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第五開『酒』

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記事一覧

第五開『酒』 宗谷燃

足元がふわふわしているのは、酔っているからだろうか。固いアスファルトを踏みしめようにも世界はぐるぐる回転して、地球という惑星に生まれ落ちたことを遅まきながら実感する。
寝ている時に見るものと将来へ抱くものが同じ「夢」という言葉なのはおかしい、と誰かが言っていた。考えたこともなかったけど、確かにそうかもしれない。では私が人生の夢とまで言って抱えていたあれは、どっちだったのだろう。もしかしたら水槽の中

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第五開『酒』.原井

 両親ともに酒飲みで、幼いころから、食卓に料理と共に酒があるのはあたりまえだった。もちろん、子どもは飲まない。飲むのは大人だけではあったが。
 とはいえ、酒飲みの親というのは往々にして、子どもに対して「一口飲んでみるか?」と尋ねるものである。大人だけに飲むことが許されている魅惑の液体。平素より親が旨そうに飲んでいるそれを「飲んでみるか?」と訊かれたら、子どもの返事は「うん!」に決まっている。
 僕

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第五開『酒』 飴町ゆゆき

諸君。酒とは、ある種の情報端末である。

そんな目で見るな。わたしはまだ酔ってはいない。

諸君は酒は好きか? わたしは酒が好きだ。また酒もわたしが好きだ。相酒相愛の仲なのだ。切って切られぬビールと唐揚げ、焼酎と塩の組み合わせ。豆腐に醤油を垂らすがごとく、至極確信的でつるりとした全き間柄であるのがわたしと酒だ。ワインにはチーズがよかろう、生ハムもじゃんじゃんと持ってくるがよい。原木でだ!フォークに

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