皮膚疾患について、自分への備忘録の意味で、記事にしていきたいと思います。

今回は妊娠性手掌紅斑についてです。また、関連して手掌紅斑についても掘り下げてみたいと思います。

症例

・妊娠33週の妊娠糖尿病を患う妊婦が、両手の手のひらに赤みがあるという症状で皮膚科を受診した。
・痛み、かゆみ、または他の部位に発疹はなかった。
・皮膚の変化は妊娠中期に初めて現れ、局所的なステロイド外用療法を受けた後も改善しなかった。
・両手の手のひらと指に渡って斑点状の紅斑が見られた。妊娠性手掌紅斑と診断された。
・患者は早産で自然分娩し、分娩後1週間で紅斑はかなり減少し、分娩後2か月には完全に消失した。

妊娠性手掌紅斑

・妊娠性手掌紅斑は、妊娠に伴う生理学的な血管性皮膚の変化の1つ。
この症状は、この例のように拡散性で斑状であることもあり、または小指球や母指球に限定されることもある。
・掻痒、チクチク感、または灼熱感を伴うこともある
・妊娠性手掌紅斑に特別な治療は必要ない
・分娩後2週間以内に症状が解消することが一般的。
・完全な回復には最大2か月かかることがある。

手掌紅斑　erythema palmare et plantare,red palm

・主として母指球・小指球を中心に紅斑が出現する
・時に全手掌足底に及ぶ
・肝硬変などの肝障害に随伴するものが大部分
・その他、妊娠、甲状腺機能亢進症、膠原病(関節リウマチ，全身性エリテマトーデス[SLE]など)、慢性肺疾患などが発症の原因となる。
・デルマドロームとしての側面もある。
・家族発生例もある。
・内分泌ホルモンの異常、特に血中エストロゲンの上昇により、毛細血管と細小動脈の拡張、増数によって生じる紅斑。
・しばしばvascular spider(くも状血管腫)を合併

手掌紅斑の診断

・手掌の母指球部、小指球部、手指の付け根を中心としてみられる紅斑。
・時に紅斑が手掌足底全体に及ぶこともある
・紅斑を触診すると皮膚温が上昇していることがわかる。
・肝疾患を背景にクモ状血管腫を合併していることが多いので、その有無を確認する
・検査で背景に基礎疾患がないか、肝機能検査、腹部エコーなどを施行する。
・Normal diffuse physiologic palmar mottling (正常なびまん性生理的手掌斑紋?)と鑑別する(下記)

・生理的な手掌斑紋の特徴は下記の4つによって変化すること(Serrao R, Zirwas M, English JC. Palmar erythema. Am J Clin Dermatol. 2007;8(6):347-56. doi: 10.2165/00128071-200708060-00004. PMID: 18039017)。

1. 感情

2. 手の挙上/下垂

3. 気温

4. 手のひらへの圧力

手掌紅斑の治療

・特に治療法はない
・基礎疾患があれば基礎疾患の治療

手掌紅斑の鑑別

小児の手掌紅斑の最も多い原因
生理的…遺伝性
摂取・毒物…Acrodynia
自己免疫…川崎病
感染…先天性梅毒
肝機能…ウィルソン病、Hepatopulmonary syndrome

鑑別のフローチャート

(参考文献)
皮膚科学第10版
今日の皮膚疾患治療指針第5版
Katz K. Palmar Erythema of Pregnancy. N Engl J Med. 2023 Apr 6;388(14):e50. doi: 10.1056/NEJMicm2210742. PMID: 37018495.
Serrao R, Zirwas M, English JC. Palmar erythema. Am J Clin Dermatol. 2007;8(6):347-56. doi: 10.2165/00128071-200708060-00004. PMID: 18039017.