見出し画像

HHCが規制されない世界線はあったか?


2022年3月7日、厚生労働省はHHCを新たに危険ドラッグの成分として指定薬物とすることを決めました。これにより3月17日以降、HHCを売買、所持することはもちろん、使用することも違法行為となります。最初の企業がHHCを販売開始してから約3ヶ月。迅速な対応と言えるでしょう。

SNS上ではこの決定を悲しみ、非難する声が多くみられました。
HHCに切り替えることで逮捕される不安から解放された方。
睡眠薬や咳止め薬などの乱用から抜け出すことができた方。
彼・彼女たちは10日後からどうするのかと考えると、私自身も暗澹とした思いです。

とはいえ、個人的にはこの決定に対する心の準備はできていました。
2月3日に“CBDの有効活用を考える議員連盟“の第四回会議が開催された際に、この会が厚生労働省監視指導麻薬対策課(カンマ)の呼びかけで召集されたこと、そして冒頭に危険ドラッグについてのプレゼンテーションがカンマからあり、HHCについての言及があったことを聞いていたからです。

私はHHCが規制される場合、危険ドラッグ(脱法ハーブ)に準じた扱いになるだろうと予想し、脱法ハーブの規制は厚生労働省が“省令“という形で、内閣や国会の審議を経ずに行われることを確認していました。
CBD議連をわざわざ召集し、危険ドラッグについてのプレゼンとHHCの話を行なったのは、省として規制を行うことの合意形成を得るためであることは、冷静な視点からみれば明らかでした。そしてその会議で、HHCの規制に積極的に反対する意見は認められなかったようです。この時点でHHC規制の方針は確定していたと言えるでしょう。

ここでは一つの仮説として、HHCが規制されない世界線が存在したのか考えてみたいと思います。たとえば2月3日のCBD議連会議で、国会議員の中からHHCの規制に明確に反対する意見が上がれば、厚労省は危険ドラッグとしての指定に踏み切れなかったかもしれません。
では、どういう大義名分があれば、国会議員はHHCの規制に声高に反対してくれたのでしょうか?
これは現状のHHCの立ち位置を考えると、非常に困難であるように思います。
というのは、HHCは法律に引っかからないTHCの代用品として市場に登場したからです。“ハイになる権利“は日本国憲法の幸福追求権で保障されていると考えることはできますが、現状ではTHC=悪というのが社会通念であり、これを擁護することは議員さんにとってはリスクが高く、メリットの少ない営みです。
ですので、規制されない世界線に辿り着くにはもう一歩時間を遡り、HHCを脱法ドラッグとしてではなく、別の文脈で社会に押し出していく必要があったと言えるでしょう。

HHCの流通が拡大する中で、少なくないユーザーが医療的な効能を自覚していました。実質的にはTHCの代用品であるHHCが、THCと類似の医療効果を持つことは驚きに値しません。中には半身不随に伴う慢性の痛みが緩和されたなど、標準医療ではアプローチしづらい症状に奏功していた方も見受けられます。

これらの医療・ヘルスケア的な効能が前面に立つような形で、HHCについての物語が語られていれば(その場合、もちろん今日のような爆発的な流通拡大はなかったでしょうが)少なくとも規制に反対する大義名分は立ったかもしれません。

仮にHHCがサプリメントとして販売され、あと半年の時間的猶予があれば、私は日本におけるユーザー調査を行い、実際に多く患者にとってHHCが福音となっていることを学術的に示し、また奏功例を症例報告として論文にすることができたかもしれません。それは実際に、私がCBDで行ってきたことです。

今、懸念されていることは精神作用を有する希少カンナビノイドがまさに脱法ハーブのように規制のイタチごっこに巻き込まれることです。今回の出来事から、事業者の方々がそれぞれの教訓を学んで下さることを望みます。

明るい側面もありました。それは今日に至るまで、HHCに関連した深刻な事故・事件の報道がないことです。これは事業者さんが流通だけでなく啓発に尽力したことの証左でしょう。このまま規制される日まで無事故で到達し、当局に規制の大義名分を与えないことは今後を考える上で重要です。
考えようによっては、3ヶ月のHHC狂騒は、日本でTHCを合法化しても大きな問題が起きないことを小規模にではあれ、実証したことと言えるかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?