザーにこんなふうに使って欲しいと思ってリリースした機能が全く使われず、日の目を見ないことがよくあるんです。作り手と使い手のどちらも経験する中で、両者のギャップが非常に大きいことに課題を感じるようになりました。そして、そのギャップを埋められるようなプロダクトを作れたらと考えて、テックタッチというビジネスアイデアに行き着きました。

テックタッチが提供しているのは、システムのチュートリアルを簡単に作ることができるソリューションです。従来のツールとしてはマニュアルやFAQがありますね。ただこのエリアはもう20〜30年の間全くイノベーションがなかった。システムの使い方がわからない人は、長い間マニュアルを読むか、周りに聞くしかなかったんです。これに対して、テックタッチはシステムの画面上にナビゲーションを追加できるソリューションを提供しています。まさに僕が元々課題に感じていた、システムの使い方が分からないことから生まれる機会損失を解決することができています。現在は、比較的使っているシステムが古くペインが大きい大企業向けが中心ですね。ゆくゆくは誰もが世の中のシステムを使える世界を作っていきたいと思っています。

倉林:シリーズAから1年ほど経ちましたが、既にIHIや三菱UFJ銀行などの大企業で全社員規模の導入を実現させています。これは素直にすごいですよね。井無田さんがやろうとしていることが受け入れられた証拠だと思います。

井無田さん:どの教科書を読んでもSMBで鍛えてから大企業へと書いてあるので、最初は本当にできるのか半信半疑でした。やはり課題が相当大きかったのだと思います。

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「DNXの投資先」が意味する価値

井無田さん:倉林さんとは、ストリートアカデミーの藤本さんにご紹介いただいてお会いしたのが最初ですよね。まだ会社ができたかできていないかの頃で、今考えると恐ろしいんですけど、No agendaでお伺いした気がします。よく会っていただけたなと(笑)。

倉林:井無田さんはコロンビア大学のMBAを出て、外資系証券会社に勤めていた綺麗なご経歴をお持ちです。そんな方がユナイテッドにいかれてアプリまで勉強されているということで、気になるプロファイルでしたね。バンカーだけだと起業するにあたって武器が足りない部分があります。その点、井無田さんはキャリアをきちんと積み上げてこられたという印象がありました。
シード投資のお話をいただいたのは2年程前ですね。経営者としても優秀そうで、プロダクトもSaaSだし面白い。米国には類似のサービスを提供しているWalkMeもいたので、日本でも市場はあるなと思いました。DNXが3000万円までしか出資できなかったこともあり、Archetype Ventures(以下、Archetype)さんにもジョインしてもらいました。

井無田さん:当時の僕にとって、倉林さんは言ってみれば殿上人のような方だったんです。シード期のスタートアップとして一つでも武器が欲しい中で、DNXの投資先というのは大きな武器になるんです。特に大企業を相手にしている場合は、信頼性が重要になります。Japan Digital Designの上原高志さんにお会いしたときも、「DNXが投資しているのか、じゃあ一流だな」ととてもスムーズに話を進めることができました。上原さんからのご紹介で三菱UFJ銀行につながっているんですよ。本当に有り難かったですね。

倉林さんは、僕のことをバリュエーションにうるさい起業家と思われたんじゃないでしょうか?

倉林:そういえばArchetypeの俊平(同社パートナーの福井俊平氏)も一緒に食事に行って、価格についてこれで行こうよと握る会がありましたね(笑)。バリュエーションは何が正しいというのがないので難しい。特にシードのバリュエーションは期待値込みですから、いい経営者だと高くなりますし。それからテックタッチは、株式を創業メンバーの社員の方にも幅広に渡してましたが、ユニークでしたね。

井無田さん:全体の中の1ピースなので他が変わると通用しないのかもしれませんが、今のところ社員のモチベーションにつながっていて、うまく機能していると思います。リテンションも高く、辞める人もほとんどいません。

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シードから積み重ねた信頼がシリーズAに繋がった

倉林:シリーズAの調達をするときはモテモテだったのに、引き続きDNXを選んでくれたことはとても嬉しかったんです。選んでいただけた理由としては、どんなものがあったのでしょうか。

井無田さん:シリーズAの調達を考え始めたのが去年の頭くらい、ちょうどコロナが始まった頃で、ファイナンスのタイミングとしてはマーケットが厳しいなと感じていました。会社はまだようやくビジネスが回ってきたところで、MRRが数百万円、大きなお客さんが数社とその他は小さなお客さんという感じでした。そんな中で4〜5社からタームシートをいただきました。平たくいうと、バリュエーションはDNXが1番厳しかったです(笑)。

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確かに条件としては厳しかったんですが、シード期からご一緒させていただいたからこその信頼の積み重ねや、日本のトップVCの倉林さんに出資をしてほしいとずっと思っていた気持ちを大切にして、DNXさんに出資いただくことにしました。そしたら3ヶ月程で、CSOの柿畑がマッキンゼーから、CFOの中出がカーライルから、倉林さんの紹介を経て入社してくれたんです。僕らもびっくりました。社員が持分を持っているので当初社内へのバリュエーションに関する説明では苦労したのですが、ほら正しかったでしょ?と(笑)。

倉林:紹介した人が全員入ってくれるなんて、井無田さんの採用力もすごいです。お二人とも早速御社で活躍されていますね。入ったからには負けられないという決意が感じられます。

井無田さん:ふたりの仕事力も圧倒的ですが、周りも刺激を受けるので社内でポジティブなインパクトがあります。マッキンゼーやカーライルから、テクニカルなノウハウだけでなくメンタリティといったものも持ってきてくれるんですね。ダイバーシティを自分で作っていけるのは、スタートアップならではの面白さです。しかしふたりが入ってきていなかったら、自分1人だったらと思うとゾッとしますね。本当に感謝しています。

倉林:私たちとしても、シードの段階から御社の成長を横で見てこられたことがシリーズAでもやりやすかった理由だと思います。しっかりと課題に向き合って、プロダクトを磨いて、難しい大企業のお客さんを取るという実績も出されていた。少なくとも月1でお会いする中で、井無田さんとの信頼関係も築いていくことができました。

アントレプレナーファーストを掲げるDNXのハンズオン支援とは

井無田さん:出資していただく前は色々と細かくだめ出しされるのかなと思っていましたが、倉林さんはレイドバックであたたかく見守ってくれている印象です。悩んでいるときにはタイムリーにアドバイスを下さるんですが、最終判断は任せてくれるのがとてもやりやすいですね。

倉林:昔はもっと色々言っていたんです。でもそれを一方的にReadyでない投資先に伝えても、僕が満足するだけで意味がないんですね。起業家の方は、そのとき解決すべき課題に集中していますので、アドバイスも優先順位をつけて絞り込む方が良い。それに全員が全員同じやり方をする必要もありません。起業家の皆さんならではのアイデアがあっていい。会社が成長することが何よりも大事ですから。そういう意味で僕も少し成長して、双方向のコミュニケーションというのを意識するようになりました。

井無田さん:倉林さんがすごいなと思うのは、僕たちの悩みに対してある程度答えを持っていたとしても、直接は言わずにその道のプロフェッショナルの方を紹介してくださるところです。そうすると僕たちも聞きやすいし、納得感を持って進められるんです。こういう人を紹介したらより良い答えが見えてくるのではないか、というところまで構想されているのはさすがだと思います。

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2年前を振り返ると僕たちも随分Immatureだったなと思いますが、まだまだ原始的な状態のシードスタートアップを見ると口出ししたくはならないですか?

倉林:最近はシードであっても、Series Aの時同様の目線で経営者の方を見て投資するよう心がけてます。昔は経営者の方にそこまで確信がなくても、シード時からの成長に期待し、ビジネスアイデアの面白さを重視して投資したりもしていましたが、今はシード投資の時点でも、経営者が本当に信頼して一緒にやっていける方かどうかを大事にしています。一旦その基準を超えている方は、皆さん原始的ではあっても光る原石なので、全然違う方向へ行ってしまうということはあまりないですね。

そしてDNXではアントレプレナーファースト、あくまでも起業家の皆さんが主役ということを大切にしています。アメリカでは一般的ですが、元々起業家の方がVCをやっていることも多いので、経営者に対するリスペクトの気持ちが自然に表れているんだと思いますね。彼らを見ていると、やはりアントレプレナーが主役で、私たちはそれを支えている立場だということを忘れてはならないと感じます。

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御社はシード期から、顧客やパートナーシップの紹介を中心に担当している大久保とも連携していただいています。DNXとしてもLP様は大企業なので、その人脈を使える御社は紹介しやすいというのはあったかもしれません。実際の成果はいかがでしょうか。

井無田さん:大久保さんとは当初月次で、今は3ヶ月に1回程会話させていただいてます。例えば、POLAさんとの契約は大久保さんのご紹介です。柿畑や中出も元々ITの人間ではないですし、僕もB2Cにいたので、人脈はほぼなかったんです。今こうやってIT業界の中でそれなりにやってこれているのは、DNXのおかげだと思っています。パートナー候補となり得るIT企業や顧客候補を多数紹介してもらいました。それから最近、倉林さんにはプライシングの壁打ちもお付き合いいただきましたね。

倉林:プライシングについては、実際の投資先の皆さんとの議論を通じて理論と実践の双方が見えて、おかげで僕も考えがまとまってきたところがありますね。

SaaS起業家のみなさまへ、調達時のアドバイス

倉林:最後に、これから資金調達を考えている起業家の皆さんへアドバイスをいただけますか?

井無田さん:事業と一見関係ないように見えますが、VCの選び方はとても重要だと思っています。いただけるインサイトやブランド、ネットワークなど、色々な観点で力になってくれる存在です。一流のVCに出資いただけるだけで、世間からの見られ方も変わってきます。キャピタリストとの相性も大切なので、いろいろな人と会うことをお勧めします。長期的な視野に立ってしっかりとした選択をする必要があると思います。

倉林:井無田さんは時間を使って調達に向き合っていましたね。

井無田さん:特に今回のシリーズAは、コロナの影響で絶対にマーケットがクラッシュすると思っていましたから。そしたらまさかマーケットがこんなに好転するとは(笑)。

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テックタッチとDNX Venturesまでのこれまでの歩み、いかがでしたでしょうか。
テックタッチ井無田さんをはじめ、こうしたシード投資の実績・成功体験を踏まえ、2021年6月、新たにDNXシードファンドを組成しました。引き続き、素晴らしい挑戦に挑む経営者に伴走していきたいと思います。


(写真・平岩亨 / 文・池袋奈緒子 / 監修・倉林陽 / 編集・上野なつみ)

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