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お医者さんが語るCHEHONさんを大麻で逮捕してはいけない理由

2023年9月24日、日本のレゲエ界を牽引するミュージシャンであるCHEHONさんが0.97gの大麻を品川区の自宅で所持していた容疑で逮捕され、大きく報道されています。
私は医師であり、海外の大麻情勢について厚労省の特別研究班のメンバーとしてレポートも執筆した立場にありますが、このような個人使用目的の少量所持での逮捕・起訴は止めるべきだと考えていますし、国際社会では大麻で逮捕しない政策が主流となりつつあります。

事実として、2019年に国連麻薬委員会は「個人的使用のための薬物所持の非犯罪化を含む、適切な場合における有罪判決及び刑罰の代替案を促進」することを声明として発表しています。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=89565
(“非犯罪化”とは合法化とは異なり、“違法ではあるけれど逮捕はしない”ということです。日本で言うなら、歩行者の信号無視や未成年の喫煙は、“非犯罪化”の例です。)
大麻に関しては、2022年10月にアメリカのバイデン大統領が、大麻の単純所持で有罪判決を受けた人、全員に恩赦を与えると発表しました。SNSに投稿した演説動画では、大麻の所持で有罪判決を受けると「不必要に雇用や住宅、教育の機会が奪われる可能性がある」と述べたうえで「大麻に対するアプローチを誤った」「今こそ、誤りを正す時だ」と強調しています。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000271132.html

なぜ、先進国は大麻で逮捕するのをやめたのでしょうか?
その理由を考えてみましょう。

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原則、全ての人には基本的人権というものがあり、逮捕・拘留は、この基本的な人権の侵害にあたります。基本的人権を侵害するためには、それなりの理由がないといけません。薬物犯罪の場合は

①本人への健康被害
②社会への被害、周囲への迷惑
③逮捕による本人への社会的被害

という三要素を考慮し
①+②>③
と考えられる場合には、逮捕は正当化されると考えられます。
それぞれについて、大麻の場合を考えてみましょう。

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理由①大麻の健康被害は、合法薬物と比較し軽い
近年の科学的評価の結果、大麻の“危険性“および“依存性”は、従来のイメージよりもずっと低いことが明らかになっています。
2010年に英国のLancetという医学誌に掲載された研究論文に、身の回りにある薬物を、合法なものも、非合法なものも全部集めて、本当に有害性が高いものからランキングをつけるという試みがありました。
https://www.researchgate.net/publication/285843262_Drug_harms_in_the_UK_A_multi-criterion_decision_analysis/figures?lo=1
結果、不名誉なランキング1位を獲得したのはお酒で有害性スコアは72点。大麻は8
位で20点でした。つまりトリプルスコアで、お酒の方が世の中に与えている害悪が大きいと判断されたのです。
それ以外にも複数の研究で、大麻の安全性は酒や煙草、睡眠薬よりも高いというのは科学的な定説として決着がついています。酒や煙草が合法的に流通している以上、本人の健康被害を予防するため逮捕するというのは論理的には無理があります。

理由②大麻の社会に与える迷惑は、合法薬物と比較し軽い
それでは、大麻の使用が社会に与えるダメージはどうでしょうか?
影響として懸念されることとしては
A:犯罪が増えるのではないか
B:交通事故が増えるのではないか
などが挙げられます。
これに関しては、先に大麻を非犯罪化・合法化した地域のデータを参照することで、日本で起きることも推測が可能です。

A:犯罪に関して
アメリカ西海岸のワシントン州では、2012年に嗜好大麻の合法化が行われていますが、合法化後にむしろ犯罪発生率は低下したと報告されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167268118300386
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/07/180724110031.htm
2018年の元旦にはカリフォルニア州が、10月にはカナダが、相次いで大麻を完全に合法化しましたが、大麻の合法化が犯罪の増加につながったという報告はありません。2019年の4月20日には、バンクーバーでは15万人が集まって大麻を消費するというイベントが開催されましたが、大きな問題は起きなかったことをバンクーバー警察が発表しています。

B:交通事故に関して
諸々の研究によると、大麻の影響下での運転は事故の確率を1.3~2.0倍に増やすようです。しかしお酒の場合、酒気帯び運転と判断されない合法範囲のアルコール濃度でも、事故リスクは12倍に増加することが知られています。
(詳細は以下の解説記事をご一読下さい)
https://www.greenzonejapan.com/2021/03/20/car_accident/
ちなみに、スマホの「ながら運転」での死亡事故発生率は2.1倍に増加するそうです。
https://jafmate.jp/blog/safety/190305-20.html
そんなスマホも車内への持ち込みまでは合法であることを考えると、交通事故リスクは大麻で逮捕する根拠とはならないでしょう。

理由③逮捕されることの社会被害は、甚大であること
本人の健康被害や社会に対する悪影響は軽度であるのに対して、逮捕による社会的被害は甚大です。今回の場合に考えられるのは
○レーベル・事務所を解雇
○楽曲配信停止・ライブ出演キャンセル
○それら違約金発生・損害賠償請求
という具合で、これは“社会的抹殺”と言っても過言ではありません。

このように大麻に関しては
①+②<<③
であることが明白なので、逮捕・投獄は見直されているのです。

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幸いにして、大麻を巡る報道はここ数年で賛否両論のところまで来ています。
これまで逮捕された著名人は“自粛を強要“される傾向がありましたが、この期間も短くなってきています。
大麻は違法ですが、逮捕された人を干さなければならないという法律は存在しません。“みどり“や“韻波句徒“という大麻関連の楽曲で知名度を上げたCHEHONさんが大麻と親和性が高いことは、ファンやビジネス関係者にとっては周知の事実であったはずです。余計な社会的制裁を加えられることなく、速やかに活動を再開されることを切に願っています。
それは一般の大麻逮捕者の社会復帰を早める事にもつながるはずです。

[執筆: 正高佑志 医師 ]

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