見出し画像

TCG、非公式wikiと過去への扉

 名文を読んだ。
 MTGの中でも18年前のパックだけのカードを使った構築戦(よくわからない人は普通の対戦を思い浮かべてもらえばそれが構築戦だよ)を遊んでいる人のブログで、古いカードだけで遊ぶ懐古フォーマットの魅力をこんな風に語っている。

>MTGのありとあらゆる時代に様々な魅力的なカードが存在し、それらの活躍が武勇伝のように書かれたMTGwikiは何も知らない若いプレイヤーを遥か昔のMTG界のワンシーンへと誘います。自分が体験したことのない昔の環境。適度に美化された世界がそこにあり、彼らは(そして昔の私も)それを読み進めるうちに思うのです「この時代のカードを実際に使ってみたいな」と。それは全ての始まりであり、懐古フォーマットへのいざないであり、誰にでも起こりうる小さなきっかけなのです。

 一見すると「要するに名作ゲームスレやwikipediaでしか見たことのないレトロゲームをプレイしたい、みたいな話?」と思われるかもしれないけど、ここにはTCG特有の事情がある。非公式wikiの中で生まれる時代の地続き性だ。

 非公式wikiというのは、カードのテキストや強さの評価、使用に際して気を付けるべきルールなどがまとめられた、基本的に誰でも編集可能なwikiのことで、TCGを運営する公式のデータベースが不十分さや日本語への未対応、はたまた単にインターネットで引用・言及する際の手軽さなどのさまざまな理由からユーザーに愛用されている。

(こんな感じ)


 そんなわけで、TCG慣れした人が新しいTCGに手を出すときは、まず非公式wikiの有無を確認し、聞いたことのあるカードの評価を読み、関連カードや類似カードを読み、ルール用語を読み、背景ストーリーを読み――wiki内に張り巡らされたリンクを辿るうちに自然とそのTCGの歴史や格言、時に過去のプレイヤーが残したユーモアにも触れることになる

 MTGに話を戻すと、例えば最新ストーリーのキャラクター(リリアナ)について調べるだけでも、過去のストーリーで交戦したキャラクター(ガラク)の記事に辿りつき、そこから過去のユーモア――かつて非常に強力だった3枚のカード《タルモゴイフ》《カメレオンの巨像》(あるいは《獣群の呼び声/Call of the Herd》)《野生語りのガラク》は、その頭文字から"TCG"と呼ばれていたらしい。なんと10年前の話だ――に触れる機会が得られる(これは私の実体験だ)。

 最新カードの『〇〇かつ××なカードは《XXX》以来である。』 からも、『類似カードの《YYY》との差異は、…』からも、非公式wikiのいたるところに過去への扉はある。扉を開けば当時のゲームバランスや、改定前のルール、販売形式、対戦環境、当時の流行や世相――さながら歴史小説のように――先人の息遣いが蘇ってくる。

 そんな中で「かつて英雄だったカードを使ってみたい」という願望は、単なる古参プレイヤーの懐古趣味とも好事家の興味とも片付けられない。全てのプレイヤーに関することなのだ。


◆余談◆
 信じがたいことかもしれないが、かつてKONAMI(遊戯王の運営)はカードごとの細かいルールや特殊処理が公開されておらず、逐一電話で確認される必要があった。そして非公式wikiには有志がそれらをまとめていたので、公認大会でさえ非公式wikiが参照されるような……2010年くらいまでそんな十二表法以前の古代ローマみたいな有様だった。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

スキを押すと武藤遊戯が使ったカードをランダムに一枚引けます。(noteに登録していなくてもボタンは押せます)