ワンコインの牛丼とチップ文化

「いや…注文したんだけど…(イライラ)」「す、すみません」

 仕事終わり・休憩中らしい男女で賑わう、都心の某駅近くの某牛丼チェーン。面接終わりの解放感から勢いよく牛丼を流し込む私は、なにやら不穏なやり取りを目にしてしまった。なにやらと言いつつ、カウンターの曲がり角で斜め前に座るおじさんと店員さんのやり取りの一部始終を見ていたんだから、状況は把握していた
 説明するとこうだ。おじさんが席に着くなり水を持ってきた店員さんAが注文を取って厨房に戻った。その後おじさんに呼ばれたと勘違いした店員さんBが来たがスルーするおじさんに対し「注文ですか…?」と恐る恐る話しかける店員さんB。するとおじさんは「いや…注文したんだけど…(イライラ)」と不満をあらわにし、店員さんBは「す、すみません…」と頭を下げながら慌てて引き返した。
 簡単に言うと、注文し終えて店員には特に用事のないおじさんが、勘違いで注文を取りに来た店員さんに対する態度が悪い、という場面だ。私はこのおじさんに文句か嫌味の1つでも言ってやりたかった(が、しなかった)ので、代わりにここに記すこととす。私がこの場面を見て頭に来たのには原因がいくつかある。

店員に不満をぶつけるとは

 1つ目の怒りポイントは、紛れもない、その態度である。これはコンビニ・ファミレス・牛丼チェーン、様々なお店でよく目撃される迷惑な客の典型だ。不満をあらわにするその態度には、本人には本人なりの理由があるのだろうが、客観的に考えて正当な理由などほぼ100%ない。呼んでないけど店員が来たなら「すいません、呼んでいません」と(怒りを表さず)フツーに伝えれば済む話だろう。注文した商品がなかなか来ない場合などもよくあるが、それも「15分待ってるけど来ないんですが…」と事実のみ伝えて確認してもらえば十分だろう。
 これは場所や状況に関係なく、店員と客という構図に関係なく、人間関係の基本のはず。相手のミスだと思うことでも、決めつけてかからずにまずは”確認”を求める方がスムーズだし(自分の勘違いという可能性だってある)、相手のミスだと確定していても、いきなり怒るべきではない。不満を表すことが正当化されるとしたら、わざとだとか何度も繰り返されるとか、明らかに失礼な態度に限られるだろう。

店員が来ないより100倍マシじゃない?

 2つ目はまあ些細なことだが、店員さんが「呼んでもないのに来た」ことに対してなぜ苛立つのか、ということだ。ずっと待ってるのに来ない、呼んでも来てくれない、とかなら苛立つのもまだわかる。注文を取ってもらえなければ永遠に待たなくてはならない。(もちろん、上で書いたように、それでも相手に不満を示すのはおかしいが。)それに比べて、なぜ!なぜ!店員さんが来て怒るのか。そりゃ「呼んでもないのに来た」は「呼んだのに来ない」と同様に、自分が求めていることと相手の行動が異なることではあるが、別に良くない?????来てくれたなら良くない?????と、驚きすぎて心がギャルになる。

500円の牛丼チェーンに、どんなサービスを求めてるの?

 3つ目の問題意識が、「ここ、激安牛丼チェーンですよ?」ということだ。種類や価格に細かな差はあれ、牛丼チェーンはどこも安くて早くて美味い。冷静に考えてみてほしい。500円も払わずに、綺麗な店内で大盛りの牛丼が食べられることの異常さを。デフレの進行する日本では、コンビニからスーパーの激安弁当からファミレスまで、ワンコインでそれなりの物が食べられることは珍しくなくなってしまったが、よく考えれば安すぎるのだ。
 そして、この安さにもかかわらずセルフサービスでもない。店員さんは「いらっしゃいませ」と笑顔で出迎え、座るとともに水を差し出して注文を取り、客が帰る度にその机を拭いてくれるのだ。このサービスさえ、値段に対して過剰に感じられる。私たちはそのサービスに対する料金を支払っていない。現状のサービスだけでも十分すぎるのに、よく文句言う気になれますね、と思ってしまう。

チップ文化を思い出す

 こんなことを考えながら思い出したのがチップ文化である。私はアメリカに1年間住んでいたのだが、その時にチップ文化に触れて感じたことがある。私の居たカリフォルニアではレストランのチップの相場は15%と言われていた。”良いサービス”だと感じたら18%〜20%を払う。まあまあ高い。いや、けっこう高いのだ。日本の増税後の税率よりも高い。ちなみにカリフォルニアでも税率は(市によって異なるが)7~9%くらいなので、チップの方が全然高い。「あまり払いたくないなあ」「外食が高くついて辛いなあ」というのが本音ではある。
 だから、チップが嫌ならファストフードに行けばいい。ファストフードというと日本だとハンバーガーショップが浮かぶが、アメリカのファストフードはバリエーションが豊富だ。ハンバーガーはもちろん、ピザ・中華・和食・メキシカン…なんだってある。これが正しい分類かわからないが、私の周りに居た現地の人も含め、”ファストフード=チップが不要の飲食店”という印象だ。
 基本的に、チップが必要なレストランは、”店員が席に注文を取りに来て、席まで料理を運ぶ”お店である。その逆、”カウンターで注文して受け取り、自分で席を探し、食べ終わったらトレイやゴミを自分で片付ける”お店がチップ不要なファストフードと考えられる。

チップ文化のいいところ

 このチップの有無による明確な線引きにより何が生まれるかというと、”ファストフード(=チップ不要の店)では店員にサービスを求めない”精神である。現地の人に直接これを確認したわけではないが、彼らと一緒に店を訪れたり周りの客を見たりする限り、そう感じられるし、少なくとも私にはこの精神が住みついた。
 スタバ等のカフェでも日本では店員さんが常に席に気を配り、空いた席を順次拭いて回っているが、アメリカでは基本的にない。1時間に1回とか、余裕のある時間には行なっているが、客も店員さんが拭いてくれることを期待していない。セルフサービスが前提なので、見つけた席が汚ければ座らないか、ペーパータオル等で自分で拭く。ソフトドリンクを売っているところだとウォーターカップを付けてくれるところもあるが、こちらから言わない限り水は出てこない。
 混んでいて席が見つからなくても、席が汚れていても、水が出てこなくても、「まあファストフードだし」「チップ払ってないし仕方ないよね」という感覚が共有されている気がする。

サービスへの感謝は忘れちゃいけない

 私は、チップ制度に賛成というわけでは全然ないです。カウンターで注文して席まで運んでくれるカフェ形式はどうなんだとか、線引きの難しさがあったり、そもそも従業員のサービス料も価格に含めておいて、給料として払えばいいという主張があったり、それなりに問題のつきまとう制度ということは理解してるからです。
 ただ、自分自身がチップ文化に住んで日本を振り返った時に改めて気付かされたことですが、「サービスを当たり前だと思っちゃいけない」ということを、大切にしていきたいと思います。店員さんも給料を支払われていて、その中にサービス料が含まれているはずだとは言え、様々な外食チェーンで、私たちはサービスを期待できるほどの料金を払っていないと思います。チップ制度の無い社会で、私たちにできることは、しっかりと感謝を示すことだと思っています。それは強制できませんが、少なくとも!たかが500円払っただけで神様気分になって怒り散らすことだけはやめていただきたい!!!です。

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