医療大麻のお医者さんがするワクチンの話

大麻肯定派の中には、ワクチンに懐疑的な意見を持たれる方が多い。
先日、三宅洋平さんがワクチンに対する私見をツイートしたところ、医師免許を有する論客からの批判の意見が相次いだ。(中にはワクチンに対する適正な理解を広めたいというよりは、三宅さんに対する悪意を強く感じる記事もあった。)

政府が信頼を損なう蛮行を繰り返す世界で、子どもの安全を守りたいという親の真剣な気持ちからだろう。私のところにも、子供にワクチンは打つべきなのかという相談が寄せられることがある。これを機に、私の意見を記しておこうと思う。

①大前提として、ワクチンは打っても打たなくても99%は何も起きない

ワクチンの話をするときに一番最初に伝えたいのが上記である。一個人の健康を考えた場合、ワクチンを打たなかったからといって破傷風や日本脳炎に感染するかといったら、99%以上の確率で感染しない。逆にワクチンを打つことで有害な副反応が出現するかといったら、これも99%以上の確率で発生しない。
ときにワクチンの方針を巡って、夫婦間で意見が別れることがあるようだが、子供が健やかに育つことを考えるなら、両親がワクチンを巡って喧嘩することの方が害が大きい気がする。まずは双方、冷静になろう。

②基本的にワクチンは現代医学最強の発明である

筆者はこれまで小さなクリニックから大学病院まで、研修医時代を含めて内科から外科、小児科、精神科まで様々な診療現場に携わってきたが、やはり現代標準医学にも得意・不得意があると思う。
その上で、ワクチンというのは基本的には現代医療における最大の発明の一つだと思う。ワクチンのおかげで天然痘という病気は根絶された。ポリオによる小児まひも現代ではほとんど見かけることがない。
諸先生方が提示した“子どもの死亡率が下がっている”というデータがワクチンだけのおかげとは筆者は思わないが、ワクチンというのは偉大な発明である。

③とはいえ、数あるワクチン内にも優劣はある。

天然痘などのワクチンがあまりに美しい成功体験であったがために、ワクチン神話とでも言うべきイメージが出来上がった。
しかし最強のグレイシー一族の中にも、無敗で引退したヒクソンもいれば、日本で連敗しているホイラーもいる。同じように数あるワクチンの中にも、ある程度の優劣は存在する。
たとえばそれは予防率という数字で表すことができる。例えば破傷風のワクチンは一発打てばほぼ100%、破傷風を予防することができると言われている。この場合の予防率は100%である。しかも一回打てば、免疫は何年も持続する。
一方でインフルエンザのワクチンは、この予防率が50~70%程度と言われている。つまり打ってもかかり得る。(重症度が低下するという側面はある。)そして皆さんご存じの通り、毎年打たないといけない。
加えて、その病気にかかったときのダメージも違う。例えば狂犬病は発症したら致死率100%という恐ろしい病気で、ワクチンの予防率は高い。一方でインフルエンザは(もちろん、ときどき重症化するけれど)基本的には寝ていれば治る。
つまりワクチンというのは、基本的は偉大な発明だが、推奨の程度には濃淡がある。最近ではB型肝炎が定期接種になったらしい。これは良いことだと思う。というのはB型肝炎は唾液やSEXで感染るし、慢性肝炎に罹患すると、そのあと肝臓がんになったりと大変だからである。
一方でたとえば、今年の10月から定期接種に格上げされるロタウイルスの経口ワクチンは“胃腸かぜ”の予防であり、仮に感染・重症化しても入院・点滴が可能な日本の状況であれば死に至る可能性は低いだろう。
友人の小児科医によると、“ロタウイルス感染症で入院してくるのはワクチンを打っていない子ばかり”ということだが、個人の意思決定権より尊重されるべきだとは思わない。(酒もタバコも寿命を縮めるが、我々にはその権利がある。)

そもそも感染症には細菌感染とウイルス感染が存在する。そしてウイルスはさらにDNAウイルスとRNAウイルスに分類される。RNAウイルスというのはすぐに突然変異が起きるので、ワクチンが作りづらい。新型コロナもRNAウイルスであり、だから待望のワクチンは残念ながら、みんなが期待しているほどは効かないかもしれない。

④まずは定規を揃えよう

問題はこれらの感染症の重症度やワクチンの優劣が区別されないまま、ひとまとめに語られていることだ。大麻と覚せい剤を区別すべきように、まずは狂犬病ワクチンとインフルエンザワクチンの違いを認識すべきだ。
現状、医師たちは“はしかワクチン”の集団免疫の話をして、反対派が子宮頸がんワクチン の副反応の話をしている。永遠の平行線である。


⑤本質はどこにあるのか?

他にも、大麻問題とワクチン問題の類似点がある。
それはアンチが批判している大麻やワクチンは、より大きな何かの象徴であるという点だ。
筆者は医療大麻の啓発活動をしているが、日常的に賛否両論コメントを頂く。
その中で気がついたのだが、大麻に対して肯定的な人達は“大麻草”という植物になんらかの形で馴染みがあるが、否定的な人達は大麻を見たことがないということだ。
自分が見たことが無いものに対して、執拗なアンチを続けるということは、大麻というのが彼らにとって、植物以外の何かの象徴なのだろう。
それは例えば、“違法行為”の象徴であり、もしくは“時代の変化”の象徴なのかもしれない。もしくはかつて自分に嫌な思いをさせた“不良“の記号なのかもしれない。
つまり、大麻ダメ絶対!とわざわざ言ってくる人の本心というのは、法律を守らない人達に対する嫌悪感や、時代の変化への不安が根底にある、たぶん。

ワクチンの話に戻ろう。
同じ派閥に属する私にはわかるが、ワクチン反対派の方の中は、国家などのシステムへの不信が通低音として流れている。(これがたぶん、世間のお医者さんには実感がわかないだろう)
ワクチンというのは、症状がないところに半ば義務的に接種される。”不要なものをシステム側からぶち込まれている“感が強い。
ワクチンというのは、自らが金儲けの手段にされることの象徴なのかもしれない。実際に、医療システムの商業化と不信が進行しているUSでは、3人に1人がコロナワクチンを接種しないと考えているようだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6ecb5e8257a944e20e9580c9d722d6a28f17769d


⑥ワクチンは儲かるビジネスなのか?

現代医療にビジネスの側面があることを、私は知っている。
なぜなら私もまた、“加害者”の一人だからだ。そういう立場から、ワクチンを眺めてみると、もちろんビジネスの側面がないわけではないが、”ビジネス度合い“は、相対的に低い気がする。つまりワクチンはそんなに儲かるビジネスではないと思う。

インフルエンザやCOVID-19のような、全国民が毎年打つものは例外だが、殆どのワクチンは一発打って終わりである。単価も安い。
どちらかというと、毎日飲む薬の方がマーケットとしては大きい。
(正常血圧と高血圧の境界線はどんどん低下している。これこそ医療が金儲けの手段になってる例ではないかと思うが、こちらはあんまり叩かれない。)
他にも、ワクチンよりもずっと露骨な金儲けを疑う例を、私は両手で数え切れないくらい挙げることができる。多くのワクチンは良心的な製品である。

⑦まとめ
まずは個々のワクチンについての違いが存在することを認識しよう。実際の事実をわかりやすく伝えるのは、医療サイドの専門家の仕事だ。私はyoutubeも更新しているが、動画の一本目はそれぞれの薬物の安全性比較の話から始めた。まずは大麻と覚せい剤の違いを明確にしなければ、議論を始めることもできないからだ。
そういう下地となる仕事をせずに、ワクチン反対派を感情的に叩くことはネット界の名声や自己顕示欲の充足には繋がっても問題の解決には繋がらない。

そして、ワクチンに反感を持っている人は、それが何に対する反感なのかを、一度胸に手を当てて考えて欲しい。たしかに現代医療には、負の側面がある。巨大な産業であることも否定しない。これから登場するコロナワクチンを巡っては注視する必要があるだろう。でもその懐疑を“ワクチン全体”への批判に転化すると、話がおかしなことになる。本質を見つめ直すことは、意義のあることだ。


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