SaaS経営者×投資家対談①|Sansan寺田親弘氏×DNX倉林陽

SaaS起業家のみなさんへ。

SaaSスタートアップへの投資に長年携わってきたDNX倉林が聞き手となり、SaaSスタートアップのヒントを詰め込んだ、経営者インタビューを3本連載でお届けします。3社それぞれの創業ストーリーSaaSモデルを選んだ理由、そして若手起業家へのメッセージをいただきました。みなさんのSaaSビジネスのヒントに、そして、成功への大きなモチベーションにして頂けたら嬉しいです。

初回は、Sansan株式会社の代表取締役 寺田親弘さん。
未上場でありながら、累計調達総額は約114億円、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」の契約数は6000件以上、個人向け名刺アプリ「Eight」はユーザーが200万人を超えるなど、ビジネスインフラとして成長を遂げている同社。
B2Bでは珍しいテレビCMを展開した理由、同社出身のスタートアップ起業家輩出についてなどたっぷりお話を伺いました。


1.創業のきっかけ

倉林:僕と寺田さんは三井物産の同僚として出会ったわけですが、2007年に会社の1階のカフェで会社をやめるという話を聞いて。気づけばあれから11年ですね。

寺田さん:あのとき、「日本は大企業よりベンチャーが空いている」って話を倉林さんがしたのを覚えています。

倉林:そう、あれはGlobespan Capital[1]にいた同僚のアメリカ人に言われて。なんでお前空いている領域で勝負しないんだ、って言われたんだよね。

寺田さん:うん、俺すごい覚えてる。いろんなところで何回もその話させてもらってます(笑)

倉林:改めて、創業の経緯を伺わせてください。

寺田さん:起業すること自体は、小学生くらいから決めていました。戦国武将に憧れていたこと、父親が事業をしていたこともあって、現代における天下取りとは何かと考えた時に、自分で事業を立ち上げて、それを通じて世の中に大きなインパクトを出していくことだろうと。3〜5年働いてから起業するというライフプランを描いていたんですが、三井物産には8年くらいお世話になりました。シリコンバレーに行く機会も早い段階で与えてもらって、自分のやりたいビジネスをやりたいようにやらせてもらえたと思っています。いざ起業して何をやるか考えた時に、社会人になりたての頃に「名刺管理って本当に面倒臭い」と思ったことが思い出されて。今SansanのCMでもやっていますが、社内の人脈がよく見えないことによって起きる無駄なこと、「もっと早く言ってくださいよ」みたいなことが日常茶飯時で。紙で名刺を管理することの煩わしさをずっと感じていたので、名刺をデータベース化するというアイデアは当時からありました。Sansanを一緒に立ち上げることになった富岡と、ビジネスマンなら誰もが課題感をもっていて、納得できる、誰もが理解しやすいものだということで、名刺でやっていこうとすぐに決めました。名刺は、おそらく日本で10億枚とか、世界で100億枚とかってすごい数使われていて、この名刺それぞれが人と人の出会いであるにもかかわらず、これが紙のまま死蔵されていることは、課題解決の先にはとてつもない可能性が広がっているのではないかと。そうして創業しました。

[1] Globespan Capital:主に米国を拠点とするVC「Globespan Capital Partners」。以前倉林が所属していた。

2.SaaSモデルの選択

倉林:当時、SaaSやサブスクリプション、CRMのビジネスモデルってsalesforce.comを除いてほとんどありませんでした。SaaSサブスクリプションというものにSansanが参入した経緯というのはどういうものだったんですか。

寺田さん:当時ASP[2]という概念があったので、salesforce.comをASPのCRMという印象で見ていました。今ならWebベースで提供するのがいいだろうという漠然とした感覚と、あとは実際名刺を手で入力していたので、ネットを通じて提供するほうがやりやすかったんですね。ネットでやる以上課金は月額、ということも決めていました。それに加えて、SIerのビジネスに身近で関わった機会に、お客さんとベンダーの間の利益相反が大きいことが気になっていました。リソースをかけて無事納品すると、今度は納品書共々責任がお客さまに移って攻防が起こる。それに比べて、SaaSは健全で、フェアにやれるビジネスモデルだなと思いました。

倉林:その後課金の仕方や、契約期間、組織など見直していくのに、salesforce.comなど米国の事例は取り入れたのでしょうか。

寺田さん:salesforce.comはスタディしていました。あとは倉林さんとかアメリカの情報を知っている人たちの話を聴きながら勉強していきました。

[2] ASP:Application Service Providerの略。アプリケーションの機能をインターネットを介して、顧客に提供している業者やサービスのことをいう。

3.変化してきたファイナンスの考え方

倉林:5000万しか集められなかった初期にも、プロダクトのProblem Solution FitとかProduct Market Fitはできていて、単価がきちんと高く取れていた。

寺田さん:そう、月額ひとり1万円くらいいただいていました。

倉林:課金できたことによってUnit Economics[3]が回って。

寺田さん:でも、それを理解してもらってファイナンスができるような時代ではなかったんですよね。ところが、時代が進んでだんだんファイナンスもできる状況になってきた。ここは攻めたほうがいいなと思って、ぐっと攻めていきました。

倉林:そこからマジックナンバー[4]を見ながら適切な投資を進めて言ったと。

寺田さん:その「適切」をどう測るかというのは、マーク・ベニオフが書いた本『クラウド誕生』を熟読しましたよね。あれを見て前払いにしたんですよ。前払いは営業するのもすごく大変だったけど、前払いにして本当によかった。

[3] Unit Economics:1顧客当たりの経済性。後述するLTV(ライフタイムバリュー)と1顧客あたりの平均獲得コストの比較で計算する。
[4] マジックナンバー:顧客の増分を得るために使うべきコストの比率を見るための指標。営業及びマーケティングコストと新規獲得MRRで計算される。

4.初期の注力は「チャーン」と「セールス」

倉林:月額課金はリレーションシップを売るようなもの。チャーン[5]が大事なわけですが、そのころからチャーンの重要性をわかっていたんですか。

寺田さん:それは最初の段階からわかっていました。チャーンという言葉も当時はなくて、僕たちは「解約」と言っていました。とにかく一社も解約を出さない、100%だと掲げて。クライアントが数百社規模のうちは、週1〜2回営業・サポートメンバーが集まってレビューをし、「どうして使われないのか」「どんなトークをして提案したのか」などとあらゆる手を打とうとしていましたね。一方セールスは、創業メンバーと数少ない営業マンで頑張っていて。僕は当時、1日8アポ回ると決めて、無理やりでもいいからアポ入れていました。スキャナとタッチパネルのPCを持ち歩いて、見事な手付きでバババッと見せる。リードと言っても、問い合わせなんて待っていてもこないんで、とにかく紹介をもらって、気合いでやっていました。

倉林:コンバージョンレート[6]にかかわらず訪問していたということだよね?

寺田さん:そう、効率悪いことも全部やっていましたね。そもそもお金を使えなかったのでやりようがあまりなかったんですよね。あと、PRは頑張ってましたね。無理やりプレスリリース作って出していました。だんだん、入ってくるお金からマーケティング予算を使えるようになって、電話担当を置くようになって、サポートとCS(カスタマーサクセス)を分けるようになって、インサイドセールス[7]の数を徐々に増やしていって。今の原型のような形が徐々にできていきました。そこへ2013年以降は資金調達をして、ドライブをかけていきました。今でも迷ったらsalesforce.comはどうやっているかスタディします。

[5] チャーン:Churn Rateの略。登録離脱率を指す。
[6] コンバージョンレート:企業と何らかの接触を持った見込み顧客のうち、実際に顧客やサービス会員に転換した人の割合。
[7] インサイドセールス:訪問営業ではなく電話やテレビ会議を用いて自社サービスの提案を行うこと。インサイドセールスで商談化されれば、訪問営業のフィールドセールスチームにパスされる。

5.テレビCMの効果的活用

倉林:B2BなのにテレビCMをがっつりやったというのが印象的でした。

寺田さん:2010年代に入ってからレベニューもそれなりに入ってきたので、それを使いながらマーケティングにも投資し、PDCAを回していったわけですが、積み上がってはいくけどいつまでかかるのという焦りも出てきたんですね。もうちょっと一気にいける方法がないかと考えていたときに、テレビCMという発想に至りました。B2Bの企業がテレビCMを打つことってほぼなかったわけですよ。ただ一方で、会計ソフトなどの一部の会社はやっている。要するに、インパクトの強いCMで、かつ一言で理解できるようなものだったらある程度成り立つんじゃないかと思ったんですよね。例えば、いくらsalesforce.comが有名でも、“SFA[8]”って一般的な視聴者にはたぶんわからないですよね。企業向けサービスとはいえ「名刺管理」は比較的誰でもわかるはずだと思ったんです。
さらに、当時すでに解約率は極めて低かったので、理論上1件とったらライフタイムバリュー[9]ってとても大きい。つまり、CMを通じてそれなりに受注に繋がれば、そのCMコストも取り返せる、それなりにエコノミクスも合いそうだなと思ったんですね。「名刺管理」を視聴者にわかりやすく想起させるようなクリエイティブをつくり、繰り返しテレビCMを展開しました。

倉林:たしかあのときって、ファイナンスで集めたお金の大半をテレビCMに入れていましたよね。

寺田さん:そのころは集めたお金全部を使ったっていう感じでしたね(笑)。

[8] SFA:Sales Force Automationの略。営業力強化ツール。
[9] ライフタイムバリュー:1件の顧客が平均でもたらす顧客生涯価値。LTVと略すことも。

6.今Sansanはさらなるフェーズへ

倉林:創業期のCEOとユニコーンのCEOとでは、働き方や役割が変わってきていると思います。今社長はどんな指標をみているのか。また、どんな風に時間を使っているのでしょうか。

寺田さん:創業した頃は全部自分でやっていましたが、営業を自分から離して、次にマーケティングを離して、最後まで残っていたのはプロダクトでした。そのプロダクトも、最近CPOが入ったのでほぼ任せています。最近はSansanから派生した新規プロダクトの開発にハンズオンで関わっています。あとは、コーポレートアクションも想定して会社のフェーズをもう一段変えないといけないなと考えています。オーガニックでやっていくだけじゃなくて、場合によってはもう少し多角的に事業を成長させていくべきだと、最近は考えるようになりました。

倉林:キャッシュが溜まってしまうのでM&Aもやっていく必要がありますし、Corp. Dev.[10]みたいな部署をつくる必要も出てくるかもしれませんね。

寺田さん:はい、そういった可能性もあるかもしれませんね。そのあたりも視野に入れて、今後は然るべき人材を入れることも考えています。

倉林:プロダクトも然るべき役割のメンバーに任せて、会社全体の長期戦略・ロードマップをメインに時間を割いているということですね。

[10] Corporate Development:米国ICT大手企業において多く見られる、M&AやCVC等を駆使して事業開発を行う組織。

7.B2B SaaSにとって追い風の時代へ

倉林:最後に、昨今、優秀な若手が起業しやすくなったことや、市場全体の盛り上がりについてどうお考えですか。

寺田さん:すごくいいな、と思います。倉林さんがずっとベットしてこられたB2B SaaSが日本で立ち上がりつつあって。ちょっと前までB2Cのほうがかっこいいって感じありましたからね。

倉林:あったあった、2015年くらいまではまだ「B2Bやるんですか?」って言われてましたからね。「儲からないですよ」って同業の人に言われたりしてね(笑)。

寺田さん:「B2Bでしょ」って扱いを受けていましたからね。明らかに風向きが変わりました。創業するメンバーも昔と違ってバラエティに富んでますよね。うちの会社のようなベンチャー出身者や大企業出身者が起業する、という流れも。Sansanを経て起業したResily[11]の堀江君も、物産出身者と一緒に組んでいて。新鮮ですよね。堀江君を見ていて羨ましいなと思うのは、少なくともSansanをずっと見てきて、インサイドセールスをどうやっていたかとか、知っているわけです。スケールするときにどこからやるかとか想像しやすいだろうなって。さらにそういう人がまた次の起業家を生み出していってくれると分厚くなっていくでしょうね。一方、投資家側の意識もすごく変わったと感じています。倉林さんもそうだけど、起業家をリスペクトしながら必要な情報提供もするし、一緒に物を考えて汗かいてくれる投資家が増えたなと思います。

倉林:今後どんなイノベーションを生み出していこうというSansanのビジョンがあれば聞かせてください。

寺田さん:僕らが向き合っているテーマは「出会い」です。倉林さんとも出会って十数年。色々なことが繋がっています。僕らSansanは、「出会いからイノベーションを生み出す」ことをミッションに掲げているので、名刺を皮切りに出会いの価値をいかに最大化していけるかというところが非常に大きな意味でのやるべきことだと思います。もうちょっと身近な目標では、Sansan/Eightというビジネスプラットフォームを提供しているので、ビジネスマンが当たり前に使ってくれるようになっていけば、ミッションにも近づき、インパクトも出せていけるだろうと考えています。

[11] Resily:DNXが2019年に入って3号ファンドより投資した投資先。Sansan出身の堀江氏がCEO、三井物産出身の西川氏がCOOを務める。


写真:平岩享  / 聞き手:倉林陽 / 編集:上野なつみ


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