同人三散花

宗谷燃、.原井、飴町ゆゆきの3名からなるうっかり文芸サークル。毎回1つのお題に対して、…

同人三散花

宗谷燃、.原井、飴町ゆゆきの3名からなるうっかり文芸サークル。毎回1つのお題に対して、三者三様に文を綴っていきます。お題はだいたい月一更新の予定。だったんです。当初は。遅筆の極みながら現在も活動中。

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第八開『羽』飴町ゆゆき

 鳥の羽を集めるのが趣味だという人に会ったことがある。  自宅の庭や、職場の駐車場など、何気なく歩いているだけでも地面に落ちている鳥の羽を発見できるのだという。この人は趣味の動物観察のために方々の山林へ遠出する際にも地面に目を光らせているらしいが、住宅地近くの雑木林も穴場なのだということで、早朝に散歩がてら羽を探しに行くこともあるのだというから驚きだ。  ところで、地面に落ちていたものは、汚い。  当たり前である。ともすると我々は「3秒ルール」などという呪文を唱えて事実

    • 第八開『羽』.原井

       優衣ちゃんのお父さんは有翼人でお母さんは普通の人間で、優衣ちゃんはお父さんの形質を少しだけ受け継いだので背中の部分に普通の人間にはないものが付いている。はばたくための翼は持っていないけど、羽の名残としての小さな骨と、それに付随する筋肉が。「別に何に使えるわけでもないし、動かせたってなんにも得することないよー」と言って優衣ちゃんは笑う。「っていうか、リュックしょってても中身が当たってかゆいしさー、役に立つわけでもないくせに動かしとかないと凝っちゃってだるいし」。部活の帰り道。

      • 第七開『縛る』宗谷燃

        生まれてこの方、霊やあの世などスピリチュアルなこととは無関係で生きてきた。それなのに人生20数年目にして今朝初めて金縛りにあった。疲れていたのだろうか、不慣れすぎて戸惑っていたら終わってしまった。何か劇的な展開があるかと実は期待していたのだが、まあ現実はこんなもんか。 ルールは破るためにあるなどと声高に叫び続けていたらいつの間にか誰もいなくなってしまった。何をするにもルールはあって、所詮制約の中でしか生きられない。それを縛りととるか確立されたシステムととるかだけの話だろう。人

        • 三散花自家中毒 ~オンライン短歌市出店ネプリ評鼎談~ 散文編

          ↓ 企画概要と作品pdf ↓ 《宗谷の作》飴町:別れの話ってコメントしづらいんだけど、電話越しの声が冷たいのってやっぱり嘘じゃないよね。普通の会話の時も偽物の声なんだとしても気にならないけど、自分にとってやだな~って話が来ると急に遠く感じるんだよね。これ誰が私に向かって言ってるの? みたいな。 宗谷:自分にとってやだな〜って話がくる時に音があんまりはっきり聞こえなくなるのって、お風呂でのぼせたりして気が遠くなるのに似てない? 現実味がなくって、映画を見てるみたいに急に周り

        第八開『羽』飴町ゆゆき

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        • 第八開『羽』
          2本
        • 第七開『縛る』
          3本
        • 第六開『花/色/本』
          3本
        • 第五開『酒』
          3本
        • 第四開『雨』
          3本
        • 散りそこね
          1本

        記事

          三散花自家中毒 ~オンライン短歌市出店ネプリ評鼎談~ 短歌編

          はじめに※ この記事は、去る2月21日に開催されたオンライン短歌市に際し制作したネットプリント『同人三散花の紙』について、せっかくだし三人で互いに評するやつでもやる?あーね。やる~。となった結果のゆるゆるとした誰得な会話をまとめたものです。お手元に『同人三散花の紙』をご用意の上ご覧ください。なおプリント可能な期間は過ぎてしまいましたが、より多くの方々に読んでいただくためにPDFファイルもご用意しました。期間中プリントするまでに至らなかった方も、よろしければこれを機会にご覧くだ

          三散花自家中毒 ~オンライン短歌市出店ネプリ評鼎談~ 短歌編

          第七開『縛る』.原井

           みなさん、今日も何かに縛られてますか? 今日も何かを縛っていますか?  縛るとか縛られるとか、過激なプレイの話でもはじまるのかと思った方、ちょっと待って。  あいにくと、私はそこには門外漢です。  そうではなくて、もっと精神的な領域の話をしようと思います。  さて、人間の活動を心理的・社会的に縛るものといえば所属する大小さまざまな共同体の明示的あるいは暗示的な規範ということになりましょうか。前者の例は法律や校則、後者の例は職場や家族の「暗黙のルール」ですね。  ただ、まあ、

          第七開『縛る』.原井

          第七開『縛る』飴町ゆゆき

           ある言葉が表す概念がどの程度の広さのものかは、人それぞれだろう。もちろん、暑いだの美しいだの、硬いだの明るいだのといったものは、現象に対するその人の評価に他ならない。学術的な区分を除けば、キツネをイヌだと言おうがオオカミだと言おうが人の勝手なのである。なにせ世界にはチョウとガを区別しない言語まであるということだ。今日の空が晴れなのか曇りなのか我々には名状しがたい別の天気といえるのかなんて、それこそ可能性は人の数だけあるわけで、なんといっても我々が難なく意思疎通しているように

          第七開『縛る』飴町ゆゆき

          第六開『花/色/本』飴町ゆゆき

          「君の作品を読んだけど、まるで泥を塗りたくったみたいだったよ」  そんなことをいきなり言ってきた相手に、わたしはあのときなんと答えてやればよかった?  カッとなったわたしにできたのは、ただ一振りの大きな張り手だけだった。  彼が読んだ作品というのは、つい先日発行されたばかりの文芸部の部誌に、わたしが寄稿したものだった。確かに、読者には作品に自由な感想を持ち、それを述べる権利がある。それはわたしも重々承知しているし、むしろ作者としてそれは感謝してしかるべきことだと思って

          第六開『花/色/本』飴町ゆゆき

          第六開『花/色/本』.原井

          「それじゃあ、教科書次のページ」  金曜日の三時間目、理科の授業。佐伯先生の指示にしたがって、ぼくは教科書のページをめくる。真横から半分にスライスされた眼球のイラスト。先生がプロジェクタを操作して、同じ図が黒板に浮かびあがる。 「みんなの教科書にある図です。さあ、それぞれの部分のはたらきについて、説明していこう」  先生がチョークで書き込みを入れながら説明していく。角膜、虹彩、ひとみ、水晶体、ガラス体、網膜、視神経……。  ここは大事だから太く書いておこう。先生が太チョークに

          第六開『花/色/本』.原井

          第六開 『花/色/本』 宗谷燃

          初めて会ったとき、その人は私のイヤリングを見て、綺麗な水色だと言った。 仕事帰りに立ち寄った本屋で、いつもは見ない児童書のコーナーをその日はなんとなく通った。見るともなしに歩いていると、ふと一冊の本が目に留まった。赤色で描かれた犬や緑色の猫が出てくる、少し変わった色遣いが印象的な絵本だった。作品を見ただけでは作者の人間性は分からないけれど、この物語のように優しい人だといいなと少し思った。 しばらく経ったある日、家の近くのショッピングモールで買い物をしていると突然誰かに肩を

          第六開 『花/色/本』 宗谷燃

          第五開『酒』 宗谷燃

          足元がふわふわしているのは、酔っているからだろうか。固いアスファルトを踏みしめようにも世界はぐるぐる回転して、地球という惑星に生まれ落ちたことを遅まきながら実感する。 寝ている時に見るものと将来へ抱くものが同じ「夢」という言葉なのはおかしい、と誰かが言っていた。考えたこともなかったけど、確かにそうかもしれない。では私が人生の夢とまで言って抱えていたあれは、どっちだったのだろう。もしかしたら水槽の中の脳が見た幻だったのかもしれない。 電気ブランという酒がある。 森見登美彦

          第五開『酒』 宗谷燃

          第五開『酒』.原井

           両親ともに酒飲みで、幼いころから、食卓に料理と共に酒があるのはあたりまえだった。もちろん、子どもは飲まない。飲むのは大人だけではあったが。  とはいえ、酒飲みの親というのは往々にして、子どもに対して「一口飲んでみるか?」と尋ねるものである。大人だけに飲むことが許されている魅惑の液体。平素より親が旨そうに飲んでいるそれを「飲んでみるか?」と訊かれたら、子どもの返事は「うん!」に決まっている。  僕の場合はビールだった。そのように記憶している。不思議なことに泡の立つ、金色の飲み

          第五開『酒』.原井

          第五開『酒』 飴町ゆゆき

          諸君。酒とは、ある種の情報端末である。 そんな目で見るな。わたしはまだ酔ってはいない。 諸君は酒は好きか? わたしは酒が好きだ。また酒もわたしが好きだ。相酒相愛の仲なのだ。切って切られぬビールと唐揚げ、焼酎と塩の組み合わせ。豆腐に醤油を垂らすがごとく、至極確信的でつるりとした全き間柄であるのがわたしと酒だ。ワインにはチーズがよかろう、生ハムもじゃんじゃんと持ってくるがよい。原木でだ!フォークにからめとられたラザーニャが口で踊るのだ。ぐーびりと赤をあおれば、そら次には白の泡

          第五開『酒』 飴町ゆゆき

          第四開『雨』 ねん

          昔から傘と縁がなくて、手に持っていたはずの傘がすぐにどこかへ行ってしまう。皮肉なもので、安物のビニール傘はなくしたことがないのに散々迷って買ったお気に入りの傘はよくなくした。なくすと言ってもどこかへ忘れてくるわけじゃなくて、学校やスーパーの入り口の傘立てに入れて、出てきたらもうないのだ。当然見つかるはずもなく、この次はもう高い傘なんか買わないと決意して泣く泣く諦めるしかなかった。 そんなことが何回かあって、すっかり布の傘を買わなくなった。いつ盗られてもいいようにというわけで

          第四開『雨』 ねん

          第四開『雨』.原井

          「……ぁよざいまーす」  気の抜けたバリトンがラボに響く。寝ぐせだらけの髪に、無精ひげ、よれよれの白衣。 「あ、遅刻ですよ!」 「大丈夫だいじょうぶ。大西はちゃんと時間通りに来たんだろ?」 「あたりまえです。じゃなくて、わたしと山崎さんのふたりシフトなんですから、ちゃんと来てくれないと」 「まあまあ。いまはボスも出張中なんだし。かたいこと言わずに」 「山崎さんが緩すぎるんだと思うけどなあ……」 「なことないよ。――で、サンプルに変わりは?」 「ありません。今日も順調」 「ほら

          第四開『雨』.原井

          第四開『雨』 飴町ゆゆき

          雨に遊ぶのが好きだ。打たれるのは好きじゃない。 雨を眺めるのが好きだ。見ざるを得ないのは耐えられない。 雨の音を聴きながら、静かな部屋で本のページをめくる。お気に入りの大きなカップに淹れたコーヒーを口に含む。ふと顔を上げると、壁の時計が朝の11時を指したところで一瞬停止したような顔をして、やおら動き出すのが見えた。今日という日のなにも予定がないことを噛み締めて、また本へと目を戻す、そんななんでもない休日が好きだ。 いつもあるわけではないけれど、きっといつだって手の届く日常が、

          第四開『雨』 飴町ゆゆき