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田舎の夏へ 行ってきた。

アスファルトコンクリートに蓋をされた都会 とは違った むき出しの夏を 見てきた。

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 初夏。雨は嫌いではない けれど、梅雨はその 向こうに透け見える夏 がチラチラと気になって どうも落ち着かない。曇り空の隙間に 確かな夏空が見えると、いよいよか と今年も訪れる季節に 期待は押さえきれず 膨らむ。天候に 一喜一憂する そわそわとした日々 がしばし続く。

 晴れきらない空は それでも晴天、曇天と脈動するように繰り返し。季節は蠕動する巨大いもむしのように ゆっくりと焦らしながら 進む。その 壮大なエネルギーに感化され 田舎町も断片的に 夏めいてゆく。

 七月も半ばを過ぎ いよいよ世間は夏休み。待っていた とばかりに梅雨明けが発表され、途端に赤みを帯びる週間天気予報と 呼応するように彩度を増す 田舎の風景。季節は真っ直ぐ 澱みなく進んでゆく。

 ついに実体を持ってしまったか という日射しは重力で加速したかの威力。地を灼くほどの熱に 肉体は本能的に涼を求め、濃くなった木陰へ吸い寄せられ。見上げれば 新緑越しの蛍光グリーンの日射しは直接 脳まで冷ます清涼感。

 乾きゆく土の大地から 植物の蒸散から 町の打ち水から 放たれた水蒸気は空気中を満たし。大きく吸い上げれば肺を 血管を 脳、全身へと巡り。細胞の一つひとつを刺激し 自分の肉体が夏仕様に 切り替わってゆく感じが する。

 川辺に立てば、水面に乗り下ってきた冷えた空気が誘うように 足首を撫で。皮膚に纏わる熱気を振りほどき 川面に飛び込んでしまいたい衝動を ねじ伏せつつドロリと流れる時間をやり過ごす。暑い けれどそれがとても嬉しい。

 日の落ち際、田舎の夕暮れは いつだって静かで。音を立てず色を変える空の下、耳をくすぐるように漂ってくる 笛太鼓の祭囃子。あれよ、という間に近づいて 濃い祭りの気配が 濁流的に押し寄せ、一気に夜祭へ と流れ込む。

 壮大な暗闇の中 小さな神社に祭り灯りが じわりと滲み。人出の割りに ややヒソヒソと どこか儚げな雰囲気はこの先の夏を占うようで。こんな祭りが各地で数え切れない程 始まっては終り、うねりを上げ進む季節に紛れ 消えてゆく。

 夏の暑さに未だ 慣れきっていない身体を一日 引き摺った疲労感、また明日 目が覚めても まだまだ夏が続くのだという安堵感と、この先 どこへだって行ける という開放感の混合物を感じながらの 初夏の帰り道は とても心地よい。


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 盛夏。太陽さえ見えていれば 速やかに上がってゆく気温に 朝の空気は早々に湧き上がり。クマゼミの 圧力鍋のような声が過剰に暑さを盛り上げる。天気は何日か連続の洗濯日和。

 今日も くっそあっついでー とうんざりした風の独り言を上げながらも どうにも心躍る夏の午前。別に これから良い事があるわけでも ないだろうけれど、目に付くもの全てが夏々と していると嬉しくなって 汗だくで歩き回る。

 ふらふらとアテなく進み見えてきた海岸線に下り 途端に開ける視界は爽快。波飛沫混じりの やや青んだ爽風がねっとりとした空気を分解し。走り出してしまいたくなりながらも やっぱり あっついのでゆっくり波打ち際を歩く。

 正午を回って気温も最高潮を迎えると、辺りを包む倦怠の感。なんとなく 放物線の頂点における浮遊感、停止感かしら と。いつまでも留まっていそうでしかし 常に時計分均等に進んでいる季節。この所為で夏は短く感じるのかしら とショート寸前の思考回路が 鈍く巡る。

 天頂から 等角速度で転がりだした太陽に倣って 我が身も重力に任せてしまいたくなる 気だるい午後。田舎町は静けさとクッソ暑さに満ち。家々の隙間から蚊取り線香の匂いと、たまに救いのように 風鈴の音が聞こえる。

 青い稲は時々ダルそうに揺れ。それがドロリ吹いた風の所為なのか 蜃気楼の揺らぎか、もしくは僕自身のふらつきなのか 判断も付かないし そんなのどうでもよくなる酩酊感。このドリフターズハイとでも言うべき中毒症状を求め一日歩く。

 呆け頭でふらつき 気が付けば夕方。今日も 静かに進行する田舎の夕暮 に、パンパンと短い破裂音。もう今日は帰って風呂入って寝るだけかな と思っていた矢先の宴の合図。どうしようかな と迷いつつ、まあいいか寄ってくかという いい加減な勢い は夏ならでは。

 適度な賑わいを見せながら も適度な人-人間隔を保てる居心地のよい規模の花火大会。炸裂点の近い花火は 大きさの割りに大げさな音を立てながら ゆったりと、それでいて小気味よい 絶妙のテンポで夜空に放られる。

 花火の後に行われる、極 小さい規模の盆踊り。細々としかし毎年確実に行われ、これからもどうか末永く続いて欲しい と余所者ながら思う。自分の生まれが こういう所だったら どんな夏を過ごしていたろうか と考え巡らす間に現実の夏は進む。


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 晩夏。つい数日前までは あれほどに勢いを感じた季節も 衰えの色が見え。それが季節の衰退なのか、僕自身の消耗の所為なのか判らないけれど。早朝の靄を成す 前日から持ち越した水蒸気は、身体に積もる疲労に似ている。

 遅咲きの向日葵たちは どこか力なく。皆視線をあちこちにやって 下りゆく季節を直視できず 挙動不審な様子。しかし それでもなお気温は上がり、未だ夏の範疇であることに少し安心する。

 夏バテを誘う気だるい空気は 町の隅々まで行き渡り。町の人たちも敢えてその空気に逆らわず、いずれ間違いなく来る 涼の季節をゆるりと待つよう。路地をゆけば 家々の隙間に走る横殴りの日射しに 負けてしまいそう。

 田も少しずつ 金色を帯びて、雲の形状も 夏のエッジの効いた塊感が薄れだし。田舎町の妙な落ち着きは次なる多忙の季節 刈り入れの頃に備え、消耗を避け力を蓄えているように見える。

 町の掲示板に残された とうに過ぎ去った夏祭りを報せる手作りポスターは この町の夏も去り始めたことを意識させ。この先の展望を考えるより これまでの夏を振り返ることが多くなる。

 停滞していた空気が日に日に滑らかに巡り出し。ヒグラシの声に混じるツクツクボウシが勢力を増し、帰宅を促す集落内無線から流れる ふるさと のメロディが強く夏の終りを訴えかけるよう。

 田舎の風景に射す斜め日に 浮かび上がる霞は、十分過ぎるほど エネルギーの満ちた大地から立ち消える 余剰エネルギーのよう。この靄が消え 大気が澄んでしまえば、もう夏も終りだろうな と、秋の 冷ややかな空気を思い出す。 

 一発一発 振り絞る様 全力の花火大会。上がる度に色を変える空は 死の間際に見る走馬灯のような、というアレを連想させ。この夏の風景で いくらか彩りを増したであろう僕の走馬灯に まあこんなトコかな と夏の終りを受け入れる。

 巨大な祭りの様であったひとつの季節の終わりは、やはり祭りのそれと同じく、盛り上がりの割に 淡々と事務作業的に進行し。パタパタと畳まれていくように一晩一晩 宵闇の中に しまわれて小さくなって やがて無くなった。

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 定時を前にやや早退気味に帰っていった今年の夏。もう後姿も見えないほどすっかり秋めいて 頭も冷えた今、冷静に足跡を見返せば ああ あれやってない あそこも行ってない ああいうの見てない と ~残しばかりがくっきり浮かび上がる。
 その踏み残しは また来年 踏んづけに行こうとしても 次 来るのはエネルギーに満ち満ちたまっさらな夏で。きっと やり残したことを 想像で補うまでが夏という季節なのだろうと 納得して秋らめる。


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以下、各画像大きなサイズと、ざっくりとした撮影地が記載されています。

個人宅、人物が写っているものは もっとざっくりした感じ です。

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