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第5話| 色って、あると思う?

「われにあらざる」って、個人技じゃなくて、周りに反応できることのほうが大事ってこと?

ダザイはサッカーわからない。

えーっ、レベル無限大なのに?

サッカーは AI の無限大以上。

うん、それはそうかも。じゃ、なんか他のやりかたで「われにあらざる」を説明してくれない?

色って、あると思う? たとえば、赤はある?

何言ってんだ、ダザイ。さっき花屋さんに赤い花がいっぱいあったじゃないか。

じゃあ聞くけど、真っ暗闇のなかで赤が見える?

見えない。でもそれは人間の眼が見えてないだけで、赤い花はちゃんとある。

花はちゃんとある。真っ暗でも匂いがするし、触ることだってできる。でもその花って赤い?

赤いでしょ?

どうやって確かめる?

電気をつけてみる。

それはだめ。ダザイはなんて質問したっけ。

真っ暗闇のなかで赤が見えるか。

そうだよね。電気つけたら暗闇じゃなくなるよね?

そーかー。暗闇で赤を確かめる方法はないか….. でもそれって、赤っていう色が「ない」ことなの? 「ある」ことと「確かめられる」ことは、ちがくない? ダザイ、信号青だ。またあとで。

ゆう君ちが見えてきた。通りの向こう側はピカピカのビルの林。こっち側はトトロが住んでそうな昔の町。蔦が絡まったお店のドアを開けると、「おっ」てかんじで、ゆう君とやす君が顔を出した。やす君はクラスで一番料理がうまくて、おいしいものが作れる。今日も作ってくれるかな。だって花を持ってきたもんな。4周年。やす君に聞いてみるか。やす君、暗闇に赤は存在する?

「え?存在する? しないかもしれないの? ゴーゴロで調べてみよう」

ゴーゴロ知ってるかな、そういうこと...

「知ってた!」

びっくりだ。ゴーゴロ対ダザイ、おもしろくなってきたぞ。

「えっとねぇ... 〝存在する〟って言ってるのはプラトニズムで、〝存在するとは言えない〟っていうのが、ブラウアーやウィトゲンシュタインたちの恒星主義だって」

その主義はじめて聞いた。かっこいいけど、ほんとは構成主義じゃないの?

「ブラウワーは、命題の真偽の存在をあらかじめ前提する背理法を認めず... 」

なんかムズい。

「おれも全然わかんねえや。もうちょっと読んでわかんなかったら、ゴーゴロはクビだ」

いきなりクビはかわいそうだ。

「またウィトゲンシュタインは『論考』の末尾に〝語りえないことは沈黙しなければならない〟と書き... これドイツ語?なんて読むの、ゆう君?」

(ゆう君)シュヴァイゲン。

「すごいじゃん、て聞こえる(笑)」

聞こえないよ。

「さらに後期においては、反プラトニズムの結晶とみなしうる警句〝考えるな、見よ!〟を残している... 」

わかった。僕らは「暗闇の赤」を考えてるんだ。 見てはいない。腹減った。やす君、ムケッカ作って。

(つづく)

挿し絵| 富澤大勇

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