2023年のマンガ読み④

その① その② その③


あーとかうーしか言えない

エロ業界の『重版出来』。

エロ漫画雑誌の編集タナカが、エロ漫画家志望の女性、戸田セーコと出会う。彼女は言葉がなかなか出てこないという特性もあり、タナカと同居することに。

エロ漫画家という設定にはサービス要素を感じるし、若い女性二人の同棲といえば百合である。つまり売れセンの要素を戦略的に取り入れている。

Webマンガサイトではそういう、「売れセン要素を逆算して詰め込みました」という感じのマンガも多いのだが、本作にはしっかりと中身があった。

ギョーカイ物としての見どころもあり、作家性と「実用」の間の葛藤だったり、セーコが持つ「性」への真摯な関心、マンガ家としての・人間としての成長などがしっかりと描かれていた。作者の各回ごとのコメントが長いことも、アシスタントへの感謝や活躍の紹介があることも良かった。25話まで書いて、あと5話で打ち切りと決まってしまったようだが、次回作に期待してもいいと思う。

シャングリラ・フロンティア(最新話まで)

原作は2017年より連載されていた「なろう小説」。自分がなろう原作のマンガを楽しむとは思っていなかった。マガポケで読むものがほとんどなくなったこと、毎回のコメント数がかなり多いこと、主人公が鳥頭なことが気になり、挑戦。

自分が異世界転生を避けているのは、現実世界への否定を感じるからである。ノーゲーム・ノーライフの空白兄妹は、現実はクソゲーと言い放ち、帰ろうとする様子を見せない。

それが気になっていたら、Reゼロでは主人公が死んで新しい世界に入る形式となった。これなら帰ろうとする素振り自体が必要なくなるが、それでいいのかという気持ち悪さがあった。(アニメ二期で描写あり、無視はしてないが)。

ともあれ、シャングリラ・フロンティアは現実世界の否定ではない。現実世界を生きる上でのかけがえのない趣味として生き生きとゲームをプレイしているのだ。黎明期のRTAをみていた頃のようにゲームのうまい人が、未踏の地を拓いていくのを応援しながらみつめていたのを思い出す。作画もストーリーも良く、気持ちよく見れる期待以上の作品だった。

ダンダダン(最新話まで)

オカルト、バトル、ラブコメを盛り込んだエンタメ作。オカルンが奪われた金玉を取り返すという切迫感のない目的設定ではあるが、ラブコメとして面白い。

画力もアホみたいに高いのだが、コマ内の書き込みが多く、主人公や敵のデザインもゴチャゴチャしているため、バトルシーンは一目で何が起きているのかわからないことも多い。

ハンターハンターみたいに引き算でシンプルに表現された方がバトルは面白いのでは。ただ、人間関係、キャラクターはなかなか良い。

なおりはしないがマシになる

ツイ廃の漫画家、カレー沢薫。言動や部屋の汚さからして明らかに発達障害だった彼女が、診断を受けて専門家に相談してみるという企画のマンガ。案の定ADHDと診断されてから、その特性と向き合い、自分への理解を深め、マシに生きていくための対処を見つけていく。

ADHDの思考回路を開き直って晒す感じが面白く、毎回クスリとさせられる。本人絵も緩いデフォルメとキリっとした表情を使い分けており、自分のしょうもなさを開き直るときにキリっとするのが面白い。

自分もおそらく発達グレーゾーンに位置するのだろう。ところどころ、「あるある!」と共感してしまった。

もやしもん

菌を肉眼でキャラクター的に見ることができ、そしてコミュニケーションをとることができるというチート能力の持主、沢木惣衛門。彼が農大に入り、色々な経験をするというもの。

1~2巻程度で終わるショートエピソードで、農大のワチャワチャした学生生活、菌や発酵を駆使した食品についての議論などが扱われる。設定自体が面白く、また盛り込まれている知識・情報自体も面白いのだが、物語としてはつかみどころがないという印象も持った。

大きくみれば、最終的には人間的成長としてまとめているのだろう。しかし、各登場人物がどういった問題を抱えているのかがかなり見えづらい。最終回に近くなるにつれて、それぞれのキャラの課題というのが急に明確になってきて、急に解決した印象すらあった。

唯一明確になっているのは長谷川遥であり、彼女の高圧的な感じとか、他を寄せ付けない言動、ファッションや厚化粧という形で描写され、フランス編を経て憑き物が落ちるのはとても良かった。

また、大学で発酵に関するゼミに入り、沢木がどんな活躍をするのかということを当然楽しみにするわけだが、樹ゼミというのは「既知の発酵技術を自分たちでもやる」ということばかりやっていて、ワクワクするような挑戦は何も行っていない(沢木が1年生であることを考えると、そういった基礎的な実習が中心になるのは当たり前だし、長谷川は何かをやっていて論文も書いているのだが)。たまに樹教授が「壮大な何か」に取り組もうとしていることは示唆されるのだが、結局のところ示唆にとどまり続ける。

全12巻のマンガだが、6巻あたりまでは面白く、その後は下り坂という感じだった。特にアメリカ編は本当に話がどこに向かっていくのかわからない散漫さがすごかった。

結婚アフロ田中

田中がナナコにプロポーズしたその後が描かれる。両親への挨拶、結婚式、妊娠、出産、育児… それらの節目の回はやっぱり面白いし、特に出産回とごく初期の育児回には爆笑ものもあった。

一方で、田中はいよいよ家庭への責任がでてきて性欲ギャグなどには不向きになっていく。主人公である田中回が、良きパパをやっている田中を淡々と描くような回になっていく。

これはこれで、自分はめちゃくちゃ共感できて好きだった。あたたかな読後感や、田中への仲間意識が湧いてくる。ただ、読者によっては「こういう回はつまらない」と思うようだ。マンガワンのコメント欄がそうだった。

まあこのマンガの巧妙なところは、田中の仕事先の西田さんとか、童貞の後輩たちとか、高校時代の友人たちを主人公にした話でバランスを取れるところである。

しあわせアフロの感想では、「わざわざ童貞の後輩たちを新登場させて似たようなネタこすらんでええわ」というようなことを書いたが、アフロ田中の下ネタには不快感がないことにも気づいてきた。というのも、アフロ田中の場合、「性欲なんてものに突き動かされてしまう自分たちの悲しさ」を愛情ある目線で描く傾向があるのだ。人間という存在の不格好さを暴くだけでなく、それごと愛し、肯定する感じ。その系統で個人的に好きなのは「性欲くん」と「工場長」が出てくる話である。

それを以下のツイートにしたためたところ、著者RTをもらえてとても嬉しかった。

ウンコちんちん的な下ネタ→好き
生々しい下ネタ→つまらん場をわきまえろ帰れ
アフロ田中の下ネタ→味わい深い

それと、著者が田中は現実時間に合わせて年を取ると語っていて、そうなると俄然興味深い。というのも、田中の長女が自分の長男と同級生にあたるのだ。連載を追っていけば子どものライフステージが重複するわけで、今後も田中の育児、家長としての奮闘を見届けたい。

初恋、ざらり

主人公の上戸有紗は軽度の知的障害と自閉症を持つ女性。IQは68。彼女は社会のなかでの自分の価値を確認したくて、身体を求められるたびに安易に差し出してしまう。

そんな彼女だったが、新しい職場で優しい上司の岡村さんと出会い、初めて本当の意味での恋をする。だが、自らの知的障害を告白すると、岡村は事実の受け入れに葛藤が生じ、それを察した有紗は傷つく。

また、両親に紹介するフェイズでもやはり、知能が子どもに遺伝したら…というような対応もされ、有紗は深く傷ついて…という物語。

特筆すべきは「知的障害者の恋愛一般の話」ではないことだろう。「有紗という一人の女性がいた。年齢のわりにあどけない容姿。仕事が下手だけど一生懸命。そして知的障害」という感じで、あくまでそういう一人の人物の恋愛を描いたということにあるんじゃないだろうか。

だから、恋愛が進むことでのドキドキや浮かれた感じなどには、知的障害云々は関係していない。ただ一人の女性として、一人の人格として恋愛しているように見える。だからこそ、その恋愛が彼女の知的障害者という「属性」によって躓いてしまうことのやりきれなさが深く伝わってきた。

限界煩悩活劇オサム

冴えない腐女子、オサム。彼女には霊媒師としての専門があり、腐女子の濃厚すぎる想いが怨念化したものだけを退治するのだった。

連載のきっかけとなった読み切りが抜群に面白かった。腐女子の様々な習性、彼女たちの異常なまでの想いの強さ、そしてオサムのパートナーである非実在ギャルの春山カイカもとても良い。

ちょっとサブキャラとかイマイチかなと思うこともあったが、とにかく光るものの多い作品だったので次回作に期待したい。

闘え!コウキくん

井上尚弥の従弟である井上浩樹。彼自身もスーパーライト級の東洋太平洋王者であり、そして重度のオタクでもある。テイルズオブディステニーのヒロインにハマったり、ラブライブで声優を推すようになったという経緯も語られている。

そんな彼の日常ものであり、登場人物に井上尚弥、井上拓真、井上真吾も登場する。マンガとしてはもちろん素人に毛が生えた程度のものではあるのだが、井上ファミリーの様子が伝わってくる貴重な一冊でもある。

井上尚弥はジャイアン的な描写がなされる。馴染んだ身内に見せる顔というのは貴重だ。

作中ではケガの回復が悪いこと、コロナ禍、初の敗北を機に彼が引退するところまで描かれるのだが、2023年に彼は復帰しており、つい先日は気持ちの入った素晴らしい試合でTKO勝利する姿を見せてくれた。井上尚弥には大器と呼ばれ、メンタル面が課題とされていたが、それを乗り越える姿を見せてくれたわけだ。

背景を知っていることで得られる快感というものがあり、ファイターとしての彼の今後に期待したい。

鋼の錬金術師

格が違う神漫画。今読んでしみじみ思うのは、モブキャラ一人ひとりに至るまで、その世界で地に足をつけて生きているということ。そんなファンタジーを書ける人が何人いるのか。

酪農家の娘として培った、働かざる者食うべからずという世界観。それが命の葛藤を含む物語に深みを生んでいる。キャラもいい。アームストロング家全員好き。特に姉。

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