幻痛

スマブラをしながら「このままじゃダメだ」と思っていた。別に今のままでも誰に対して恥ずかしいとかは無いのだが、時折発作のように浮かび上がる。かつて抱いた希望の残滓なのだろう。事故で腕や足がなくなると「幻肢痛」と言ってあるはずの無い四肢の痛みを感じることがあるらしいが、腐れたフリーターが感じるこの焦りも、失ったはずの希望の悲鳴だと思っている。

スマブラの話をすると、最近のゲームはすごくて、ダウンロードコンテンツというものがあり、定期的にソフト自体がアップデートされて次々と新しい遊び方が提案される。息が長いゲームだからスマブラ自体は知っている人も多いだろうが、今では80を超えるキャラクターがいて、その中にはバンジョー&カズーイやキングダムハーツのソラがいる。最後のダウンロードコンテンツとして新キャラ登場したのがソラだ。

僕はもうスマブラを楽しんではいない。ログインボーナスがあるスマホアプリを惰性で日常ルーティンに組み込んでいるように、朝起きて、タバコを吸い、他のアプリのログインボーナスを受け取りながらオンライン対戦をしている。勝っても気持ちよくなって次の作業に移れず、負けると頭のヒューズが飛んだようにキレて物に当たる。今住んでいるマンションは音漏れが酷いので、気を使ってコントローラーを頭に打ち付けているが、こんなことを続けていたらいつか死んでしまうだろう。

スマブラでキレると再戦を繰り返し、気づくと太陽が真上を過ぎ、西日になり、沈んでいく。偏頭痛持ちの僕は画面の見過ぎで頭が痛くなる頃合いで頭痛薬を飲み、早めに寝る。
僕は、この時の「ログインボーナスを受け取る間の時間が機械的で暇だからスマブラをやる」ような行動が怖い。ほとほと夢も見飽きて現実を生きる抜け殻のような体に、暇潰しが肺に張り付いたヤニのように生活に染みつく。

アプリのログインボーナスを一通り受け取った時点でスマブラを遊んでいると、その間に耳が空くのでYoutubeを開く。街録チャンネルという、色んな人の人生をインタビューするチャンネルでお笑い芸人の回を見る。Youtubeには珍しく、一つの動画が30分から40分ほどあるので、時間はみるみる溶けていく。
お笑い芸人の人生語りは良い。30歳を過ぎてから花開く人が多いからだ。僕はもう28歳だが、まだ遅くないという希望を与えてくれる。
今の僕は挫折した人にとってちょうどいい口直しになっているだろうが、僕もお笑い芸人の人生をそんな風に使っている。

「まだ大丈夫、まだ大丈夫、まだ大丈夫。」

そんな甘たるくて優しい存在を見て、いつまでも向上心から目を背けている。いつかはしっかりしなきゃいけないし、「今でしょ!」の言葉に突き動かされてこそ健康だとは思っている。「好きにやってるんだから笑って放っておいてくれよ」というのが僕の今の在り方だが、僕だから楽しめているのであって特にオススメもしない。きっと誰がこの体に入っても楽しくないだろう。

スマブラをしながら街録チャンネルを見て、見終わったタイミングでもスマブラは続いている。気軽に始められて一試合の時間も5分とかからないので暇潰しから暇潰しのツナギとして、何も生み出さない漫然とした時間たちを滑らかな「一つの無の時間」へと変えていく。

またスマブラだけをやる時間が数分始まったので、その間にNetflixでアニメを見始めた。
昨日も一昨日も何をしていたのか覚えていない。数種類の擦り切れた手札を繰り返し繰り返し出し続け、どこまで見たかわからないアニメを見ながら、かつて失った希望の残滓が

「誰か殺してくれ」

と願っていた。

集まったお金は全額僕の生活のために使います。たくさん集まったらカジノで一勝負しに行くのでよろしくお願いします。