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子供に「おまんま食べまちょうね~~~~~~」とか言える演技力が欲しい



■好感度が爆下がりすることを言います。



■子供、苦手~~~~~~~!!!!!!



■私は子供が苦手だ。たぶん子供も私のこと苦手だと思う。



■誤解を避けるために言うと、子供がめちゃくちゃ嫌い!!というわけではない。「うまく扱えない」という意味での苦手だ。


■「サッカーが苦手」とかの苦手。ドリブルが下手だからうまくプレイできなくて楽しめない。だからといってサッカーを憎み嫌っているわけではない。そういう苦手。


■たまに「子供が苦手」と言うと、感情を失ったサイボーグのような扱いを受けることがある。本気で引く人もたまにいる。そういう人は、人間に初めて優しくされて「オレオマエ・・・トモ・・・ダチ・・・?」と友達の概念を理解しようと苦しむサイボーグを見るような目で私のことを見るのだ。彼らは私が唯一心を許せるのは子犬と花だけだと思っている。


■安心してほしい。私はプログラムによって動くサイボーグとは違い、脳みそに感情を司る海馬が備わっているので、子供が可愛いという気持ちはじゅうぶん理解できている。友達に子供が生まれたら、おめでたいし可愛いなという感情にもちゃんとなっている。(知らない人の子供には興味はないけど)



■何が苦手って、いわゆる「子供向けの大人」の所作が苦手なのだ。


■「んま~~~~~よくできまちたねぇ~~~~~!!!!!!」みたいな、全力のアレだ。


■どうなってんの?頭のネジ外さないと言えないよあんなの。あんなマンキンの「んま~~~~~~」、みんな本当にシラフで言ってるのか?一滴も飲んでない状態でか?


■「おまんま食べまちょうね~~~~!!!!!!!!」とか自然に言える人すごくない?メッチャ演技力問われない??それまで普通に話していたのに、目の前に子供が現れるや否や即座に「おまんま~」にスイッチできる瞬発力が信じられない。


■私はそういう「子供用モードの自分」を持ち合わせていないので、大人に話すときと同じようにフラットになってしまう。個室に子供と二人きりになったら、「・・・どもス」から始まると思う。手がぶつかったりしたら咄嗟に「アッ、スミマセン」とか言ってしまいそうだ。冷や汗が出る。おまんまではなく「御膳」、「できまちたね~」ではなく「及第点です」と言ってしまうと思う。


■みんながみんな、生まれ持った母性で子供にヨシヨシできるわけではないのだ。あれは立派な才能だ。私のような人間が、振り絞った演技力で「んま~~~~!」と言ってみたところで、子供にもその違和感は伝わってしまうのではないかと思っている。


■子供って、大人が思うより敏感に物事を察知している。苦手だな~と思いながらおそるおそる接するよりも、はじめから無理せずフラットに接するほうが、子供に対しても誠実だと思う。「こいつ苦手だと思ってるな」って子供にバレるのが一番よくない気がする。


■そういえば学生の頃、近所の公園で友達と待ち合わせをしていたら、子供に絡まれたことがある。休日の昼下がりだったので、小学生の低学年と高学年くらいの姉妹とみられる2人が遊んでいた。


■停めた自転車に腰掛けて、子供だなーと思いながら滑り台で遊ぶ2人を眺めてスマホをいじっていたら、姉のほうが走ってこっちに来た。


■「なーなー」と姉は言った。「それ何ー?」と私の自転車のカゴを指さした。


■カゴには、緑色の小さいキーボードが入っていた。当時私は音楽系のサークルに所属していたので、練習用に持ち歩いていたものだった。


■「これ?キーボード」


■「へー。バレンタインな、チョコ作るねん」


■出た。子供の苦手なところだ。脈絡がないのだ。こっちの持ち合わせている会話のフォーマットが通用しない。完全にペースを崩され、思うようにドリブルができなくなる。


■子供との会話が上手い人は、こういうときどうするんだろうか。こっちも脈絡のないことを言って応戦すべきなのか。「へー。スーダンな、いま戦争してるねん」とか言えばいいのか?


■いや、こういうときは提示されたテーマから会話を広げるのが正解だろう。今この子はバレンタインの話をしたいのだ。キーボードは話のとっかかりでしかなく、おそらく待ち望まれている返答はこれだ。



■「へー。好きな子おるん?」



■どうやら正解のコマンドだったようだ。女の子は「え~~~」と言いながら地面を見つめてモジモジした。言ってもいいけどぉ~~いきなりそれ聞くぅ~~~??とでも言いたげなしぐさだった。


■完全に向こうのペースだ。


■というか、うまく対応しようとするのが間違っている気がしてきた。「子供向けの自分」の正解を出そうとするから疲れるのだ。向こうは何も考えずに喋っているのだから、私も私のまま、普段通り話せばいい。


■「私とあなたは共通の知り合いがいないから、いま私に好きな人が誰かをバラしたところで特にデメリットはないだろう」と伝えた。

■女の子は頷き、意を決した様子で好きな子の名前を耳打ちしてくれた。

■好きな子は「ルイくん」だった。

■めっちゃ平成後期の名前だな…と思った。


■すると、一人で遊んでいた妹が走ってきて、「それ何ー?」とキーボードを指さした。キーボードには猫にとってのマタタビのように、子供を惹きつける魔力が備わっているのだろうか。


■キーボードを渡すと、2人で音を鳴らして遊び始めた。壊されるとたまったもんではないので、注意深く見守った。壊されたところで怒り方もわからないから、絶対にその状況は避けたい。


■鍵盤の上部にあるボタンを押して、音を変えてみせると、2人は大はしゃぎしていた。「バキューン」という銃声に変えたらめちゃくちゃウケた。妹はひっくり返って笑っていた。


■こっちが想定したよりウケるということも、子供の難しいところだ。キーボードで遊びながら、「私はコーヒーが好きだからよく飲むんだけど、コーヒー飲むと必ずといっていいほど便意を催すので、最近は便秘だなと思ったらコーヒーを飲むことにしている。つまりウンコ出すためにコーヒーを飲んでる。だから私はコーヒーをウンコ出し水(だしみず)と呼んでいる」という話をしたら妹は狂ったように笑っていた。正直悪い気はしなかった。


■「銃」とか「ウンコ」とか、少し過激なものが子供にウケるというのは、いつの時代も変わらないのだなと思った。


■しばらくすると、2人の母親と思わしき女性が現れた。「すみませーん」と言いながらキーボードを取り上げ、私に手渡した。


■「帰るよー、お姉さんにありがとうは?」


■「ありがとー」


■「はーい」


■はーいじゃねえよ、と私は思った。お互いに時間を使って遊んだのだから、「こちらこそ」と言うべきだ。遊んでやったと思うのはおこがましい。普段子供と接することのない私には、貴重な時間だったからだ。


■2人は母親に連れられ、「ばいばーい」と言いながら去って行った。


■母親と帰る道中、頼むからウンコ出し水の話はしないでくれと願った。


お先に失礼します。



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