土居けん

何者でもない。ただ、生きてきた日々に感じた想いを、小説に遺しておきたい。

土居けん

何者でもない。ただ、生きてきた日々に感じた想いを、小説に遺しておきたい。

マガジン

  • 短編集

  • 無色透明の腐った心

  • 魂を隣に。

  • 後記

    今日まで生きてきた経験、体験、出来事、想い。これらが私の小説の中でどのようにして礎となっているか、その後記。

  • 幸せな技術

最近の記事

今、死ぬ。

 テロメアの研究から人の死ぬ瞬間の正確な時間が分かるようになったらしい。俺は最近慢性的に体調が優れないから軽い気持ちで受診したのに、いつの間にか入院することになっていて、検査の結果、数日後に死ぬと医者から宣告された。  俺は今、ベットで横になっている。あと二分で俺は死ぬ。何時何分、何秒までに死ぬかが分かるらしい。今のところ、俺は特に死ぬような兆候は感じられていない。  十年ぶりに顔を合わせた母親がずっと俺に声を掛けてくる。この瞬間にも記憶に残らないようなどうでもいいことを俺に

    • 繋がりを求めても、いつ巡り逢うか分からない、だから、私は魂を想ふ。/後記

      【小説/魂を想ふ。】 https://estar.jp/_work_viewer?p=1&page=1&w=25102546 初だった、というのが一番だと思う。

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      • 今の気持ちは永遠ではない。楽しことも、悲しいことも。/後記

        【小説/魂はずっと。】 https://estar.jp/_work_viewer?p=1&page=1&w=25102505 小さい頃から凄く冷めていたところがある。幼ながらに達観していたというか、感情に起伏を作ることに意味を見い出せずにいた。

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        100
        • 無色透明の腐った心 終

           まるで秋風のような優しい風が窓から飛び込んできた。それは迷い込んできたというほうが適切かもしれない。卓上の風鈴が奏でるメロディが、前垣英司にはなんだか寂しげに聞こえた。 隣に座る母がリンゴの皮をむく手を休めて、しばらくその迷い風と戯れた。  風で捲りあがったカーディガンを前垣がなおすと、ありがとう、と母は言った。  前垣は窓のサッシに手をついて外を眺めた。何度見てもそこは静かで穏やかだった。例えば南北戦争で使用した大砲をぶっ放してもそれが空耳だったんじゃないかと思えるほどの

        今、死ぬ。

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        • 短編集
          1本
        • 無色透明の腐った心
          7本
        • 魂を隣に。
          4本
        • 後記
          3本
        • ラディカル・ゾンビ・キーパー
          9本
        • 幸せな技術
          1本

        記事

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 終

           クミにスターバックスに誘われた。  思っていた通り、駅前のスターバックスは四ヶ月で閉店となった。今日がその三日前で、前に覗いた時よりも少しだけお客さんがいた。  フウカは一緒ではなかった。 「ナオミのこと、あたし、好きなんだよ」 「え?」 「ナオミがあたしたちのことをウザいって思ってるのは知ってる、フウカは無神経でそういうのに全然気がつかないからあれだけど、あたしは知ってるよ、だけど、あたしはナオミのことが中学の時からずっと好きなんだよ、だから、ウザがられても一緒に帰ろうっ

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 終

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 八

           目を覚ました、という感じではなかった。照明のない長いトンネルを目隠しされたまま抜け出たような感覚だった。しかし先に反応したのは視覚ではなく嗅覚だった。便所のような酸っぱいむせ返るような臭いがするが、その気体の粒子一粒一粒はプラチナよりも重い気がした。体中にこびり付き纏わりついて、それらは汗に混じって体を溶かしていく。このままここにいたら塩を掛けられたナメクジみたいに溶けて消えてしまいそうだとラドは思った。 そこはトンネルとあまり変わらなかった。冷たいコンクリートが視界を支配

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 八

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 七

           高校の同級生に青白い肌の女がいたことをラドは思い出した。白い肌にうっすらと浮かんだ青い血管が童貞の小僧にはあまりに刺激的だった。 その女はクラスで浮いた存在だった。顔や性格が悪かったわけではない。笑わないのだ。あれだけ楚々とした顔立ちの女はいないだろうとラドは今でも思った。背も高かった。肩甲骨まで伸びた長い髪、きりっとした切れ長の瞳、化粧品の広告モデルでもしたら世の中は必ず大騒ぎになるだろうとまで思った。もしかしたら本当にモデルとして活躍しているかもしれない。生きていたら。

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 七

          無色透明の腐った心 六

           タクシーに乗り込むとハルナは運転席の後ろに座り、うつむいたまま行き先を告げた。  運転手は明るい返事をした。中畑という名前だった。頭が薄かった。  車では運転席の後ろが上座だと、何かのテレビでやっていた。助手席が下座で、これは事故時の死亡率で決められているらしい。それを知ってからはいつも運転席の後ろに座るようにしている。 「夜遅くまでお仕事ですか? 大変ですねえ」  シャンパンゴールドのショルダーバッグから携帯電話を取り出して、ハルナはメールを打ち始めた。運転手はミラー越し

          無色透明の腐った心 六

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 六

          何もしていないのに一日のテンションを保てない。双子座の今日の運勢が最下位だからだろう。急に嬉しくなったり苛々したり悲しくなったり怖くなったりする。動脈の血の色のメガネを掛けたOLが秒給八千円以上のビル・ゲイツに嫉妬してヨガにハマる感じに似ている。それでいて、一方で、セブンイレブンの冷やし中華をビニール袋の中で汁と共にこぼした時に発生した酸っぱい臭いと同じ臭いをワキに抱えた、メイド喫茶で働きたいと強く願っている馬鹿な女になった気分だ。中国拳法を身につけようとして格闘ゲームを始め

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 六

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 五

          アブソルート・スラットを飲み干した後にシット・オン・マイ・フェイスを頼むと、ラドはボーイにVIPルームへ連れられた。都内最大のキャパシティーを誇る六本木のクラブ「クレセント」、インテリアは世界的に有名なデンマークのデザイナーが手掛けていて、一人用のソファだけでひとつ六十万円もする。それらは全フロアに配置されている。しかし一般客がVIP客と顔を合わせることはまずない。VIP客は隣接するホテルのスイートゲストのみで、その入口もホテルにしかない。 ラドは従業員の通用口からVIPルー

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 五

          無色透明の腐った心 五

           新刊コーナーのポップを見て、発売日がとっくに過ぎていたことに気がついた。それでも目当ての本は大量に積まれていて、人気がないのかなと思いながら手に取った。なんたら新人賞を受賞してからの三作目、作者は大学中退でひきこもりやストーカーを経験した二十五歳の青年、期待の新人だ。でも楽しみにしていたのは自分だけだったのだろうかと思うとなんだか悲しかった。  文藝コーナーには先月から気になっている「氷目」という失恋を題材にした小説がまだ積まれていた。「二十万部突破」という帯に変わっている

          無色透明の腐った心 五

          無色透明の腐った心 四

           鈴木聡は高校を中退しているがそこらの偏差値を自慢しているだけの中身が空っぽな大学生よりよっぽど頭が良いだろうなと高橋良夫は思った。前に税務署で短期のアルバイトをしたときに知り合った一つ年上の先輩がこの世には地頭の良い奴と悪い奴しかいないんだと言っていたが鈴木は地頭の良い奴だろう。地頭とは脳みその出来のことをいうらしい。 「客だ」  オリーブ色のTシャツを着た、髪を右巻きにしている若い女がモニターに映っていた。一早くそれに気づいた鈴木がそう呟いたのだ。女は、誰かに似ている、と

          無色透明の腐った心 四

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 四

          駅前にスターバックスができたの知ってる? どの辺? 駅出て、右の方、 ローソンがあったとこ? そうそう、昨日、フウカと行ってみたんだけど、暇そうだった、 ローソンの前はなんだったっけ? ビデオ屋じゃなかった? キャラメルマキアートもなんとなく微妙な味だったよ、 アメリカンコーヒーが一番おいしいよ、 薄いやつ? そう、 あそこはリッチが悪いよね、あたしら高校生ぐらいしか行かないでしょ、 すぐ潰れるよ、 誰も来なくてあたしらのプライベート・カフェみたいになったら面白いけど、 すぐ

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 四

          陽向、二十七歳/魂を隣に。

           松本さんとは小学校が同じだった。 「ちょっと、なんで素通りするのよ」  松本さんとは幼稚園も一緒だったし、中学校も一緒だった。 「なんでって、別に友だちじゃないだろ」  松本さんとは同じクラスになったことが一度もなかった。 「こないだも言ったじゃん、同じクラスなんだから、それはもう友だちでしょう」  松本さんとは高校も一緒だった。初めて同じクラスになった。 「そんな理論はねえ、とこないだも言った」  同じクラスになるまで松本さんのことを顔も存在すらも知らなかった。俺は強引な

          陽向、二十七歳/魂を隣に。

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 三

           白い砂浜。点。点が、白い砂を溶かしていく。剥き出しになった赤い土、重なり合って色を濃くする。とても静かだ。静かだが、灰白色の煙が脳みその隙間を撫で回すような感じだ。泡が膨らんでいく。その内の一つが油絵の具のような黄色い汁を噴き出した。女は、犬のヨダレにまみれたクマのぬいぐるみのような顔で、白目を濁していた。  まただ、隣の家からドラえもんの主題歌と母子の声が聞こえてくる。夕食。プラスチックの上で海老が足を滑らすような食器の音とタイヤをナイフで裂くような母親の怒鳴り声。そろば

          ラディカル・ゾンビ・キーパー 三

          無色透明の腐った心 三

           始めから分かっていたことだけど、楽しくもなんともない。ていうかつまらなすぎ。一体何が楽しくて、あんな馬鹿みたいな顔して笑うことができるんだろう。そんなに機嫌をとってまでセックスがしたいのなら、テレクラにでも行けばいいのに、出会い系サイトでも漁ればいいのに。怖いんだろうなどうせ、事件に巻き込まれたりするのが、だから、こうやって、お酒を飲ませて、タダでやらせてくれそうな娘を探してるんだきっと。世の中ホントくだらないことが多い。嫌になる。  カルアミルクを片手に持ったマコトが肩

          無色透明の腐った心 三