ちいかわとリヴァイアサン

前書き(ちいかわの魅力)

ちいかわ、面白いですよね。
ちいかわの魅力と言えば、

第一に、表情豊かでかわいいキャラクター。

第二に、激熱のストーリーライン。
(四コマ目のセイレーンの表情がマジで狂おしいほど好きですし、ゴブリン編に引き続いて「俺に任せてお前たちは逃げろ」という少年漫画みたいなストーリーになるとは思わんのよ)

そして、
第三に、「謎めいた世界観」ですよね!!!!
(キメラがこれ以降登場していないのが何より怖すぎるよ)

・「でかつよ」と「モモンガ」
・「あの子」の正体
 みたいな、「多分こういうことなんだろうなあ」と思える、ちょっとダークな仄めかしの他、

・「エリアEの危険草」
・「湧きどころ」
・キメラに「なる」条件がある??
 みたいな、「何、どういうこと?」と頭を抱えるワードもちりばめられて面白いです。

日々、更新をドキドキしながら見守っている中で、
モモンガを見て思ったんです。

この世界観、「リヴァイアサン」だなあ……って。



リヴァイアサンとは

リヴァイアサンっていうのは、17世紀にイギリス人のホッブスと言う人が書いた本なんですが、詳しくはwikipediaとか見てください。

私が、何故、「ちいかわを読んでいて、リヴァイアサンを思い出したか」っていう話を可能な限りわかりやすく書きたいな、っていうのがこのnoteの主旨なので、ある程度恣意的な説明になります。なので、「正確には違うよね」というような話があるかもしれませんが、見逃してください!
正確なことが知りたい人は読めばいいと思う!!! 日本語訳あるんだから!!

リヴァイアサンのトロの部分を簡単に説明すると、
A.国家がない状態の人間たちは、絶えず喧嘩して、財産を奪い合う。
 (この状態を、自然状態と呼びます)
B.それでは安全出来ないから、自然発生的なルールを、人間は生み出す。
 (この自然発生的なルールを、「自然法」と言います)
C.自然法があっても、自分の都合のいい時は守るけど、自分の都合の悪い時は守らない人間が生まれてくるので、全ての人間に「いいから常にルールは守れ」と強制できるような、誰よりも強い力を持つ権力者を人々は必要とし、その結果、国家が生まれる

図にするとこんな感じ。

ちいかわとリヴァイアサン①「自然状態」

「モモンガ(中身)」、あまりにも「自然状態」を生きている……。
モモンガ(中身)にとっては、略奪をするのが当然であり、彼(?)の世界観にはそもそも正義・悪とか、正・不正という概念が存在しない。

自然状態においては、「各人は、他人の身体さえも含むあらゆるものに対して権利を持つ」(第十四章)ので、モモンガは他人であるちいかわを捕食することにすら躊躇いを持ちませんし、人魚のことも「自分のために」食べたいと言い、しかもそれを「悪い」と思っていません。促されても理解もできない。
け、稀有なキャラクター性~!! 野生動物にも似た…純粋な…善悪未分化…いや…善悪非存在の…まさしく"自然状態"の体現じゃん…彼の活躍に、今後も目が離せませんね。(モモンガのメンタルに変化はあるのか?(個人的にここを成長とは言いたくない) モモンガのフィジカルにも変化はあるのか? というところが)

ちいかわとリヴァイアサン②「中間期」

島には、「集団で暮らすモブたち」と、「セイレーン+人魚」がいます。
島民は集団で和やかに暮らしており、セイレーンとも(今回の事件が起きるまでは)共存しました。
モブたちは共同で集落をつくっているため、ある程度共通ルールを持っていそうに思えます。(少なくとも、セイレーンという脅威に対し、外部の助力を求めるという方針で一致し、全員でお祭りを開く、という協力が出来ている)

一方、「(仲間が)食べられてしまった」「だから食べている」と説明するセイレーンは、モモンガと同じ、「自然法を持たない、という意味での自然状態」にいる生き物です。
モモンガよりは協調性がありそう、人魚たちと暮らしているんだし、ごめんねもいえるし、とも思えますが、「自然法」は、「他者とコミュニケーションが出来る」を越えて、「自分の権利と他人の権利を同時に制限する共通のルールの存在を認める」というところを含むので、セイレーンは自然法の下に生きていない、と言うことは出来ると思います。
後述しますが、自然法の第七条としてホッブスがあげているのは復讐の作法です。要約すると、「復讐する時は、過去における罪の大きさよりも、未来に発生する善の大きさに目を向けろ」です。
「人魚の内の一匹を、おそらくは島民の"誰か"が食べた」という推測をもとに、「"誰か"が判明するまで、無作為に島民を捕食してもいい」というのは、セイレーンにとってのみ都合の良いルールです。

それにしてもセイレーンちゃん、か~わいい!!! ぬいぐるみ求めてます。

つまり、島は、「集団で農業を行って暮らしている=自然法を持つ共同体の中で暮らしている=モブたち」と、「島民との間に共通のルールを持たない=自己ルールで暮らしているセイレーンたち」が共存している、と言えます。

何故こんな状況になるかと言えば、「島民、そしてセイレーンの両方に対して、平等に、ルールを守れと強制できる権力が不在」だからです。権力の威嚇がないので、セイレーンは自分達に危害が加わった段階で、自然法を守らなくなったのです。


ちいかわとリヴァイアサン③「政治的共同体誕生」

一方、ちいかわ達の本来住んでいたエリアには、「ヨロイさんたち」がいます。
私は彼らが、自然法の守護者と思っています。
「リヴァイアサン」において、自然法は全部で19条あります。
短くまとめつつ一気に載せます。

1.基本的には平和を求めろ(自分の身を守れ)
2.他人と共に平和と自己防衛のために必要な権利を放棄せよ
3.約束したら、守れ
4.他人に親切をされたら、相手にも親切にしよう
5.周りの人々に順応するように努めろ
6.罪を犯した人間が、悔い改めて許容を望むならば、その罪を許容しろ
7.復讐する時は、過去における罪の大きさよりも、未来のことを考えろ
 (相手を傷つけることしか考えない、将来の利益を考慮しない復讐を、するな)
8.傲慢になるな
9.自惚れはだめ
 (他人は、自分と同じくらい平等のものとして認めろ)
10.尊大にふるまうのもだめ
 (自分だけ特別扱いするな)
11.えこひいきしてはいけない
12.共有物は平等に使え
13.分割や共有ができないものは、所有権をくじびきできめろ
14.長子相続がいい
15.平和を仲介するすべてのものには、行動の安全が許されるべき
16.調停者が決めたことには従え
17.自分自身の裁判官にはなれないからな
18.不公平になる要因をもつものは裁判官になれない
19.あらそいがおきて、他の証拠がなければ、証人が必要だ

相続の話など、ちいかわの世界に似つかわしくないものもありますけれども、
「順番にインターネットを共有」していたり(12条)
「家がくじびきで決まったり」(13条。ちいかわの家はヨーグルトの懸賞ですが、このヨーグルトのキャラクター(むちゃうマン)のショーの中身はヨロイさんなので、懸賞の主催もヨロイ族であり、「ヨロイ族がインフラとして家を整えたが、それをちいかわ族の誰に贈与するかでくじ引きをした」と解釈しています)
「周りの人々に順応するように努めなかったモモンガを排除したり」(5条。郎のルールを守らなかった時の話です)

ポシェットのヨロイさんが、上司から「仲良くしすぎだ」と咎められるのも、「えこひいきをしてはいけない」(11条)や「不公平になる要因をもつものは裁判官になれない」(18条)という自然法に、仲良くすると抵触してしまうからでは、と思えます。

モモンガに食べられかけたちいかわが、自分の代わりに木の実を差し出すシーンと、その後特にモモンガの所業についてヨロイに訴えることがないこと、そしてハチワレが危険草を見つけたシーンのことを考えると、信賞必罰が発達し、機能しているわけではないのだろうな、と思いますが……。

ちいかわたちが簡単にアクセスできる場所でヨロイ族用の武器が売っていること、ヨロイ族の見ているところに突如現れた擬態型(なにつくろ~なにつくろ~)に対してヨロイ族が特になにもしていない(武器を持っているのはモブのちいかわ族であり、「見かけたら報告して」と求めるにとどまっているところを見ても、「ヨロイ族は、友好型・擬態型・でかつよ達を区別せず、どれか一方の味方になることはない」ように見えますが……。
これは「傲慢になるな」というか、自然に存在するものに不必要に干渉してはいけない、みたいなルールがあるものだと思っています。(同じく、自然に存在するものであるちいかわ達自体が攻撃をしかけるのはOKで、そのために武器を供与するのもOKという、ガバガバルールですが……えこひいきじゃん……?!)

(ピクニックの時、ポシェットのヨロイさんが、ちいかわ達を襲う虫型から守ってくれますが、これは他に証人となるような存在がおらず、ポシェットのヨロイさんがちいかわ達に対して特別な親愛を抱いているからだと思っています)


まとめ

ちいかわ面白いよ~。

自己の内側に「自然状態」を持っているモモンガ
自己の内側の「自然状態」を目覚めさせたあのこ
「自然状態」に追いやられたでかつよ

A・B・Cが、それぞれ内面的な話なのか仕組み的な話なのかというのをおいてけぼりにして話しているのでこれはもう全部与太話なんですけど、
このA・B・Cが指向性を持ってどちらかに偏って発展していくという話ではなくて、割と可逆性があるというのも面白いですし……。

ヨロイたちが中心として作っているっぽい、ちいかわたちが住むエリアについても、コモンウェルスとしてはとっても未熟に見えて……
あえて未熟にしているのか……?!
みたいなところも含めて、わくわくどきどきが止まりませんね!!!!

コミックス6巻楽しみ~!!! 飢餓の話と館の話まとめて読みたい~!!!

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