第2回③ 水野遼先生
福岡出身で、医学部在学中に公認会計士・弁護士の資格を取得されたのち、2016年に弁護士登録された水野先生。2019年からは個人事務所を構えつつ、今年から九州大学で実務家教員も担当されています。
そんな水野先生が臨床医にならなかった理由、そして弁護士としての想いを語ってくださいました。
医師家系に生まれ、医師になることは半ば当然だった水野先生。周囲からも勧められ、「あまり深く考えず」医学部に進学したといいます。
美容外科医になりたいと思っていたが、医学部は面白くなく、法律に興味を持ち、司法試験予備試験を受験します。司法試験合格後は予備校講師としても活動し、卒業後は医師ではなく弁護士となり、知財・損保系事務所を経たのち、開業。開業後に、あまり向き合って来なかった医療の世界と向き合うことになったといいます。
法律と医学の双方で生きる水野先生は、それぞれ「法の世界で役立つ医」と「医の世界で役立つ法」と題して、それぞれの関連について事例を交えて紹介されました。
<法の世界で役立つ医>
・医療事故 人ができないニッチなところであり、医学知識が活きる
・交通事故 損保系事務所にいたので、経験も多く、医学的専門知識も求められる
・精神保健・医療観察 法的問題になりやすい医療分野であり、双方の深い知識が求められる
・理科系の知識 弁護士はIT・英語・理科系に苦手意識があり、理科系の知識があることが大きな差別化になる
特に精神保健については、福岡県が精神科の強制入院患者支援に注力しており、水野先生自身も日弁連で法改正の提言を行うなど、力を入れているといいます。
<医の世界で役立つ法>
・医療事故
近年複雑化・多様化し、産婦人科・小児科・外科などだけではなくなってきている。患者が医療者に言えない不満を弁護士に言ってくることもあり、説明不足などを感じる案件も多い。
・病院内での法律問題
以前は病院内で処理されていたものが多かったが、近年専門家の介入が必要な事例が増えている。病院はモンスター患者など、業態故のトラブルが多いのみならず、セクハラやいじめ・離婚や相続・不倫など個人的なトラブルもあり、このような需要も現場をある程度知っている人に頼みたい、という需要がある
・医療職からの法律相談
医療職にとって、背景まで知った上で本当に相談できる人はなかなかおらず、弁護士の選び方もわからない中での相談の需要がある
最後にこのような「弁護士としての視点」から、特に現場にいる医療者や、医学生に対して、「医療の世界にいて思うこと」を語ってくださいました。
まず医療業界は、当事者が思っている以上に閉鎖的・保守的であること。上下関係も厳しく、ハラスメントなどが起きやすいのみならず、組織の中で正しさを貫くことの難しさに思い悩む人も多いといいます。特に現代は医学的に正しい事をしていれば良いという時代から、患者の価値観・自己決定権を重視する時代に変わりつつある中で、専門職間での違いも生じやすくなっています。
また、働き方改革も進んでいますがまだまだ遅れており、労働問題など、自分の身は自分で守らなければなりません。研修医が労基署に駆け込む事も増えていますが、医師自身が、心身共に健やかに仕事に打ち込むことの重要性がもっと認識される必要性があるといいます。
また収入の多さや社会的地位のため、個人的なトラブルに巻き込まれることも多く、このような意味で知り合いに弁護士がいるのは重要だといいます。「何かあればすぐに噂が立つ業界」であり、本当に信頼できる相談相手を持っておくことは大事であり、水野先生自身ではなくとも、相談相手をしっかり持っておくことをおすすめします、と語ってくださいました。
普通の医師では知り得ない角度から、様々な話をしてくださった水野先生。
最後に視聴者から、「公認会計士についてはどういうところで活きているか?」という質問がありました。
それに対し、事例として病院での横領があった時、第三者委員会で病院会計の特色について扱う機会があり、こういう時に3つの資格の掛け合わせが生きているとのお話でした。
取材・文:平野翔大(産業医/産婦人科医/医療ライター)
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